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by nicoxz

「ふつうの社員」に届かない賃上げの構造的課題

by nicoxz
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はじめに

2026年の春闘が本格化する中、日本の賃金をめぐる構造的な課題が改めて浮き彫りになっています。名目賃金は3年連続で30年ぶりの高水準の伸びを記録していますが、実質賃金は4年連続でマイナスが続いています。2025年の実質賃金は前年比1.3%の減少となり、物価上昇に賃上げが追いつかない状況が続いています。

特に問題視されているのが、管理職や専門職ではなく「ふつうの社員」、つまり企業の中核を担う一般社員への賃上げが十分に行き届いていないことです。本記事では、賃上げの現状と構造的な課題、そして改善に向けた方策を解説します。

名目賃金と実質賃金の乖離が示す問題

賃上げの「実感」がない理由

2025年の名目賃金は前年比2.3%増加しました。大企業の春闘賃上げ率は5.39%と2年連続で5%を超え、数字の上では堅調な賃上げが実現しています。しかし、これらの数字と労働者の実感には大きなギャップがあります。

最大の原因は物価上昇率の高さです。2025年の消費者物価上昇率は3.7%に達し、食料品全体では6.8%の上昇を記録しました。特にコメ価格は67.5%もの急騰を見せ、生活実感としての物価高は統計以上に厳しいものとなっています。

第一生命経済研究所の分析によれば、実質賃金のプラス転化は2026年2月から3月以降と予測されていますが、物価の動向次第では後ずれの可能性もあります。名目賃金が上がっていても、買えるモノやサービスが減っていれば、賃上げの効果は実感できません。

大企業と中小企業の賃上げ格差

賃上げの恩恵が行き届いていない問題は、企業規模による格差にも表れています。2025年の賃上げ率を企業規模別に見ると、従業員1000人以上の大企業と100人未満の中小企業では、依然として大きな差が存在します。しかも、この差は2024年にはさらに拡大しています。

中小企業で「6%以上」の賃上げを見込む企業はわずか9.1%にとどまっています。日本銀行の調査でも、大・中堅企業は2026年度も前年並みの賃上げが可能とされる一方、中小企業については「価格転嫁の遅れ等による収益不芳を中心に、前年並みの賃上げは厳しい」との声が上がっています。

日本の雇用者の約7割は中小企業に勤務しており、中小企業の賃上げが進まなければ、国全体の実質賃金改善は困難です。

定期昇給とベースアップの関係を見直す時

従来の賃上げメカニズムの限界

日本の賃金制度における賃上げは、大きく「定期昇給(定昇)」と「ベースアップ(ベア)」の2つで構成されています。定期昇給は個人の年齢や勤続年数に応じた昇給であり、ベースアップは全社員の基本給を一律に底上げする仕組みです。

高度経済成長期には、「賃上げ原資から定昇原資を引いた残りがベア原資」という計算式が機能しており、定昇とベアを合わせれば一般社員の実質賃金は自然と上昇していました。しかし、この図式はもはや過去のものです。

現在の賃上げの内訳を見ると、定昇の原資確保が優先され、ベア原資が十分に確保されないケースが目立ちます。定昇は企業にとって予測可能な人件費増であり、ベテラン世代の退職で相殺される面もあります。しかしベースアップは全社員が対象であるため、企業の総人件費を大きく押し上げます。

一般社員の処遇改善が急務

パーソル総合研究所の調査によれば、2023年から2025年にかけてベースアップがあった人は69.1%に上りますが、ベースアップでモチベーションが向上した人は約半数の48.6%にとどまっています。半数の社員はベースアップがあっても「十分ではない」と感じているのです。

2026年春闘の賃上げ率見通しでは、管理職が+3.2%に対し一般社員が+4.0%と、一般社員への配分を重視する傾向が見られます。連合も2026年春闘方針として、定期昇給とベースアップを合わせて「5%以上」、ベア分で「3%以上」を3年連続で掲げています。

さらに中小企業向けには「価格是正分」として1%上乗せの「6%以上」を目安としており、企業規模間の格差是正も重要課題となっています。金属労協も月1万2000円以上のベースアップを求める方針を示しています。

注意点・今後の展望

賃上げの持続性を確保するためには、いくつかの課題に注意が必要です。

まず、賃上げの原資確保には生産性向上と適切な価格転嫁が不可欠です。特に中小企業にとって、取引先との価格交渉力の強化は喫緊の課題です。厚生労働省の調査でも、2025年にベースアップを実施した企業は57.8%と約6割にとどまっており、全企業が実施できている状況ではありません。

また、定期昇給とベースアップの二元構造そのものの見直しも求められています。年功序列型の定昇に原資が偏ると、若手や中堅といった「ふつうの社員」への配分が不足します。職務や成果に基づく報酬体系へのシフトも含め、賃金制度全体の再設計が必要な時期に来ています。

2026年の実質賃金がプラスに転じるかどうかは、春闘の結果と物価動向の両方に左右されます。物価上昇率の鈍化が見込まれることはプラス材料ですが、円安の進行による物価の上振れリスクには引き続き注意が必要です。

まとめ

日本の賃金問題の本質は、名目賃金の上昇率ではなく、実質的な生活水準の向上にあります。4年連続で実質賃金がマイナスとなる中、「ふつうの社員」への賃上げは企業の持続的成長にとっても不可欠です。

定期昇給とベースアップの関係を見直し、一般社員への配分を強化すること。中小企業の価格転嫁を促進し、企業規模間の格差を是正すること。これらの構造改革なくして、国民全体が実感できる賃上げは実現しません。2026年春闘の行方を注視するとともに、賃金制度そのものの変革が求められています。

参考資料:

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