東京コスモス電機、監査等委員一斉辞任の衝撃と背景
はじめに
2025年のクリスマスイブ、電子部品メーカーの東京コスモス電機で異例の事態が起きました。監査等委員を務める社外取締役4人全員が「一身上の都合」で一斉に辞任したのです。
同社では2025年6月の株主総会でアクティビスト(物言う株主)による株主提案が可決され、経営陣が総入れ替えとなっていました。その後、旧経営陣によるTOB(株式公開買い付け)を巡る不適切な行為が発覚し、「パンドラの箱が開いた」と新社長は表現しています。
本記事では、東京コスモス電機で何が起きたのか、そしてこの事例が日本企業のガバナンスにどのような示唆を与えるのかを解説します。
東京コスモス電機とは
老舗電子部品メーカーの概要
東京コスモス電機は、自動車や産業機器向けの可変抵抗器・センサーを主力とする老舗電子部品メーカーです。業界内では技術力に定評があり、安定した事業基盤を持つ企業として知られていました。
しかし近年、同社の株価はPBR(株価純資産倍率)1倍を下回る水準で推移しており、資本効率の改善が課題となっていました。こうした状況は、アクティビストにとって格好の投資対象となる条件を満たしていたと言えます。
アクティビストの参入
2023年9月、シンガポールの投資ファンド「スイスアジア・フィナンシャル・サービシズ(SAFS)」が大量保有報告書を提出し、東京コスモス電機への投資を明らかにしました。
その後、SAFSは株式の20%以上を保有する筆頭株主となり、第2位株主として15%以上を保有する中国系ファンド「成成」と歩調を合わせる形で、経営改善を求める動きを強めていきました。
2025年6月株主総会の衝撃
経営陣の総入れ替え
2025年6月24日に開催された定時株主総会で、前例のない事態が起きました。会社側が提案した岩崎美樹社長を含む取締役5人の選任議案は、賛成率47〜48%で否決されました。
一方、株主提案による取締役選任議案は51〜52%の賛成を集めて可決され、監査等委員を除く取締役が丸ごと入れ替わる結果となりました。アクティビストが投資先企業の取締役会を完全に掌握するという、日本では極めて異例の事態が発生したのです。
門田泰人氏の社長就任
新たに社長に就任したのは、スイスアジア・フィナンシャル・サービシズで最高投資責任者(CIO)を務めていた門田泰人氏です。アクティビストファンドの責任者が投資先の社長に就任するという、これまた前例のない人事でした。
門田氏は1975年生まれで、UBS証券やドイツ証券、ローン・スターなどを経て投資業界でのキャリアを積んできた人物です。就任後、前経営陣について「縮小均衡に陥っていた」と批判し、中期経営計画の抜本的な見直しを進めています。
明らかになった「パンドラの箱」
特別調査委員会の設置と報告
門田社長率いる新経営陣は、過去の経営判断を検証するため特別調査委員会を設置しました。2025年12月4日に公表された調査報告書は、旧経営陣による深刻な不適切行為を明らかにしました。
問題の中心は、TOB(株式公開買い付け)を巡る一連の対応です。旧経営陣は、自社が望む買収相手によるTOBを優位に進めるために、様々な不適切な行為に関与していたことが認定されました。
株価算定への不当介入
最も深刻な問題の一つが、第三者算定機関への圧力です。旧経営陣およびフィナンシャル・アドバイザー(FA)は、株価を算定する第三者機関に対し、より低い評価が出るよう計算前提の変更を強要しました。
具体的には、5年計画をベースにした算定から3年計画への変更を求め、理論株価を意図的に引き下げようとしたのです。算定機関は独立性を維持し、この介入に応じませんでしたが、調査委員会はこの行為を「公正性を揺るがす危険がある不適切な対応」と断じました。
対抗提案の意図的な遮断
報告書が特に問題視したのが、国内企業からの対抗買収提案の取り扱いです。ある国内企業は、当時検討されていた海外企業(Bourns社)による買収価格8075円を上回る、1株8300円という提案を示していました。
しかし旧経営陣は、この対抗提案を株主にほとんど伝えませんでした。調査では、旧経営陣が「時間稼ぎをする」「今は対応しない」と社内で共有していたことが明らかになり、より有利な条件を提示した買収者を意図的に排除していた疑いが浮上しました。
特別委員会への圧力
独立性を確保すべき特別委員会に対する圧力も問題となりました。特別委員会がTOB価格に否定的な暫定答申を示した際、旧経営陣の元専務が「意味不明」「AIが出すような答えだ」と発言したことが記録されています。
こうした一連の行為は、同社の内部統制とガバナンスが機能不全に陥っていたことを示しています。
監査等委員一斉辞任の意味
辞任の経緯
2025年12月24日、東京コスモス電機は監査等委員を務める社外取締役4人全員が同日付で辞任したと発表しました。辞任したのは山本隆章氏、小野正典氏、森田貴子氏、山口鐘畿氏の4人で、理由は「本人の一身上の都合」とされています。
この4人は、2025年6月の株主総会前から監査等委員を務めていた人物です。つまり、旧経営陣時代から在任していた役員であり、特別調査委員会で明らかになった不適切行為が行われていた期間に、監査等委員として会社を監督する立場にあった人々です。
残された課題
監査等委員の一斉辞任により、同社に残る社外取締役は株主提案によって選任された役員のみとなりました。後任人事については「手続きが完了し次第公表する」とされていますが、ガバナンス体制の再構築は喫緊の課題です。
門田社長は「パンドラの箱が開いた」と表現しましたが、この言葉は同社が抱えていた構造的な問題の深さを物語っています。取締役会や監査等委員会が経営陣の判断を適切に監視・制御できていなかった実態が、調査によって白日の下に晒されたのです。
日本企業への示唆
アクティビスト活動の活発化
東京コスモス電機の事例は、日本企業を取り巻く環境の変化を象徴しています。アクティビストの活動は世界的に活発化しており、2025年の企業への提案・要求件数は過去最多を更新しました。
特に日本市場は「アクティビスト天国」とも呼ばれ、投資対象となった企業の株価上昇により、ファンドのリターンは世界平均の1.7倍に達しています。東証が進めるPBR1倍割れ銘柄への改善要請も追い風となり、2026年もアクティビストの勢いは続く見通しです。
ガバナンス強化の必要性
今回の事例が示す最大の教訓は、形式的なガバナンス体制だけでは不十分だということです。東京コスモス電機には監査等委員会が設置され、社外取締役も在任していました。しかし実際には、経営陣の不適切な判断を防ぐことができませんでした。
取締役会での実質的な議論、独立役員による経営監視、そして株主との適切なコミュニケーションが機能してこそ、ガバナンスは本来の役割を果たします。書類上の体制整備だけでなく、運用面での実効性確保が求められています。
今後の見通し
門田社長は現在、東京コスモス電機の社長と自ら立ち上げたアクティビストファンドの代表という「二足のわらじ」を履いています。新ファンドでは、運用資産残高を2年程度で1000億円超に増やす計画を明らかにしており、今後も同様の動きが他社で起きる可能性があります。
アクティビストへの対応に時間をかけたり、小手先の撃退策に終始したりする企業は、より大きな買収リスクに直面する可能性があると専門家は指摘しています。企業価値向上に向けた本質的な取り組みこそが、最も効果的な「防衛策」となるのです。
まとめ
東京コスモス電機で起きた一連の出来事は、日本の企業統治が抱える課題を浮き彫りにしました。アクティビストによる経営陣の総入れ替え、特別調査委員会による不適切行為の発覚、そして監査等委員の一斉辞任という異例の展開は、多くの企業にとって他人事ではありません。
資本効率の低い企業、ガバナンスが形骸化している企業は、今後もアクティビストの標的となる可能性が高いと言えます。株主との対話を重視し、透明性の高い経営を行うことの重要性が、この事例からあらためて示されています。
企業経営者や投資家にとって、東京コスモス電機の事例は貴重な教訓を提供しています。形式的な体制整備にとどまらず、実効性のあるガバナンスをいかに構築するかが、今後の日本企業に問われる課題です。
参考資料:
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