衆院選と株式市場、オプションが映す投資家の票読み
はじめに
2026年2月8日に投開票が予定されている衆議院選挙を前に、株式市場では選挙後の政治体制が株価を左右するとの見方が強まっています。特に注目されているのが、オプション市場の動向です。オプション価格には取引参加者の先読みが色濃く反映されるため、「市場の票読み」を読み解く重要な手がかりとなります。
ゴールドマン・サックス証券が1月26日に開催した「ジャパン・マクロ・フォーラム」では、国内外の投資家が衆院選の影響について活発に議論を交わしました。本記事では、オプション市場の分析から見える選挙後のシナリオと、投資家が注目するポイントを解説します。
オプション市場が示す選挙後シナリオ
「選挙は買い」のアノマリーと今回の特殊性
日本の株式市場には「衆院選の年は株高」という経験則があります。過去のデータを見ると、衆院解散日から投開票日までの期間に日経平均が上昇した割合は約88%に達しています。過去17回、55年分のデータで15回の上昇が確認されており、統計的にも有意な傾向です。
ただし、注意すべき点もあります。選挙から半年経過後の株価を見ると、上昇と下落が混在しており、「選挙は買い」の効果は比較的短期間にとどまるケースが多いのが実態です。
今回の衆院選は、高市早苗首相が1月23日に解散を表明し、2月8日の投開票までわずか16日間という短期決戦です。解散から投開票までの期間としては戦後最短記録を更新する日程であり、市場参加者にとっても迅速な判断が求められています。
オプション価格から読み取る確率分布
オプション市場では、2月限のATM(アット・ザ・マネー)のコール・プットがいずれも概ね1,500円程度で取引されています。この水準は、市場が選挙結果をめぐる不確実性を一定程度織り込んでいることを示しています。
オプション価格から逆算される確率分布を分析すると、選挙後に日経平均が最高値を更新するシナリオの確率は約4割と見積もられています。これは、与党勝利と政権安定化を織り込んだ「ご祝儀相場」への期待が一定程度存在することを意味します。
勝敗シナリオ別の市場見通し
与党勝利シナリオ:日経平均6万円も視野
市場関係者の間では、自民党が過半数を奪還し、高市政権の基盤が強化される場合、株価の一段高が見込まれています。三菱UFJアセットマネジメントは「衆議院解散に踏み切り、与党の過半数奪還となれば一段高も」と分析しています。
翌年度(2027年3月期)の企業業績はおおむね前期比10%以上の増益が見込まれており、予想PERが現行の約20倍を維持するなら、2026年末に向けて日経平均6万円超えも計算上は可能です。金融機関11社の予想では、2026年末の日経平均は5万3,000円から6万1,000円のレンジに収まっています。
海外投資家の動向も重要です。政策の後押しを好感した海外投資家の買いが入る可能性が指摘されており、「高市トレード」と呼ばれる政権安定期待に基づく投資フローが再び活発化する展開が予想されています。
与党苦戦シナリオ:不確実性による調整リスク
一方、自民党が過半数を確保できない場合や、連立の組み替えが必要になる場合は、市場にとってネガティブな展開が予想されます。政策の不透明感が高まることで、「高市トレード」の巻き戻しが生じる可能性があります。
注目すべきは無党派層の動向です。今回の選挙では「無党派層の投票増が自民党に有利となる構図」との分析があり、投票率が選挙結果を左右する重要な変数になっています。高市政権の支持率は高水準を維持していますが、自民党そのものの支持率が同様に高いわけではなく、獲得議席数の予想にもばらつきがあります。
投資家の対応戦略
オプションを活用したヘッジ手法
選挙結果の不確実性に対応するため、証券各社はオプションを活用した投資戦略を提案しています。SBI証券は、ミニ日経225オプションを用いた両建て戦略(ストラドルの買い)を紹介しています。
具体的には、500万円の日経平均連動ETFを保有している場合、30%を現金化し、その一部(3〜5%相当)でATMのコールオプションを1枚購入する方法です。与党勝利の「ご祝儀相場」を取りにいきつつ、下落リスクにも備える構造になっています。
中長期の視点:米中間選挙の影響も
2026年の株式市場を考える上では、11月に予定されている米国中間選挙の影響も見逃せません。歴史的に中間選挙の年は夏から秋にかけて株式相場が弱含む傾向があり、日本市場にも波及する可能性があります。衆院選後の短期的な相場動向だけでなく、年間を通じた政治イベントリスクを考慮した運用が求められます。
注意点・展望
投資家が注意すべき点は、「選挙は買い」のアノマリーに過度に依存しないことです。過去の実績はあくまで統計的な傾向であり、個別の選挙結果や国際情勢によって大きく異なる展開もあり得ます。
また、AI相場への期待が揺らぐ材料が出た場合、選挙結果にかかわらず株価が調整する可能性もあります。ただし、長期上昇トレンド自体が大きく崩れるリスクは現時点では限定的とみられています。
今後の焦点は、2月8日の投開票結果と、その後の政権運営の方向性です。選挙後の経済対策の内容や日銀の金融政策との整合性が、株式市場の中期的な方向性を決定づけることになるでしょう。
まとめ
2026年2月の衆院選を前に、オプション市場は選挙後の最高値シナリオに約4割の確率を織り込んでいます。与党勝利の場合は日経平均6万円超えも視野に入る一方、過半数割れの場合は調整リスクが意識されます。
投資家にとっては、オプションを活用したヘッジ戦略で不確実性に備えつつ、選挙結果を見極めてからポジションを調整するアプローチが有効です。無党派層の投票率が選挙結果を左右する変数として注目されており、投開票日までの情勢変化にも目を配る必要があります。
参考資料:
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