実質賃金プラス転化の兆し、CPI鈍化が追い風に
はじめに
総務省が2026年2月20日に発表した1月の消費者物価指数(CPI)は、生鮮食品を除く総合で前年同月比2.0%の上昇にとどまりました。2024年1月以来、2年ぶりの低い伸び率です。ガソリン税の旧暫定税率廃止や食料品価格の上昇率鈍化が主な要因です。
物価上昇の鈍化は、長らくマイナスが続いてきた実質賃金のプラス転化を後押しする可能性があります。本記事では、CPIの鈍化要因と実質賃金の見通し、そして持続的な改善に必要な条件を解説します。
2026年1月CPIの詳細分析
2年ぶりの低い伸び率
2026年1月のCPI(生鮮食品を除く総合)は前年同月比2.0%上昇となり、前月の2.3%から0.3ポイント縮小しました。上昇率が2%台前半まで落ちたのは2024年1月以来のことです。
日本銀行が物価安定の目標として掲げる「2%」にちょうど一致する水準であり、過度なインフレ状態から脱しつつあることを示す数字といえます。
鈍化の3つの要因
CPIの伸び率が鈍化した背景には、主に3つの要因があります。
第1に、ガソリン税の旧暫定税率廃止の効果です。2025年12月31日に廃止されたガソリン暫定税率により、ガソリン価格は1リットルあたり約25.1円の引き下げ効果が生じています。これに先立つ補助金の段階的拡充も含め、エネルギー価格のマイナス寄与が拡大しました。
第2に、食料品価格の上昇率鈍化です。前年に高い伸びを記録していた食料品について、ベース効果(前年の高い伸びの反動)により上昇率が縮小しました。
第3に、エネルギーと食料品以外の品目でも物価上昇がやや落ち着いてきたことが挙げられます。
実質賃金の現状と見通し
長期にわたるマイナス圏
日本の実質賃金は2022年以降、長期間にわたりマイナスが続いてきました。2025年も厳しい状況が続き、名目賃金は上昇しているものの、食料品を中心とした物価高がそれを上回るペースで進行していました。
2025年9月には前年比マイナス1.0%、11月にはマイナス2.8%と大幅な落ち込みを記録しました。しかし12月にはマイナス幅がマイナス0.1%まで急速に縮小しており、プラス転化の兆しが見え始めています。
プラス転化のシナリオ
第一生命経済研究所の分析によると、2026年1月の実質賃金はゼロ近傍で推移し、2月から3月にかけてプラス転化する可能性が高いとされています。
これは物価上昇率の鈍化と、2025年春闘で決まった賃上げの効果が持続していることの相乗効果です。名目賃金の所定内給与上昇率は前年比プラス2%台前半から半ばで推移しており、CPIが2%程度まで下がれば、実質賃金はプラスに転じる計算になります。
持続的な改善に必要な条件
2026年春闘の賃上げ動向
実質賃金のプラスを持続させるには、2026年春闘での力強い賃上げが不可欠です。連合は3年連続で「5%以上」の賃上げ目標を掲げており、中小労組向けには「6%以上」を目安としています。
各機関の予測では、2026年春闘の賃上げ率は厚労省ベースで5.45%(2025年実績:5.52%)、連合集計ベースで5.20%(同:5.25%)と、前年並みの高水準が見込まれています。労務行政研究所の調査でも、回答者515人の平均で4.69%と高い予測が出ています。
質の高い成長投資
賃上げだけに依存した実質賃金の改善には限界があります。企業の生産性向上に向けた設備投資やデジタル化投資、人材育成への投資が伴わなければ、賃上げの原資が不足し、持続的な改善にはつながりません。
特に中小企業にとっては、賃上げ分を価格転嫁できるかどうかが重要な課題です。大企業から中小企業への価格転嫁の円滑化が、サプライチェーン全体での賃上げの持続性を左右します。
政策的な物価抑制のリスク
ガソリン税暫定税率の廃止や各種給付金・減税措置は、短期的にはCPIを押し下げ、実質賃金の改善に寄与します。しかし、これらの政策的な物価抑制策に頼りすぎることには注意が必要です。
暫定税率廃止による税収減は年間約1.5兆円と試算されており、財政への影響は小さくありません。一時的な給付や減税による物価抑制効果はいずれ剥落するため、その後に実質賃金が再びマイナスに転じるリスクがあります。
注意点・展望
円安による物価上振れリスク
実質賃金のプラス転化が見えてきた一方で、円安の進行による物価上振れリスクには注意が必要です。為替レートの変動は輸入物価を通じてCPIに影響を与えるため、円安が進めば食料品やエネルギー価格が再び上昇する可能性があります。
4月以降の物価動向
2026年4月以降は、食料品メーカーの価格改定が集中する時期でもあります。円安の影響が原材料コストに反映されれば、CPIの上昇率が再び加速する可能性も指摘されています。実質賃金のプラスが一時的なものに終わるか、持続的な改善につながるかは、今後数か月の物価動向と春闘の結果に大きく左右されます。
日銀の金融政策との関係
物価と賃金の好循環が確認されれば、日銀は追加利上げの判断材料とする可能性があります。金融政策の正常化は長期的には経済の健全性に寄与しますが、短期的には住宅ローン金利の上昇など家計への負担増をもたらす面もあり、慎重な判断が求められます。
まとめ
2026年1月のCPI上昇率が2年ぶりに2.0%まで鈍化し、実質賃金のプラス転化が現実味を帯びてきました。ガソリン税暫定税率の廃止や食料品価格の上昇鈍化が追い風となっています。
ただし、持続的な実質賃金の改善には、春闘での高水準の賃上げ継続、企業の生産性向上投資、中小企業への価格転嫁の円滑化が不可欠です。政策的な物価抑制に頼るだけでは持続性に限界があり、賃金と物価の好循環を実現するための構造的な取り組みが求められています。
参考資料:
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