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by nicoxz

個人株主提案が急増、企業統治を変える新たな力

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はじめに

日本の株式市場で、個人株主の存在感が急速に高まっています。従来、株主提案といえば機関投資家やアクティビストファンドの専売特許でしたが、近年は個人投資家が自ら企業に対して資本効率やガバナンスの改善を求めるケースが増えています。

2025年の株主総会シーズンでは、アクティビストによる株主提案が過去最多を記録しました。その流れのなかで、プロ顔負けの質の高い提案を行う個人株主も登場しています。個人議案に対する賛成率も上昇傾向にあり、企業経営に対する新たな規律として注目を集めています。

この記事では、個人株主提案が増加している背景、アクティビストとの関係、企業への影響と今後の展望について解説します。

株主提案が過去最多を更新した2025年

アクティビスト活動の活発化

2025年6月の株主総会シーズンでは、アクティビストによる株主提案が過去最多となりました。三菱UFJ信託銀行の集計によると、アクティビストによる提案は137議案に達しています。総会シーズン全体では141社に対して株主提案が行われ、数年前の40〜50社から大幅に増加しました。

日本市場でアクティビスト活動を行うファンドは2024年時点で73社に上り、5年間で約8割も増加しています。日本株への投資額は9兆7000億円規模に達しており、日本は世界的にもアクティビストにとって魅力的な市場となっています。

提案の中身も高度化

株主提案の内容は年々高度化しています。かつてのような単純な増配要求にとどまらず、資本コストを意識した経営への転換、政策保有株式の売却、親子上場の解消、取締役の交代など、企業価値の本質に踏み込んだ提案が増えています。

特に注目されるのが「定款変更議案」の急増です。2024年6月の株主総会では、アクティビストなどが提出した定款変更議案は218本に上りました。勧告的決議の制限を回避するために定款変更の形式をとることで、実質的に経営方針に踏み込む提案が可能になっています。

個人株主が企業統治の新たな担い手に

プロ顔負けの提案を行う個人投資家

個人投資家のなかには、機関投資家やアクティビストファンドに匹敵する水準の株主提案を行う人が出てきています。投資先企業の財務データを詳細に分析し、資本効率やガバナンスの課題を指摘したうえで、具体的な改善策を提案するケースが見られます。

こうした個人株主は、SNSやブログで自らの分析や提案内容を公開し、他の株主の賛同を集める動きも行っています。情報発信によって議論を喚起し、議決権行使に影響を与えるという、従来にはなかった形の株主アクティビズムが広がっています。

アクティビストとの共鳴効果

個人株主の提案がアクティビストファンドの活動と連動するケースも出ています。アクティビストが大株主として声を上げている企業に対して、個人株主が別の角度から同様の問題を指摘することで、企業への圧力が相乗的に高まる構図です。

機関投資家の議決権行使助言会社が個人株主の提案に賛成推奨を出すケースもあり、個人提案の賛成率は上昇傾向にあります。2025年の総会では、栄研化学に対する配当や自社株買いに関する定款変更の株主提案が73.11%の賛成率で可決されるなど、株主提案が実際に通る事例も増えています。

企業統治改革の潮流が後押し

東証の要請とPBR1倍問題

個人株主提案が力を持つようになった背景には、日本のコーポレートガバナンス改革の大きな流れがあります。東京証券取引所は2023年3月に「資本コストや株価を意識した経営」を上場企業に要請しました。PBR1倍割れ企業に対する是正圧力が高まり、企業側もROEやROICといった指標を意識せざるを得なくなっています。

この環境下で、株主還元が不十分な企業に対する個人株主の不満は、正当性のある批判として受け止められやすくなっています。ガバナンス改革の機運が、個人株主の発言力を制度的に裏付けているのです。

自社株買いの急増と株主還元の拡大

2025年の日本企業による自社株買いは、1月から5月までの累計で約12兆円に達し、前年同期比でほぼ2倍のペースとなりました。配当についても、従来の配当性向に代わり、株主資本に対する配当率を示すDOE(Dividend on Equity ratio)を採用する企業が増えています。

企業側が株主還元を強化する姿勢を見せていることは、株主提案の影響力が実際に経営を動かしている証拠といえます。

注意点・展望

短期志向との批判も

株主提案の増加に対しては、短期的な利益を求める動きが企業の長期的な成長投資を阻害するという批判もあります。海外投資家からは「場当たり的な株主還元策は株価に対して意味をなさなくなってきた」との指摘があり、中長期的な企業価値向上に資する投資とのバランスが課題です。

経団連も2025年12月に「持続的な成長に向けたコーポレートガバナンスのあり方」を公表し、目先の資本効率改善に囚われた縮み志向を転換し、成長投資を積極的に進めることの重要性を訴えています。

個人株主提案のさらなる拡大

今後も東証改革やスチュワードシップ・コードの浸透を背景に、個人株主による提案活動は拡大する見通しです。SNSを通じた情報共有や議決権行使の呼びかけが容易になり、個人が集団として影響力を発揮する仕組みが整いつつあります。

2026年6月の株主総会シーズンでは、個人株主提案のさらなる増加が予想されます。企業側も、個人株主との対話を含めたガバナンス体制の整備が急務となるでしょう。

まとめ

個人株主による株主提案は、日本のコーポレートガバナンス改革において新たな推進力となっています。アクティビストファンドと共鳴しながら、資本効率の改善や株主還元の充実を企業に迫る動きは今後さらに拡大するでしょう。

投資家にとっては、投資先企業のガバナンス状況や株主提案の動向を注視することが重要です。企業にとっては、株主との建設的な対話を通じて、短期的な還元と長期的な成長投資のバランスを取ることが求められます。

参考資料:

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