食品消費税ゼロ「免税」と「非課税」の違いを徹底解説
はじめに
2026年2月8日投開票の衆議院選挙で、「食料品の消費税率をゼロにする」政策が大きな争点となっています。高市早苗首相は「私自身の悲願」と表明し、与野党を問わず多くの政党が食品への消費税軽減を公約に掲げています。
しかし、党首討論会では「免税か非課税か」という技術的な議論が白熱しました。消費者にとってはどちらも「税金ゼロ」で同じように見えますが、事業者にとっては経営を左右するほどの大きな違いがあります。
本記事では、消費税における「免税」と「非課税」の違いを解説し、それぞれの方式が事業者や消費者にどのような影響を与えるのかを詳しく見ていきます。
消費税の基本的な仕組み
仕入税額控除とは
消費税の仕組みを理解するには、まず「仕入税額控除」を知る必要があります。
消費税は最終的に消費者が負担し、事業者が納税する間接税です。事業者は売上時に受け取った消費税から、仕入時に支払った消費税を差し引いた金額を税務署に納めます。これが仕入税額控除の仕組みです。
例えば、小売店が1,000円(税込1,100円)で商品を仕入れ、2,000円(税込2,200円)で販売した場合を考えます。売上に含まれる消費税200円から、仕入に含まれる消費税100円を差し引いた100円を納税します。
この仕組みにより、流通の各段階で税が累積することなく、最終消費者だけが税を負担する設計になっています。
課税・非課税・免税の違い
消費税には「課税」「非課税」「免税」という3つの区分があります。
課税取引は通常の取引で、10%(軽減税率対象は8%)の消費税がかかります。
非課税取引は、社会政策的配慮や消費に負担を求める税の性質上、課税対象から除外された取引です。土地の譲渡、金融取引、医療、教育などが該当します。非課税取引では消費税を受け取らず、その取引のための仕入にかかった消費税も控除できません。
免税取引は、主に輸出取引に適用される「ゼロ税率」の課税です。売上に対する税額はゼロですが、仕入にかかった消費税は控除・還付が可能です。
「免税」方式の場合
ゼロ税率とは
免税方式(ゼロ税率)とは、売上に対して0%の税率で課税するという考え方です。税率がゼロなので消費者が払う税金はゼロですが、あくまで「課税」の枠組み内にあります。
重要なのは、仕入税額控除が従来通り適用される点です。事業者は仕入時に支払った消費税を、売上に対する税額(ゼロ)から差し引くことができます。結果として、差額がマイナスになるため、還付を受けられます。
事業者への影響
食品を扱う小売店を例に考えます。店舗家賃、水道光熱費、包装資材などの仕入には消費税がかかります。
免税方式であれば、食品の売上はゼロ税率でも、これらの仕入にかかった消費税を控除できます。控除しきれない分は還付されるため、事業者のコスト負担は増えません。
海外の事例:イギリス
イギリスでは食料品にゼロ税率が適用されています。パン、牛乳、野菜、紅茶などの生活必需品には消費税がかかりません。
イギリスの事業者は、ゼロ税率の食品を販売しても、仕入にかかったVAT(付加価値税)の還付を受けられます。そのため、小売価格に税負担が転嫁されることなく、消費者は本当の意味で「税抜き価格」で購入できます。
ただし、イギリスでも食品の線引きは複雑です。寿司やサンドイッチはゼロ税率ですが、フィッシュ・アンド・チップスやハンバーガーには標準税率(20%)が適用されます。温かい状態で提供される食品は標準税率の対象となるためです。
「非課税」方式の場合
非課税の仕組み
非課税方式では、食品の販売自体が消費税の課税対象から除外されます。売上に消費税はかかりません。
しかし決定的に異なるのは、仕入税額控除ができなくなる点です。非課税売上に対応する仕入にかかった消費税は、事業者が自己負担することになります。
事業者への深刻な影響
食品小売業者や飲食店にとって、非課税方式は大きな負担増となります。
店舗家賃、水道光熱費、新聞チラシ広告、包装資材、調理器具など、事業運営に必要な経費には引き続き消費税がかかります。非課税方式では、これらの仕入にかかる消費税を全て事業者が負担しなければなりません。
特に利益率の低い飲食店や小規模小売店では、この負担増が経営を圧迫する可能性があります。専門家の中には「ギリギリで経営していた個人経営の飲食店は閉店に追い込まれる可能性がある」と警鐘を鳴らす声もあります。
価格転嫁の問題
非課税になっても、事業者が価格を下げるとは限りません。
2019年に軽減税率が導入され、食料品の税率が10%から8%に引き下げられましたが、実際に2%値下げされた商品はほとんどありませんでした。消費税法には価格を下げる義務がなく、値決めは事業者の自由だからです。
非課税方式の場合、仕入にかかる消費税を事業者が負担することになるため、むしろ価格が上がる可能性すらあります。事業者が自己負担した消費税分を販売価格に転嫁すれば、消費者の負担は従来と変わらないかもしれません。
各党の政策と現状
与党の立場
自民党と日本維新の会の連立合意には「飲食料品については2年間に限り消費税の対象としないことも視野に法制化の検討を行う」と明記されています。
ただし、免税(ゼロ税率)か非課税かは明確にされておらず、この点が党首討論での争点となりました。
野党の立場
立憲民主党と公明党が結成した新党「中道改革連合」は、恒久的な食料品消費税ゼロを主張しています。財源確保策として政府系ファンドの創設や未活用基金の活用を提案しています。
国民民主党は賃上げ定着まで一律5%への引き下げを主張しています。れいわ新選組は消費税の即時廃止、共産党は5%への減税を経て廃止を目指す立場です。
経済効果の試算
大和総研の試算によると、食料品の消費税ゼロを実施した場合、個人消費の押し上げ効果は年間5,000億円程度です。減税額は年間4兆8,000億円、1世帯あたり平均8万8,000円の負担軽減が見込まれます。
ただし「巨額が必要な割に経済効果は限定的」との指摘もあります。
注意点と今後の展望
制度設計の重要性
消費税ゼロを実現する場合、免税(ゼロ税率)方式と非課税方式では、事業者への影響が全く異なります。
免税方式であれば事業者の負担は増えませんが、還付金が発生するため財政への影響が大きくなります。非課税方式は還付金が発生しない分、財政負担は軽くなりますが、事業者の負担増という問題があります。
インボイス制度との関連
2023年10月から始まったインボイス制度との整合性も課題です。仕入税額控除を行うにはインボイス(適格請求書)が必要ですが、食品がゼロ税率や非課税になった場合の取り扱いは複雑になります。
免税事業者からの仕入れに対する控除割合は、2026年10月から50%に引き下げられる予定です。食品税制の変更とインボイス制度の経過措置が重なる時期となり、事業者の実務負担も懸念されます。
対象品目の線引き
イギリスの例でも見たように、どの食品をゼロ税率(または非課税)の対象とするかの線引きは容易ではありません。
外食は対象外か、テイクアウトはどうするか、加工食品と生鮮食品で分けるか、アルコール飲料や菓子類の扱いはどうするか。こうした細かな制度設計によって、実際の効果は大きく変わります。
まとめ
消費税ゼロ政策において、「免税」と「非課税」は消費者にとっては同じ「税金ゼロ」ですが、事業者にとっては経営を左右する大きな違いがあります。
免税(ゼロ税率)方式では仕入税額控除が可能で、還付も受けられるため事業者の負担は増えません。イギリスなど海外で実績のある方式です。
非課税方式では仕入にかかった消費税を事業者が自己負担することになり、特に飲食店や小規模小売業者への影響が懸念されます。
2月8日の衆院選後、どの方式で制度設計が進むかによって、食品関連事業者への影響は大きく異なります。選挙公約の「消費税ゼロ」という言葉の裏にある具体的な制度設計に注目する必要があります。
参考資料:
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