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by nicoxz

ダイエーが首都圏撤退で近畿の地場スーパーへ転換

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はじめに

2026年3月、日本の小売業界に大きな転換点が訪れます。かつて「流通革命」を掲げ、日本小売業の代表格として君臨したダイエーが、首都圏の店舗運営から完全に撤退し、近畿圏の地場スーパーとして再出発することになりました。

イオンによるダイエーの完全子会社化から10年以上が経過した今、なぜこのタイミングで大規模な再編が行われるのでしょうか。背景には、格安スーパーの台頭による競争激化と、イオンにとって長年の課題であった近畿圏攻略への戦略転換があります。

本記事では、ダイエーの再編の全容、イオンの近畿戦略、そして日本のスーパーマーケット業界が直面する構造変化について詳しく解説します。

イオンによるスーパーマーケット事業の大再編

首都圏と近畿圏を分離する新体制

イオンは2026年3月1日付で、首都圏と近畿圏のスーパーマーケット事業を大規模に再編します。首都圏では、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)傘下のマックスバリュ関東を存続会社として、ダイエーの関東事業とイオンマーケット株式会社を吸収合併し、新たに「株式会社イオンフードスタイル」として展開します。

一方、近畿圏では、ダイエーが子会社の食品スーパー「光洋」(大阪府茨木市)を吸収合併し、「新生ダイエー」として再スタートを切ります。これに伴い、ダイエーの本社所在地は東京から創業の地である大阪に移転されます。

再編後の規模と目標

新生イオンフードスタイル(首都圏)は、売上高約1,800億円、126店舗体制でスタートし、2030年度に売上高2,400億円を目標に掲げています。2026年度には東京都23区内を優先して20店舗強のリニューアルを計画しています。

新生ダイエー(近畿圏)は、ダイエーと光洋を合わせた187店舗、売上高約3,000億円規模となります。2030年度の売上高目標は3,300億円で、今後5年間で340億円を投資し、2028年から2030年にかけて計10店舗の新規出店を予定しています。

再編の背景にある競争環境の激変

格安スーパーの関西進出

イオンが今回の大規模再編に踏み切った最大の理由は、格安スーパーチェーンの急速な台頭です。特に注目すべきは、神奈川県を拠点とするディスカウントスーパー「オーケー」の関西進出です。

オーケーは「高品質・Everyday Low Price」を経営方針に掲げ、2024年11月に関西初出店となる「オーケー高井田店」(東大阪市)をオープンしました。2025年には兵庫県に5店舗、2026年には大阪府に7店舗の出店が決定しています。オーケーの二宮社長は「既に様子を見る段階ではありません。関西の中で規模感を出すためには10店舗、20店舗の水準ではありません」と積極的な姿勢を示しています。

トライアルによる西友買収の衝撃

もう一つの脅威は、九州を地盤とするトライアルホールディングスの首都圏進出です。2025年7月、トライアルは約3,800億円で西友を完全子会社化し、合算売上高が1兆2,000億円を超える巨大チェーンとなりました。

トライアルは買収直後から「西友改革」に着手し、2025年11月には「トライアル西友 花小金井店」をオープン。299円の「ロースかつ重」などの激安商品で話題を集めています。さらに、無人運営に近いコンビニ型店舗「トライアルGO」の首都圏展開も加速させています。

連邦制経営からの転換

イオンはこれまで、各地域の傘下企業に自主性を持たせる「連邦制経営」を採用してきました。しかし、格安チェーンとの競争激化により、エリア別の統合と共同調達・システム共通化を進める方針に転換しました。

少子高齢化が進む日本において、首都圏と近畿圏は数少ない成長市場です。一方で、インフレによる消費者の節約志向の高まりと、原材料費・人件費・光熱費の高騰という二重の圧力がスーパーマーケットの経営を圧迫しています。スケールメリットを生かしたプライベートブランド商品の開発、調達の効率化、DXの推進が生き残りの鍵となっています。

ダイエーの歴史と「流通革命」の軌跡

創業者・中内㓛の志

ダイエーを語る上で欠かせないのが、創業者・中内㓛(なかうち いさお)の存在です。中内氏は1922年に大阪で生まれ、神戸で育ちました。太平洋戦争でフィリピンの戦地に赴き、食糧補給が途絶えた山中で壮絶な飢えを経験しました。

この経験が「飢えのない平和で豊かな社会をつくる」という使命感につながり、1957年4月10日、神戸市長田区に「大栄薬品工業株式会社」を設立。「For the Customers―良い品をどんどん安く―」をスローガンに、日本の流通革命を牽引することになります。

栄光と挫折

ダイエーは創業当初から「価格破壊」を掲げて急成長し、1972年には百貨店の三越を抜いて小売業売上高首位に躍り出ました。1980年には日本で初めて小売業界の売上高1兆円を達成し、プロ野球球団やドーム球場、ホテルなどを抱える巨大流通帝国を築き上げました。

しかし、1990年代以降、バブル経済の崩壊や1995年の阪神・淡路大震災によるダメージで経営危機に陥りました。2005年9月、中内氏は再建の行方を見届けることなくこの世を去り、2015年にはイオンの完全子会社となりました。

創業の地での再起

今回の再編により、ダイエーは創業の地である阪神地区を中心とした近畿圏の地場スーパーとして再定義されます。ダイエーと光洋を合わせた187店舗のうち、106店舗(約57%)は神戸市、大阪市、大阪府の北摂・三島エリアに立地しており、その多くが鉄道沿線の駅前や人口密集地という好立地にあります。

イオンにとって近畿圏は長年の「鬼門」とされてきました。地元密着型のスーパーが強い地域特性があり、イオンの総合スーパー形態がなかなか浸透しませんでした。ダイエーを近畿攻略の中核企業に再定義することで、この課題を克服しようという戦略が透けて見えます。

注意点・今後の展望

再編に伴う課題

大規模な再編には当然リスクも伴います。首都圏でダイエーブランドが消滅することへの消費者の戸惑い、従業員の配置転換や人員整理の問題、システム統合に伴う一時的な混乱などが予想されます。

また、近畿圏においても、オーケーをはじめとする格安スーパーとの価格競争は避けられません。2026年3月初旬には「生鮮デリカ拡大・価格強化型」のモデル店舗をオープンする予定ですが、差別化戦略が奏功するかどうかは未知数です。

日本のスーパーマーケット業界の行方

今回のイオン・ダイエー再編は、日本のスーパーマーケット業界全体の構造変化を象徴しています。ECやディスカウントストア、ドラッグストアとの競争が激化する中、中規模チェーンの単独での生き残りは難しくなっています。

今後も業界再編は続くと予想されます。地域密着の強みを維持しながら、調達・物流・ITでスケールメリットを追求するという、相反する要素をいかに両立させるかが各社の課題となるでしょう。

まとめ

ダイエーの首都圏撤退と近畿圏への集中は、単なる縮小ではなく、イオングループの戦略的な選択と集中の結果です。創業者・中内㓛が「流通革命」を掲げて神戸で産声を上げたダイエーが、約70年の時を経て創業の地で再起を図るという展開には、日本の小売業史における一つの帰結を感じさせます。

格安スーパーの台頭、消費者の節約志向、コスト上昇という三重苦の中、新生ダイエーがイオンの近畿攻略の旗艦として成功を収められるかどうか。2026年3月の新体制発足後の動向に注目が集まります。

参考資料:

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