地方中小企業が先行する働き方改革:週休4日や親子出勤の最前線
はじめに
「親子出勤」「週休4日の正社員」「昇進は有休取得が条件」——。こうした先進的な働き方改革を実践しているのは、大企業ではなく地方の中小企業です。深刻な人手不足という危機感が、改革に駆り立てています。
育児や介護、高齢といった様々な事情を持つ人が働きやすい環境を整えることで、採用力が高まる好循環も生まれています。大企業がまだ躊躇している制度を、なぜ中小企業が先行して導入できるのでしょうか。
本記事では、地方中小企業における働き方改革の最前線と、その成功要因を詳しく解説します。
週休4日制を導入する企業の実態
大企業にも広がる週休3日・4日制
週休3日制・4日制を導入する企業は増加傾向にあります。ロート製薬は2026年度から、社員が最大で週4日休める制度を導入すると発表しました。正社員の6割にあたる一定等級以上の社員が希望すれば、週休3日または4日を選択できます。
休日は副業や学び直し、社会活動などに充てることができます。勤務日数に応じて業務量や給与は調整されますが、福利厚生や評価制度は週5日勤務の社員と同等に維持されます。
中堅・中小企業の先行事例
佐川急便は2017年から週休3日での正社員募集を開始しています。変形労働時間制を活用し、1日の労働時間を10時間にして週40時間を確保する仕組みです。ファミリーマートも2017年から、親の介護などを理由に週休3日を選択できる制度を全社員に導入しています。
銀行業界では、東邦銀行が2017年10月から希望する行員に週休3日制勤務を許可しました。銀行が週休3日を採用するのは全国でも最初期のケースでした。
週休3日制の3つのパターン
週休3日制には主に3つの働き方パターンがあります。「総労働時間維持型」は、1日8時間を10時間に延ばし、週4日で40時間を維持するもの。「給与維持型」は労働時間を減らしても給与はそのまま。「給与減額型」は休日が増えた分、給与も減額するものです。
どのパターンを採用するかは、企業の業種や従業員のニーズによって異なります。
親子出勤・子連れ出勤の広がり
なぜ子連れ出勤が注目されるのか
2019年4月の働き方改革関連法案施行以降、「働きやすい環境づくり」は中小企業にとっても重要な経営課題となっています。子育て世代にとって仕事と育児の両立は大きな課題であり、「子連れ出勤」を認める企業が増えてきました。
子連れ出勤制度を導入することで、保育園に子どもを預けられないなどの理由で離職せざるを得なかった従業員が働き続けられるようになります。
8年間続けた企業の実践
体験ギフト事業を手がけるソウ・エクスペリエンスは、2012年ごろから約8年間、子連れ出勤を認めてきました。従業員約90人の同社では、パートタイムスタッフ4人が日常的に子どもを連れて出勤しています。
同社は専用の託児室やシッターを用意せず、「小さい組織でなるべくコストをかけずに利益を生むための企業のサバイバル術」として子連れ出勤を位置づけています。子どもを連れてくることで従業員の出力が下がることもあるが、組織にフィットした人材が在籍し続けてくれるメリットの方が大きいと考えています。
子連れ出勤のポイント
子連れ出勤制度を成功させている企業が最も大切にしているのは「オフィスの雰囲気」です。子どもを寛容に受け入れる雰囲気づくりを最優先にすることで、結果的に作業効率も上がり、業績も向上するという事例が多数報告されています。
安全面では、土足禁止エリアを設け、「子ども単体でいていいエリア」「親がいないと入ってはいけないエリア」を分けておくことが推奨されています。
有給休暇取得と昇進を連動させる企業
有給取得を評価に組み込む発想
「昇進は有休取得が条件」という制度を導入する企業もあります。これは、有給休暇の取得を単なる権利ではなく、マネジメント能力の指標として捉える考え方に基づいています。
部下を持つ管理職が有給を取得できないということは、業務の属人化や人員配置の問題があることを示唆します。逆に、しっかり有給を取得できる管理職は、チームのマネジメントができている証拠と言えます。
残業ゼロを評価に反映
新潟県の建築金物メーカーでは、トップが「残業ゼロ」を宣言し、残業ゼロへの貢献度を評価して賞与で還元する制度を導入しました。基幹業務システムの刷新やWEBを活用した見積もりシステムの導入で作業時間を短縮し、残業時間を大幅に削減することに成功しています。
なぜ中小企業が先行できるのか
意思決定の速さ
中小企業が働き方改革で先行できる最大の理由は、意思決定の速さです。大企業では制度変更に多くの部門の合意が必要ですが、中小企業では経営者の判断で迅速に導入できます。
広島県の電装品メーカーでは、社長がトップダウンで制度改革を断行し、残業時間の削減に成功しました。従業員満足度が向上し、採用応募者の質の向上にもつながっています。
人手不足という危機感
地方の中小企業にとって、人材確保は切実な経営課題です。大企業と比べて知名度や給与水準で劣る中、「働きやすさ」で差別化を図る必要があります。
週休3日制や子連れ出勤などの柔軟な働き方は、育児・介護中の人材や副業を希望する人材など、従来は正社員として働くことが難しかった層を取り込むことができます。
小さいからこそできる柔軟性
大企業では全社一律の制度が求められますが、中小企業では個別の事情に応じた柔軟な対応が可能です。「この人にはこの働き方」という個別最適化ができることが、中小企業の強みです。
2026年労働基準法改正の行方
改正案の見送り
厚生労働省が2026年通常国会への提出を検討していた労働基準法改正案は、見送りとなりました。高市政権が「規制緩和」の方向性を示したことで、従来の「規制強化」路線との調整が必要になったためです。
当初検討されていた改正内容には、連続勤務13日上限規制、勤務間インターバル制度の義務化、有給休暇賃金算定の統一などが含まれていました。
中小企業への影響
法改正が見送られたとしても、中小企業を取り巻く「人手不足」や「働き方改革への要請」は変わりません。むしろ、法的義務化を待たずに先行して取り組む企業と、そうでない企業との差が広がる可能性があります。
14日以上の連勤防止やインターバル確保など、従業員の健康を守る取り組みは、企業の採用力強化や定着率向上に不可欠です。
今後の展望
働き方改革は採用戦略
地方中小企業にとって、働き方改革は単なる福利厚生ではなく、人材獲得のための採用戦略です。「会社が融通を聞いてくれて、大事に育ててくれていると感じる。キャリアの選択肢も広がった」という従業員の声は、働き方改革の効果を端的に示しています。
中小企業の強みを活かす
大企業の制度をそのまま導入するのではなく、自社の規模や業種に合った形で働き方改革を進めることが重要です。小さな取り組みからスタートし、従業員のフィードバックを得ながら制度を育てていく姿勢が求められます。
まとめ
地方の中小企業が働き方改革の最前線を走っているのは、人手不足という危機感と、意思決定の速さという強みがあるからです。週休4日制、親子出勤、有給取得と昇進の連動など、先進的な取り組みは従業員の定着率向上と採用力強化という好循環を生んでいます。
法改正を待つのではなく、自社に合った働き方改革を主体的に進める企業が、これからの人材獲得競争を制することになるでしょう。
参考資料:
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