航空業界の景況感を読む、国際線好調も国内線は苦境
はじめに
年末年始の移動シーズンは、航空業界の景況感を測る重要な指標となります。2025年末から2026年初頭にかけての旅客動向を分析すると、国際線と国内線で明暗が分かれる構図が鮮明になりました。
国際線は北米やハワイを中心にインバウンド需要が牽引し、旅客数は前年を上回る好調ぶりです。一方、国内線は座席利用率こそ改善したものの、ビジネス需要の回復が遅れ、収益面では厳しい状況が続いています。
本記事では、最新の旅客データから航空業界の現状を読み解き、今後の課題と展望について詳しく解説します。
年末年始の航空旅客動向
国際線は2桁増、インバウンドが牽引
2025年12月26日から2026年1月4日までの10日間における航空12社の利用実績が発表されました。
国際線の実績
- 旅客数:71万8,707人(前年比10.5%増)
- 提供座席数:81万4,585席(前年比8.8%増)
- 座席利用率:88.2%(前年比1.4ポイント上昇)
国際線は旅客数・座席利用率ともに好調でした。特に注目すべきは方面別の動向です。
好調だった路線
- 北米 - 前年比16%増と最も高い伸び
- ハワイ - ANAは年末年始期間として過去最多を記録
- 欧州・中東 - 2桁の伸び
- オセアニア - 2桁の伸び
ANAのハワイ線は予約数が2万4,800人に達し、過去最多を更新しました。ビジネスと観光の両面で日本へのインバウンド需要が旺盛であることがわかります。
国内線は微増も収益は厳しい
国内線の実績
- 旅客数:347万218人(前年比1.1%増)
- 提供座席数:398万5,489席(前年比1.7%減)
- 座席利用率:87.1%(前年比2.4ポイント上昇)
国内線は旅客数こそ微増となりましたが、提供座席数が減少する中での増加です。座席を減らしたことで利用率が改善した側面があります。
方面別の動向
- 沖縄方面:前年を上回る予約
- 関西方面:万博効果で好調(GW期間の実績)
- その他路線:需要回復は限定的
国際線好調の背景
インバウンド4,000万人時代の到来
2025年は訪日外国人観光客数が初めて4,000万人を超えた年となりました。2024年の3,686万人(前年比47.1%増)から、さらに増加が続いています。
政府は2030年に6,000万人の目標を掲げており、インバウンド需要は今後も航空業界を支える柱となる見込みです。
長距離路線の新規就航
航空各社は長距離路線の拡充を進めています。
ANAの新規就航
- 2024年12月:イタリア・ミラノ
- 2025年1月:スウェーデン・ストックホルム
- 2025年2月:トルコ・イスタンブール
JALの動向
- 成田発の中国・上海便を毎日1便増便
- 北米・欧州路線の強化
国際航空運送協会(IATA)によると、2025年の世界の航空旅客数は約52億人に達し、航空史上最高水準となる見込みです。売上規模も初めて1兆ドル産業に到達すると予測されています。
円安効果も追い風
円安は日本人の海外旅行を抑制する一方、外国人観光客にとっては日本旅行の割安感を高めます。ドル建ての旅行費用が相対的に安くなり、訪日需要を後押ししている側面があります。
国内線が抱える課題
ビジネス需要の回復遅れ
国内線が苦境に陥っている最大の要因は、ビジネス需要の回復遅れです。コロナ禍でリモート会議が普及し、出張の必要性が低下しました。
この影響は以下のように現れています。
- 休暇期間以外の座席利用率が低迷
- 単価の下落(観光需要は価格競争になりやすい)
- 繁忙期と閑散期の差が拡大
通期業績は赤字の懸念も
2025年度の国内線事業について、航空各社の見通しは厳しいものとなっています。
- JAL:「ギリギリ黒字に乗るか乗らないか」
- ANA:「赤字になると想定している」
売上高こそ過去最高を更新しているものの、国内線事業の収益改善が急務となっています。
アウトバウンドの回復遅れ
日本から出国する日本人(アウトバウンド)の数は1,300万人にとどまり、コロナ前の2019年と比較して約65%の水準です。円安による海外旅行控えが続いており、国際線においても日本発の需要は限定的です。
航空業界が直面する構造的課題
1. 燃料費の高止まり
航空会社の営業費用の約3割を占める燃料費は、原油価格の上昇により大幅な増加が続いています。燃油サーチャージを徴収できない国内線では、この負担が重くのしかかっています。
2. 深刻な人手不足
航空業界全体で人材不足が深刻化しています。
不足している人材
- パイロット
- 整備士
- 空港業務従業員
- 給油作業員
コロナ禍で一度離れた人材が戻らず、「需要はあるのに便を増やせない」という状況に直面している航空会社も少なくありません。
給油作業員の採用難は特に深刻で、海外エアラインが燃料補給を行えず新規就航や増便を見合わせるケースも出ています。
3. 環境対応コストの増大
経済産業省は、2030年から日本の空港で航空機に給油する燃料の1割を「持続可能な航空燃料(SAF)」とするよう石油元売り会社に義務付ける方針です。
SAFは従来の航空燃料と比べて高価であり、航空会社のコスト増要因となります。環境規制への対応は避けられませんが、収益を圧迫する要素として今後重みを増していきます。
注意点・今後の展望
需要の天井が見えてきた可能性
便数と提供座席数が大きく増加しない状況が続けば、訪日外国人観光客数の増加にも限界が見えてきます。インフラ面での制約が成長のボトルネックになる可能性があります。
デジタル化による効率化
航空業界は人手不足に対応するため、デジタル化を加速させています。
- モバイル端末一つで予約から搭乗まで完結
- 顔認証技術を用いた搭乗システムの運用開始
- AIや自動化の活用
これらの取り組みにより、限られた人員でのオペレーション効率化を図っています。
国内線の収益改善が鍵
航空各社にとって、国内線事業の収益改善が経営上の最重要課題となっています。ビジネス需要の本格回復が見込めない中、以下の施策が検討されています。
- 路線の選択と集中
- 運賃体系の見直し
- LCCとの差別化
- 付加価値サービスの強化
まとめ
年末年始の航空旅客動向から、国際線と国内線で明暗が分かれる構図が明らかになりました。国際線はインバウンド需要に支えられ、北米・ハワイを中心に好調です。一方、国内線はビジネス需要の回復遅れから厳しい収益環境が続いています。
航空業界は燃料費高騰、人手不足、環境対応コストという複合的な課題に直面しています。インバウンド頼みの成長には限界もあり、国内線の立て直しが今後の焦点となります。
旅行や出張で航空機を利用する際は、こうした業界動向を踏まえて計画を立てることをおすすめします。
参考資料:
関連記事
JAL社長が語る航空業界の明暗、国内線の収益構造に課題
日本航空の鳥取三津子社長が年末年始の旅客動向を分析。国際線は北米を中心に好調な一方、国内線はビジネス需要の低迷やコスト増で利益確保が困難な状況が続いています。
JTAが那覇-台北定期便を就航、離島誘客に期待
JALグループの日本トランスオーシャン航空が創立59年目にして初の国際定期便を就航。沖縄の離島ネットワークを活かした台湾観光客の誘致戦略と、今後の展望を解説します。
JALが成田ハブ戦略を加速、インドと北米の乗り継ぎ需要へ
JALが成田空港を拠点にインド・北米間の乗り継ぎ需要を狙う戦略を解説。2029年の新滑走路供用開始を見据えた鳥取社長の成長戦略とは。
JR東日本とJAL包括提携:鉄道×航空で地方誘客
JR東日本とJALが旅客分野で包括提携を発表。チケット一体化や旅行商品の共同開発を通じて、インバウンド客の地方誘致を目指します。
JR東日本とJAL包括提携、鉄道と空路の一体チケット実現へ
JR東日本と日本航空が旅客分野で包括提携を発表。鉄道と航空のチケット一体化を2029年度以降に目指し、インバウンド客の地方誘客を加速させます。欧州で先行する事例と今後の展望を解説。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。