衆院選で減税競争が過熱、市場と財政への影響を読み解く
はじめに
2026年1月23日、高市早苗首相は通常国会召集日に衆議院を解散しました。1月27日公示、2月8日投開票という戦後最短の16日間で行われる選挙戦において、与野党がこぞって「減税」を掲げる異例の展開となっています。
自民党が国政選挙で初めて消費税減税を公約に盛り込んだことで、財政規律をめぐる議論が再燃しています。債務残高がGDP比200%を超える日本において、この減税競争は市場からどう評価されるのでしょうか。
本記事では、各党の経済政策を整理し、財政・市場への影響を多角的に分析します。
高市首相の解散決断と「責任ある積極財政」
解散の背景と狙い
高市早苗首相は2026年1月19日の記者会見で、衆議院解散を「未来投資解散」と名付けました。「高市早苗が内閣総理大臣でよいのかどうか、国民の皆様に決めていただくしかない」と述べ、自身の経済・財政政策への信任を問う姿勢を示しています。
解散の背景には、2025年10月の政権発足以来掲げてきた「責任ある積極財政」路線への国民の審判を仰ぐ意図があります。財政規律派との調整で封印してきた消費税減税についても、選挙を機に本格的に議論を進める考えです。
消費税減税の具体的内容
高市首相は「物価高に苦しむ中所得・低所得の皆さまの負担を減らす」ため、現在軽減税率が適用されている飲食料品について、2年間に限り消費税の対象としないことを表明しました。
もともと高市首相は総裁選以前から「国の品格として食料品の消費税は0%にすべき」と公言していました。昨年9月の総裁選では財政規律派である麻生太郎副総裁からの支援を得るため、この主張を封印していた経緯があります。
連立与党内の温度差
自民党と日本維新の会の連立合意では「消費減税を視野に法制化を検討」との表現にとどめていました。首相の踏み込んだ発言に対し、自民党内からは「連立合意を逸脱しかねない」といら立ちの声が上がっています。
一方、維新側も食料品の消費税率ゼロを掲げており、連立与党として足並みを揃える形となっています。
与野党の減税公約を比較する
自民党・日本維新の会(連立与党)
連立与党は食料品を2年間に限り消費税の対象にしないことを視野に法制化を検討すると連立合意に盛り込んでいます。2026年度与党税制改正大綱では、全業種を対象とした設備投資促進減税の創設なども柱に据えています。
企業や家計の税負担を軽くして経済成長を目指す高市政権の意向を強く反映した内容です。
中道改革連合(新党)
選挙に合わせて結成された新党「中道改革連合」も、食料品の消費税率ゼロを公約に掲げています。与野党が減税を競い合う構図が鮮明になっています。
公明党
公明党は「食料品の消費税をゼロにし、インボイスを廃止する」と訴えています。財源については政府系ファンド(SWF)を創設し、その運用益を充てる案を示しています。
国民民主党
国民民主党は「手取りを増やす」をスローガンに、住民税の控除枠拡大などの減税策を主張しています。電気代に上乗せされる再エネ賦課金の廃止や社会保険料の減免も選挙公約に盛り込んでいます。
給付付き税額控除の検討
政府と与野党は減税と給付を組み合わせる「給付付き税額控除」の制度設計についても協議を進めています。2026年1月にも有識者を交えた「国民会議」を設置し、同年中に具体案をまとめる方針です。所得減税の恩恵が及ばない中低所得層への支援を目指しています。
市場の反応と財政リスク
長期金利の上昇
高市政権発足後、10年債利回り(長期金利)は上昇傾向にあり、節目の2.0%を突破しました。「責任ある積極財政」への市場の警戒感が反映されています。
各党のバラマキ合戦への警戒から、30年債など超長期国債の金利が一時急上昇する場面もありました。市場は財政の持続可能性に警鐘を鳴らしています。
株式市場はポジティブに反応
一方、株式市場は解散総選挙をポジティブなイベントと捉えています。2026年の日経平均株価の予想レンジは4万5800円〜5万9000円とされ、2027年末には6万円到達との見方もあります。
高市新総裁・首相の誕生により、「財政刺激期待による株高」が日本株式市場にも到来したとの分析があります。自民党が選挙で勝利し高市政権が安定すれば、株価上昇の強力なカンフル剤になるとの期待が広がっています。
為替市場は円安圧力
早期の衆議院解散予想が高まった段階から、円安・株高の動きが見られました。自民党が選挙で勝てば高市政権の政策自由度が高まり、インフレ下での財政拡張がさらにインフレ予想を高めることで円安圧力が強まるとの見方があります。
2026年内は160円を超えて160〜165円に進むことも警戒すべきとの指摘もあります。ただし、円安が政治問題化すれば日銀の利上げ加速観測が強まり、円高に転じる可能性もあります。
G7最悪の財政状況という現実
日本の財政はどれほど悪いのか
日本のGDPに対する公債残高の比率は、財政状況が危惧されているイタリアよりも高い水準にあります。先進国の中で公債残高がGDPの200%を超えているのは日本だけです。
財務省の分析によると、コロナ禍からの正常化過程で米国がGDP比で政府支出を17%減らしたのに対し、日本は5%減にとどまりました。日本の財政出動の縮小ペースは米国の3分の1です。
財政ポピュリズムへの懸念
財政規律を無視した赤字国債の発行によって社会保障の充実と減税を同時に主張する「財政ポピュリズム」への懸念が高まっています。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「与野党は物価高対策ではなく、日本経済の活力を取り戻す成長戦略の優劣を競ってほしい」と苦言を呈しています。
IMFも財政規律の回復を求める
国際通貨基金(IMF)は2024年の「財政モニター」で、各国政府に対しエネルギー補助金を含む危機時の財政政策の段階的廃止を直ちに始めるよう求めています。最も脆弱な層を保護しつつ歳出の伸びを抑制するための改革が必要だと指摘しています。
注意点・今後の展望
財政規律の新たな枠組み
高市政権は財政規律の在り方に変更を加える構えを見せています。プライマリーバランス(PB)黒字化の評価期間を単年度から複数年度の枠組みに変更し、政府債務残高対GDP比を主要指標として重視する姿勢です。
2026年6月の「骨太の方針」で新たな財政規律が決定される可能性があり、その内容次第で市場の評価は大きく変わるでしょう。
日銀の利上げ判断
株式市場における最大の波乱要因は「早期の追加利上げ」の確度が高まることです。市場の想定を超えるインフレ進行が実現した場合、日銀は躊躇なく早期利上げに踏み切る可能性があります。
財政拡張によるインフレ加速と日銀の利上げという二つの力がぶつかる局面が訪れる可能性があります。
選挙後の政権安定性
2月8日の投開票で自民党・維新連立与党が過半数を維持できるかが最大の焦点です。与党が安定多数を確保すれば高市政権の政策遂行力が高まる一方、財政規律への市場の懸念も強まる可能性があります。
まとめ
高市首相の「未来投資解散」により、与野党がこぞって減税を掲げる異例の選挙戦が始まりました。消費税減税は家計への恩恵が期待される一方、G7最悪の財政状況を抱える日本において財政規律への懸念を高める要因にもなります。
株式市場は財政刺激期待から強気姿勢を維持していますが、長期金利の上昇や円安進行など、市場は財政拡張のリスクも織り込み始めています。選挙結果と新政権の財政運営次第で、日本経済の行方は大きく変わる可能性があります。
有権者としては、各党の減税公約だけでなく、その財源や経済成長戦略の中身をしっかり見極めることが重要です。
参考資料:
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