衆院選の経費855億円、「民主主義のコスト」の中身を読み解く
はじめに
政府は今回の衆議院選挙の経費として、予備費からおよそ855億円を支出します。2024年の衆院選では815億円程度だったため、資材高騰や人件費の上昇を反映して約40億円の増加です。国民1人あたりに換算すると約700円の負担となります。
選挙は民主主義の根幹を支える営みですが、その運営には膨大なコストがかかります。855億円という金額はどのように使われるのか、自治体の負担はどうなっているのか、選挙にまつわるお金の仕組みを解説します。
855億円の内訳を読み解く
投票所・開票所の運営が最大の支出
衆議院選挙の経費で最も大きな割合を占めるのが、投票所と開票所にかかる人件費です。投票管理者、投票立会人、開票事務従事者などの報酬が総費用の約半分を占めます。
全国に約4万7,000カ所ある投票所の設営・運営に加え、期日前投票所の運営費用も年々増加しています。期日前投票の利用者は選挙のたびに増えており、それに伴い運営日数や投票所数も拡大傾向にあります。
選挙公営にかかる費用
候補者のポスター掲示場の設置、選挙公報の発行・配布、選挙運動用はがきの作成なども国費で賄われます。2014年の衆院選では「公営費」が約251億円、投票所運営等の「一般経費」が約365億円でした。今回はこれらに加え、最高裁判所裁判官の国民審査や選挙違反の取り締まり費用も含まれています。
費用増加の要因
855億円への増加の主因は、資材価格の高騰と人件費の上昇です。投票所やポスター掲示場の設営に使う資材のコストが上がっているほか、選挙事務に従事する人員への報酬単価も上昇しています。また、年度予算の編成時期と重なる2月の選挙は、自治体の事務負担が特に大きくなります。
候補者側にかかるお金
供託金制度の仕組み
衆議院小選挙区に立候補するには300万円の供託金が必要です。比例代表では候補者1人あたり600万円です。供託金は、当選を争う意思のない人が売名目的で立候補することを防ぐための制度です。
有効投票総数の10分の1未満の得票にとどまった場合、供託金は全額没収されます。没収された供託金は国庫に組み入れられ、一般財源として扱われます。供託金没収点を下回ると、選挙運動用自動車やポスター作成などの公費負担も受けられなくなります。
立候補の実際のコスト
選挙期間中の主要経費だけでも1,500万〜2,000万円程度の資金が必要とされています。供託金以外に、事務所の設置費、運動員への報酬、通信費、交通費などがかかります。公費の対象外となる支出も多く、最低でも800万円程度の自己資金は見込む必要があるとされています。
注意点・今後の展望
自治体の負担が増大
衆院選の実務を担うのは各市区町村の選挙管理委員会です。今回は年度末の予算編成時期と重なるため、通常業務に加えて選挙事務を並行して処理する必要があり、自治体職員の負担は例年以上に大きくなっています。
選挙経費は国から地方に交付されますが、実際の執行額が交付額を上回るケースもあり、自治体の持ち出しが生じることもあります。2024年の衆院選では、予備費として計上した815億円に対し、実際の支出は728億円でした。
選挙コスト削減の議論
855億円の選挙費用をめぐっては、「高額療養費制度の負担限度額引き上げを1年間見送れた規模」との指摘もあります。デジタル化による投票所運営の効率化や、投票期間の見直しなど、コスト削減に向けた議論も行われていますが、公正な選挙の実施とのバランスが求められます。
日本の供託金は世界最高水準
日本の供託金(小選挙区300万円)は世界的に見ても高い水準です。立候補のハードルを下げるべきとの意見がある一方、候補者の乱立を防ぐ機能も果たしています。2022年には町村議会議員選挙にも15万円の供託金が新設され、適用範囲は拡大しています。
まとめ
衆院選の経費855億円は、投票所運営の人件費、選挙公報の発行、ポスター掲示場の設置など、民主主義を機能させるための必要コストです。国民1人あたり約700円の負担であり、これを「民主主義のコスト」としてどう評価するかは、有権者一人ひとりが考えるべきテーマです。選挙に行くことが、このコストに対する最大のリターンとなります。
参考資料:
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