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by nicoxz

日本企業、レアアース中国依存軽減へ多角的に動く

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はじめに

中国による対日レアアース輸出規制が再び緊張を高める中、日本企業は調達先の多様化と代替技術の開発を急いでいます。2010年の尖閣諸島問題をきっかけに始まった「脱中国依存」の取り組みは、15年を経て着実に成果を上げてきました。

現在、世界のレアアース生産量の約7割は中国が占めています。しかし、日本の中国依存度は2010年の約90%から約60%まで低下しています。JX金属や大手商社による海外調達ルートの開拓、プロテリアル(旧日立金属)による重希土類フリー磁石の開発など、多角的なアプローチが進行中です。本記事では、日本企業のレアアース戦略を詳しく解説します。

2010年の教訓と現在の危機

尖閣問題で露呈した脆弱性

2010年9月、尖閣諸島沖で発生した中国漁船衝突事件をきっかけに、中国は日本向けのレアアース輸出を事実上停止しました。当時、日本のレアアース輸入の約90%を中国に依存しており、自動車、電子機器、風力発電など幅広い産業に影響が及びました。

興味深いのは、中国政府が「日本向け輸出を禁じる」と公式に発表しなかった点です。通関・検査手続きの遅延、書類の不受理などで実質的な禁輸状態を作り出しました。財務省の貿易統計によると、2010年9月の中国からのレアアース輸入量2,246トンが、10月には1,278トンに急落しています。

WTO提訴と日本の勝利

日本政府は米国、EUと共に2012年、中国の輸出規制がWTO協定違反にあたるとして提訴しました。2014年に日本側の勝訴が確定し、中国は規制を撤廃しました。この「レアアース紛争」は、国際的なルールに基づく解決の重要性を示す事例となりました。

2026年の新たな緊張

2026年1月、中国は台湾に関する高市早苗首相の発言に反発し、「デュアルユース(軍民両用)」品目の対日輸出規制を強化しました。これは2010年の危機を想起させるもので、日本の産業界に警戒感が広がっています。

ただし、15年間の備えにより、日本の対応力は格段に向上しています。資源エネルギー庁は国家備蓄を進めており、代替調達先の開拓も進んでいます。中国の輸出規制は「警告射撃」との見方もあり、完全な供給遮断の可能性は限定的とされています。

海外調達ルートの多様化

JX金属のオーストラリア投資

半導体材料などを手がけるJX金属は、中国以外からの調達強化を積極的に進めています。2025年6月、オーストラリアのRZリソーシズが所有するレアメタル権益の一部を取得する契約を締結しました。

南米やオセアニア、南アフリカに資源担当者を配置し、開発可能な鉱床の探索を続けています。丸紅も2025年11月にJX金属が投資したオーストラリアのレアアース鉱床への出資を表明し、日本連合として資源開発に参画しています。

商社による長期的な取り組み

大手商社の双日とJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)は、2011年に共同で日豪レアアースを設立し、オーストラリアのライナス社(Lynas Rare Earths)へ出融資を実施してきました。2023年には総額2億豪ドル相当の追加出資を行い、日本として初めてレアアース権益を確保しました。

ライナス社は2025年5月、中国以外の企業として初めてジスプロシウム酸化物の商業生産に成功しました。ジスプロシウムは電気自動車(EV)モーターに不可欠な重希土類で、この成功は中国依存脱却に向けた大きな一歩です。

豊田通商も以前からインドなど中国以外の国からの調達ルート開拓を進めてきました。2026年にはJOGMECと岩谷産業が参画するフランスのレアアース事業、双日とJOGMECが参画するオーストラリアのガリウム事業が生産開始を予定しています。

G7での国際連携

2026年1月12日、片山さつき財務相は米ワシントンでのG7財務相会合に出席し、有志国で連携してサプライチェーンを整備し、中国への依存度を引き下げることで一致しました。「フレンドショアリング」と呼ばれる同盟国間での供給網構築が加速しています。

オーストラリア、カナダ、米国からのレアアース輸入は、2010年の10%未満から現在は25〜30%に拡大しています。2030年までに中国に依存しないサプライチェーンの構築を目指す動きが進んでいます。

代替技術の開発

プロテリアルの重希土類フリー磁石

プロテリアル(旧日立金属)は、EVの駆動用モーター向けに「重希土類フリー」のネオジム焼結磁石を開発しました。重希土類は軽希土類に比べて埋蔵量が少なく、中国への偏在度が高いため、価格変動リスクと供給リスクが課題でした。

同社は独自の製法による不純物コントロールと組成・プロセスの最適化により、「NMX-F1SH-HF材」と「NMX-G1NH-HF材」の開発に成功しました。NMX-G1NH-HF材は100℃以上の高温環境でも使用可能で、高トルク・高耐熱が必要なEV駆動用モーターにも対応できます。2026年4月には量産工場での試作サンプル対応が可能になる予定です。

フェライト磁石によるレアアースフリー化

さらにプロテリアルは、レアアースを全く使わないフェライト磁石を使ったモーターも試作しています。最高出力約100kWを得られることを確認し、2030年代前半の実用化を目指しています。

フェライト磁石は主成分が酸化鉄のため、ネオジム磁石に比べて安価で供給リスクも低減できます。同社のNMF™15フェライト磁石は「フェライト磁石の中で世界最高レベル」と評価されています。磁石の搭載位置やサイズの最適化により、モーター重量は30%増加するものの、同等の出力レベルを達成できることが確認されています。

リサイクル技術の進展

ソニーやパナソニックは、使用済み製品からレアアースを回収するリサイクル技術に投資しています。2028年までにレアアース需要の15〜20%をリサイクル材で賄えるようになると見込まれています。

循環型経済の構築により、新規採掘への依存を減らすことができます。日本のリサイクル技術は世界的にも高い水準にあり、資源セキュリティの観点からも重要な取り組みです。

国産レアアースの可能性

南鳥島沖の深海採掘

2026年1月、海洋研究開発機構は日本最東端の南鳥島近海で、水深6,000メートルの海底に眠るレアアースの試験掘削を開始しました。海底にはジスプロシウム、イットリウム、ガドリニウムなどの重希土類が大量に埋蔵されていると推定されています。

期待通りに重希土類が含まれていれば、中国依存度を一気にゼロにする「ゲームチェンジャー」になる可能性を秘めています。2027年度中に数十〜数百トン規模の試験採鉱と分離・精製プロセスの検証を行い、早ければ2028〜2030年頃の本格採掘、民間利用開始を想定しています。

長期的なプロジェクト

ただし、深海採掘は技術的なハードルが高く、商業化までには時間がかかります。現時点では研究開発段階であり、2010年から積み上げてきた備蓄や海外投資による供給確保が引き続き重要です。

短期的には備蓄の活用と代替調達先の確保、中期的には代替技術の実用化、長期的には国産資源の開発という多層的なアプローチが求められます。

今後の課題と展望

中流工程の課題

レアアースのサプライチェーンでは、採掘だけでなく製錬・加工(中流工程)も重要です。現在、中国は中流工程でも圧倒的なシェアを持っています。ブラジルの鉱山で採掘されたレアアースでさえ、加工のために中国に送られるケースがあります。

オーストラリアのイルカ・リソーシズは西オーストラリア州エネアバにレアアース精錬所を建設中で、2026年の稼働開始を予定しています。日本を含む同盟国向けのオフテイク(引き取り)契約を条件に、政府から12.5億豪ドルの融資を受けています。

コストと競争力の問題

中国以外での調達やレアアースフリー技術には、コスト面での課題も残ります。中国産レアアースとの価格競争力をいかに確保するかが、実用化の鍵を握ります。

ただし、2010年の危機で明らかになったように、安さだけを求めて特定国に依存することのリスクは大きいです。「経済安全保障」の観点から、多少のコスト増を許容してでも供給の安定性を確保する動きが、官民で進んでいます。

まとめ

2010年の尖閣問題を契機に始まった日本のレアアース脱中国依存戦略は、15年を経て確実に成果を上げています。JX金属や商社による海外投資、プロテリアルによる代替技術開発、南鳥島沖の深海採掘計画など、多角的なアプローチが進行中です。

中国依存度は90%から60%に低下し、2026年の輸出規制強化にも一定の耐性を持つようになりました。しかし、完全な脱依存にはまだ道半ばです。G7での国際連携を強化しながら、技術革新と供給源の多様化を継続的に進めていくことが、日本の産業競争力と経済安全保障を守る上で不可欠です。

参考資料:

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