JAL社長が語る航空業界の明暗、国内線の収益構造に課題
はじめに
日本の航空業界は、インバウンド需要の急増という追い風を受けながらも、国内線事業では厳しい収益環境に直面しています。日本航空(JAL)の鳥取三津子社長が語る「空の客足」からは、国際線と国内線で明暗が分かれる航空業界の実態が浮かび上がります。
2025年度の年末年始期間(2025年12月26日〜2026年1月4日)の旅客実績を見ると、国内線・国際線ともに前年並みの水準を維持しました。しかし、その内実は大きく異なります。本記事では、最新の業界データをもとに、航空業界が抱える構造的な課題と今後の展望を解説します。
国際線は北米・長距離路線が牽引
インバウンド需要が好調を後押し
2025年度年末年始のJALグループ国際線は、日本発着合計で22万2923人の旅客数を記録しました。搭乗率は85.5%と高水準を維持しています。特に好調だったのが北米路線で、ビジネスと観光の両面で日本へのインバウンド需要が堅調に推移しています。
2025年の訪日外国人数は、10月までの累計ですでに3,500万人を超えており、過去最高だった2024年の3,686万人を上回ることが確実視されています。この旺盛なインバウンド需要を背景に、JALは国際線ネットワークの拡充を進めています。
路線拡大と新型機材の投入
JALは2025年度の路線計画として、成田=シカゴ線を5月31日より新規開設しました。また、成田=サンディエゴ線、ベンガルール線の増便、関西=ロサンゼルス・ホノルル線の毎日運航化など、長距離路線を中心に供給拡大を図っています。
新型機エアバスA350-1000型機を羽田=パリ、ロサンゼルス線へ順次投入し、サービス品質の向上にも取り組んでいます。ANAグループも国際線旅客数が前年同期比111.1%と好調で、特にハワイ線は年末年始期間として過去最多の2万4,800人を記録しました。
国内線が抱える構造的課題
ビジネス需要の回復遅れ
一方で、国内線は厳しい状況が続いています。JALグループの国内線総旅客数は109万9,465人と前年比99.6%で、搭乗率は86.3%と堅調に見えます。しかし、収益面では大きな課題を抱えています。
国土交通省の資料によると、テレワークの定着により比較的高単価のビジネス需要は減少し、コロナ前水準への回復は見込めない状況です。2023年度の国内線旅客数はコロナ禍前と同水準にまで回復(2018年度比100.9%)しましたが、出張・業務目的の旅客は依然として低迷しています。
ANAは「国内線事業は、コロナ禍前と比較してビジネス需要が回復しておらず、また費用も増加しており、利益を創出することが厳しい状況」との認識を示しています。かつては収益の柱であった国内線事業ですが、需要構造の変化により利益率は大幅に低下しているのです。
不可逆的なコスト増加
国内線の収益悪化には、コスト面の要因も大きく影響しています。為替影響や世界的な燃料需要増、産油地域での治安悪化等により、航空機燃料の価格は大幅に上昇しています。
航空機整備の一部は海外に外注しており、航空機部品の多くは海外から購入しているため、円安の進行は整備費等の増大に直結します。さらに、賃上げや委託費の引き上げ等により人件費・委託費も増加しており、あらゆる費用が不可逆的に上昇しています。
価格転嫁の困難さ
費用増加に対して運賃値上げで対応したいところですが、国内線には構造的な制約があります。新幹線との競合路線では単価が上がりにくく、需要の低い日付・便では訴求力のある価格で販売せざるを得ない状況です。
現状では、国内線の着陸料・停留料・航行援助施設利用料について合計約60%の軽減措置、航空機燃料税の税率軽減(18,000円/klから13,000円/kl等へ)といった政府支援がなければ、実質赤字という厳しい状況が続いています。
航空各社の対応策
機材の小型化と需給適合
縮小傾向にある国内線需要に対応するため、航空各社は機材戦略の見直しを進めています。ANAは100席クラスの新小型ジェット(エンブラエルE190-E2)20機をはじめ、国内線需給適合のための機材を合計46機発注しています。
小型化を推進することで、路線の維持と収益性の改善を両立させる狙いです。JALも東京(羽田)=宮古線にボーイング787-8型機を投入し、「JALファーストクラスサービス」を開始するなど、付加価値向上による収益改善を図っています。
非航空事業の拡大
JALの鳥取三津子社長は、コロナ禍で航空事業が大打撃を受けた経験から、非航空事業の拡大によるレジリエンス(耐性)のある経営を目指す方針を示しています。
2021年度に策定した中期経営計画では、事業構造改革を推進し、2025年度のEBIT(利払い・税引き前利益)目標を2,000億円に上方修正。現状の増加が続けば3,000億円に達する見通しとしています。航空事業だけに依存しない収益基盤の構築が急務となっています。
注意点と今後の展望
空港発着枠の制約
訪日外国人客の増加は追い風ですが、日本の航空会社がその恩恵を十分に享受できていない側面もあります。外国人旅行者は訪日・離日の際に外国の航空会社を利用する傾向が強いためです。
また、成田・羽田・関西の3空港で発着便の約74%を占めており、これ以上の増便には地方空港の活用が不可欠です。空港インフラの制約が、成長の足かせとなる可能性があります。
環境対応コストの増大
今後は持続可能な航空燃料(SAF)の導入など、環境対応コストの増大も見込まれます。航空業界全体でCO2排出量の抑制が求められる中、これらのコストをいかに吸収していくかも経営課題となります。
まとめ
JAL社長が語る「空の客足」からは、航空業界の二極化が鮮明に見えてきます。国際線はインバウンド需要を追い風に好調を維持する一方、国内線はビジネス需要の構造的な減少とコスト増により、「利益なき繁忙」という厳しい状況にあります。
航空各社は機材の小型化や非航空事業の拡大など、収益構造の転換を急いでいます。私たちが日常的に利用する航空サービスの裏側には、このような経営努力があることを理解しておくことが大切です。今後の航空業界の動向に注目が集まります。
参考資料:
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