衆院選で揺れる日本国債市場、世界への波及リスクとは
はじめに
2026年2月8日に投開票される衆院選が、国内外の投資家から熱い視線を集めています。高市早苗首相が打ち出した食料品への消費税ゼロ政策をきっかけに、日本国債市場は歴史的な変動を見せました。40年物国債利回りが4%を超え、30年以上ぶりの高水準を記録したのです。
この動きは日本国内にとどまらず、米国債市場にも波及しています。世界最大の対外純資産国である日本の財政政策が、グローバルな資本フローにどのような影響を与えるのか。本記事では、市場分析の両論を整理しながら、投資家が注目すべきポイントを解説します。
日本国債市場の歴史的変動
40年債利回りが4%突破の衝撃
2026年1月、高市首相が衆院選を発表し、食料品への8%消費税を2年間停止する公約を掲げたことで、日本国債市場は大きく動揺しました。40年物国債利回りは4.24%まで急上昇し、2007年の発行開始以来の最高値を更新。これは日本の国債利回りが30年以上ぶりに4%を超えた歴史的な出来事です。
10年物国債利回りも2.38%と1999年以来の高水準に達し、20年物は3.47%、30年物は3.8%を超えました。慶應義塾大学の白井さゆり教授は「債券投資家が反応したのは、高市首相の政策パッケージが、日銀が政策正常化を進めようとしているまさにその時期に、大規模な短期的財政緩和に見えるからだ」と分析しています。
財政拡張の規模と市場の懸念
消費税ゼロ政策のコストは年間約5兆円、日本のGDPの約0.8%に相当します。これに加え、高市内閣は2025年11月に21.3兆円規模の経済対策を承認しました。コロナ禍以来最大の景気刺激策であり、子育て世帯への2万円給付、光熱費補助、食料品クーポンなどが含まれています。
さらに、2026年度予算案は過去最大の122兆円規模となり、新規国債発行額は29.6兆円に達する見込みです。財源の明確な説明がないまま減税策が打ち出されたことで、市場は追加の国債発行を織り込み、売りが加速しました。
世界の債券市場への波及リスク
米国債市場への連鎖反応
日本国債の売りは米国債市場にも波及しました。30年物米国債利回りは4.93%まで上昇し、重要な節目である5%に接近。日本の投資家は2024年11月時点で1.2兆ドル以上の米国債を保有しており、これは海外勢として最大規模です。
日本国内の利回りが上昇すれば、国内投資家は外国債券を売却して資金を本国に戻すインセンティブが生まれます。State Street Investment Managementの固定収益ストラテジスト、ルー・マサヒコ氏は「日本が引き金かもしれないが、この警告は大きな構造的財政赤字を抱える米国やその他の国にも同様に当てはまる」と指摘しています。
グローバル金利の構造変化
長年、日本は世界の「低金利のアンカー」として、グローバルなキャリートレードの資金源となってきました。しかし、日銀が政策金利を現在の0.75%から2028年までに1.25〜1.50%へ引き上げると予想される中、この構造が変化しつつあります。
日本発の金利上昇圧力が世界に広がれば、各国の財政コストが上昇し、財政健全化への圧力が高まる可能性があります。これは単なる日本の問題ではなく、グローバルな債務持続可能性への警鐘といえます。
「減税の影響は限定的」との見方も
格付け機関の評価
一方で、日本の信用格付けは現時点で安定しています。S&Pは「A+」、ムーディーズは「A1」、フィッチは「A」の格付けを維持しており、いずれも見通しは「安定的」です。S&Pは2025年3月、政府の財政改革へのコミットメントを評価して格付けを据え置きました。
格付け機関が日本を支える要因として挙げるのは、幅広い国内投資家基盤、高い国内貯蓄率、そして国際準備通貨としての円の地位です。これらの構造的強みが、財政悪化のショックを吸収するバッファーとなっています。
40年債入札の好調が示すもの
1月下旬に実施された40年物国債入札は、2025年3月以来の高い需要を集め、市場心理の安定に寄与しました。10年物利回りは2.24%程度まで低下し、最悪期からは落ち着きを取り戻しています。
みずほ証券のチーフデスクストラテジスト、大森翔貴氏は入札前に「この入札は、選挙による財政リスクについて投資家がどう感じているかを示す国民投票のようなものだ」と述べていました。結果的に需要が堅調だったことは、市場が財政拡張をある程度許容していることを示唆しています。
注意点と今後の展望
選挙結果による政策の不確実性
世論調査では自民党が議席を伸ばし、単独過半数を獲得する可能性が報じられています。しかし、最大野党と元連立パートナーの合併により、選挙の行方は予断を許しません。選挙結果次第では、財政政策の方向性が大きく変わる可能性があります。
投資家が注視すべきは、消費税停止策の実現可能性と財源の明確化です。選挙公約がそのまま実行されるとは限らず、連立交渉や国会審議の過程で修正される可能性も十分にあります。
日銀の金融政策との綱引き
高市首相の財政拡張路線と、日銀の金融引き締め路線の間には緊張関係があります。首相は1月25日、投機的な市場の動きに対して行動すると表明しましたが、為替介入や金融政策への政治的介入と受け取られれば、市場の信認を損なうリスクもあります。
日銀は1月の政策決定会合で金利を据え置きましたが、今後の利上げペースは財政動向にも左右されます。財政と金融のポリシーミックスがどうなるか、注視が必要です。
まとめ
2月8日の衆院選は、日本の財政政策の方向性を決める重要な転換点となります。市場では「世界の債券市場への波及リスク」を警戒する声がある一方、「減税の影響は限定的で格付けも維持される」との見方も存在します。
投資家にとっては、選挙結果だけでなく、その後の政策実行プロセスを注視することが重要です。日本国債市場の動向は、米国債を含むグローバルな債券市場に影響を与える可能性があり、ポートフォリオ管理においても無視できない要素となっています。
参考資料:
- Japan’s snap elections: The fiscal credibility test and the market playbook | FXStreet
- Bond sell-off accelerates as Trump ramps up tariff threats | CNBC
- Why Japan’s economic plans are sending jitters through global markets | Al Jazeera
- Japanese Bond Selloff: We See Risk of Future Fiscal Constraint but Limited Impact on Equities | Morningstar
- Japan ‘A+/A-1’ Ratings Affirmed; Outlook Stable | S&P Global Ratings
- Japan bond yields surge as fiscal risks rise | Invesco
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