企業倒産2年連続1万件超、賃上げ圧力が中小企業を直撃
はじめに
東京商工リサーチは2026年1月13日、2025年の全国企業倒産件数(負債額1,000万円以上)が前年比3%増の1万300件だったと発表しました。2年連続で1万件を超え、2021年の6,030件から約7割増加しています。
企業の新陳代謝が進む背景には、深刻化する人手不足と賃上げ圧力があります。価格転嫁に成功した企業は業績好調で賃上げも進む一方、対応できなかった企業は悪循環に陥り、退場を余儀なくされています。インフレ下で従業員をつなぎとめるための継続的な待遇改善が、企業経営の命運を分けています。
倒産急増の実態
「人手不足」倒産が過去最多
2025年の「人手不足」関連倒産は397件に達し、調査開始の2013年以降で最多を更新しました。前年の292件から35.9%増と大幅に増加しています。
内訳を見ると、「人件費高騰」が152件(前年比43.3%増)、「求人難」が135件(同17.3%増)、「従業員退職」が110件(同54.9%増)と、いずれも前年を上回りました。特に「従業員退職」は1.5倍以上に急増しており、賃金の好条件を求めて離職する動きが加速しています。
小規模企業が7割超
2025年の倒産の特徴は、負債1億円未満が7割超を占め、小規模・零細企業の倒産が目立ったことです。資本金1,000万円未満の企業が倒産全体の6割を占めており、人手不足関連倒産でも同様の傾向が見られます。
小・零細企業はもともと資金力が脆弱で賃金水準も低く、大手や中堅企業の給与水準や福利厚生に並ぶことは容易ではありません。採用や退職阻止が年々難しくなり、受注機会を喪失して業績回復が遅れる悪循環に陥りやすくなっています。
「賃上げ疲れ」という新たな危機
身の丈を超えた賃上げの代償
2025年は「賃上げ疲れ」という言葉が注目を集めました。賃金の好条件を求める退職が相次ぐ中、社員確保や退職阻止のために賃上げが避けられない状況ですが、収益が伴わない無理な賃上げは資金繰り悪化に拍車をかけています。
2025年8月には「人件費高騰」による倒産が前年同月の2.7倍に急増。賃上げは採用や退職阻止に不可欠であるものの、コスト増が収益を圧迫し、経営にとって「諸刃の剣」となっています。
価格転嫁の壁
帝国データバンクによると、コスト上昇を販売価格に上乗せできた割合を示す「価格転嫁率」は2025年7月に39%に低下し、2022年12月以来の4割割れとなりました。特に人件費の転嫁率は32%にとどまり、原材料費の48%と比べて転嫁しにくい状況です。
経済産業省の調査でも、中小企業の48.6%が人件費上昇を価格に転嫁できていないことが判明しています。取引先との力関係や競争環境から、価格への転嫁が困難な中小企業が多いのが実態です。
最低賃金引き上げの影響
過去最大の引き上げ幅
2025年10月から、最低賃金は全国平均1,121円に引き上げられました。2002年の時間給表示導入以来、最大の引き上げ幅(6.3%)となっています。
政府は2029年までに最低賃金1,500円を目指しており、年平均7.3%のペースでの引き上げを計画しています。賃上げは労働者にとって朗報ですが、価格転嫁が進まない中小企業にとっては経営を圧迫する要因となります。
「防衛的賃上げ」の限界
業績が改善しない中で他社との人材獲得競争のために給与水準を高める「防衛的賃上げ」により、利益水準が悪化して倒産に至るケースが増えています。従来の給料水準では人材を採用できず、かといって賃上げすれば収益が悪化するというジレンマに多くの中小企業が直面しています。
業種別・地域別の傾向
サービス業で倒産増加
人手不足倒産を業種別に見ると、サービス業が中心となっています。飲食業、介護事業、運送業など、労働集約型のビジネスモデルを持つ業種で人手不足の影響が顕著に表れています。
特に介護・福祉分野では、慢性的な人手不足に加えて報酬単価の制約があり、賃上げ原資の確保が困難な状況が続いています。
地方の中小企業に打撃
地方の中小企業では、人口減少による労働力不足がより深刻です。都市部への人材流出も重なり、採用難が経営を直撃しています。地域経済を支えてきた企業の倒産は、雇用や取引先への連鎖的な影響も懸念されます。
今後の展望と課題
2026年は「賃上げ疲れ」が本格化か
東京商工リサーチは「2026年は『賃上げ疲れ』が経営に深刻な影響を及ぼす企業を中心に、倒産の増加も危惧される」と指摘しています。賃上げ圧力は今後も続く見通しであり、価格転嫁や生産性向上に成功できない企業は厳しい局面を迎えます。
生き残りのカギ
倒産を回避するためには、価格転嫁の交渉力強化、業務効率化による生産性向上、事業領域の見直しなどが求められます。また、M&Aや事業承継による経営基盤の強化も選択肢となります。
政府も中小企業の価格転嫁を促進するための施策を進めていますが、実効性のある支援が求められています。企業の新陳代謝は経済活性化の一面もありますが、急激な倒産増加は雇用や地域経済への悪影響も無視できません。
まとめ
2025年の企業倒産が2年連続で1万件を超えた背景には、人手不足と賃上げ圧力という構造的な課題があります。価格転嫁に成功した企業と、対応できなかった企業との格差が拡大しており、中小・零細企業を中心に「退場」が加速しています。
2026年以降も賃上げ圧力は続く見通しであり、「賃上げ疲れ」による倒産増加が懸念されます。企業は生産性向上や価格転嫁の取り組みを加速させる必要があり、政府による実効性のある支援策も求められています。
参考資料:
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