クスリのアオキがイオン会長に退任要求、20年の提携に転機
はじめに
ドラッグストア業界で注目を集める動きが報じられています。業界7位のクスリのアオキホールディングスが、社外取締役を務めるイオンの岡田元也会長に対して退任を求めているとされています。
両社は2003年から資本業務提携を続けており、イオンはクスリのアオキ株の約10%を保有する大株主です。この関係に変化が生じれば、ドラッグストア業界の再編にも影響を与える可能性があります。
本記事では、クスリのアオキとイオンの関係の歴史を振り返りながら、なぜこのような事態に至ったのか、そして今後の業界動向について解説します。
クスリのアオキとイオンの20年以上にわたる提携関係
2003年の資本業務提携から始まった協力関係
クスリのアオキとイオンの関係は2003年1月に遡ります。当時、両社は商品の共同開発などを目的とした業務提携・資本提携を締結しました。イオンは同社の株式を取得し、第2位株主となりました。
この提携により、クスリのアオキはイオングループのドラッグストア連合「ハピコム」に加盟することになります。ハピコムは、プライベートブランド商品の共同開発やスタッフの教育・研修での連携を行うグループで、ウエルシアやツルハなど有力チェーンが参加しています。
株式売却と再取得の経緯
イオンとクスリのアオキの資本関係は、一度途切れた時期がありました。2016年、イオンはダイエーの年金積み立て不足を解消するため、保有していたクスリのアオキ株を退職給付信託に売却しています。
しかし2021年、イオンは再びクスリのアオキの筆頭株主となりました。現在は約10%の株式を保有し、岡田元也会長が2014年から社外取締役を務めています。
イオンにとってのクスリのアオキの位置づけ
イオングループにおいて、クスリのアオキは独特の位置づけにあります。ウエルシアホールディングスはイオンの連結対象となる上場子会社であり、ツルハホールディングスは持分法適用関連会社です。一方、クスリのアオキは株式保有比率が10%程度にとどまり、より緩やかな関係にあります。
この「ゆるやかな連帯」はイオンの伝統的なグループ経営手法ですが、経営の独立性を重視するクスリのアオキとの間で、今回の摩擦が生じた可能性があります。
クスリのアオキの急成長と独自路線
売上高5000億円を達成した成長企業
クスリのアオキは近年、目覚ましい成長を遂げています。2025年5月期の連結決算では、売上高が前期比14.6%増の5,014億円、営業利益が同43.3%増の266億円を記録しました。
これは、中期経営計画「ビジョン2026」で掲げていた売上目標5,000億円を1期前倒しで達成したことを意味します。店舗数も2025年3月に1,000店舗を突破し、2025年5月期末時点で1,036店舗に達しています。
食品強化による差別化戦略
クスリのアオキの特徴は、食品(フード)部門の積極的な強化にあります。商品部門別売上高では、フードの構成比が51.3%に達し、初めて50%を超えました。売上実績も前期比21.7%増の2,572億円と、全体を大きく底上げしています。
この「フード&ドラッグ」戦略により、人口5,000人程度の小商圏でも成立するビジネスモデルを構築しています。食品スーパーのM&Aも積極的に進めており、期中には72店舗を獲得しています。
青木宏憲社長のリーダーシップ
クスリのアオキの成長を牽引するのは、青木宏憲社長です。創業家出身の同社長は2014年に就任し、積極的な出店戦略とM&Aを推進してきました。2024年8月にはストックオプションを行使し、保有比率を12.12%に引き上げて筆頭株主となっています。
経営の独立性を重視する姿勢は、今回の社外取締役退任要求にも表れていると考えられます。
ドラッグストア業界の再編と今後の展望
業界再編が加速する中での判断
ドラッグストア業界では、大型再編が相次いでいます。2024年12月には、ツルハホールディングスとウエルシアホールディングスが経営統合し、売上高約1.5兆円規模の巨大グループが誕生しました。
こうした環境下で、クスリのアオキは独立路線を選択する方向性を示しているとも解釈できます。イオングループ内での再編圧力から距離を置き、自社の成長戦略を優先する狙いがあるかもしれません。
ハピコム連合との関係はどうなるか
仮に岡田会長が社外取締役を退任したとしても、クスリのアオキがハピコムから離脱するとは限りません。ハピコムは資本関係がなくても加盟できる連合体であり、プライベートブランド商品の仕入れや研修プログラムなど、実務的なメリットは継続する可能性があります。
ただし、両社の関係が冷え込めば、今後のM&Aや業務連携において影響が出ることは避けられないでしょう。
投資家や市場の反応
クスリのアオキは東証プライム市場に上場しており、ガバナンスの動向は投資家から注目されています。2024年にはアクティビスト(物言う株主)から経営陣の解任を求める株主提案を受けるなど、株主との対話も課題となっています。
今回の動きが同社の企業価値向上につながるかどうか、市場は注視しています。
注意点・展望
両社の公式発表に注目
本記事執筆時点では、クスリのアオキとイオンの両社から公式な発表は行われていません。報道内容が事実であれば、今後の株主総会や取締役会での議論を経て、正式な決定がなされることになります。
長期的な業界動向を見据える必要性
ドラッグストア業界は、少子高齢化による医療・介護需要の拡大、食品強化による業態変化、そして大型再編による寡占化が進んでいます。クスリのアオキの判断は、こうした長期的なトレンドの中で評価される必要があります。
単独での成長を目指すのか、将来的に別のパートナーシップを模索するのか、同社の戦略は引き続き注目されます。
まとめ
クスリのアオキがイオン岡田会長に社外取締役退任を求めているとされる報道は、2003年から続く両社の提携関係に転機が訪れていることを示唆しています。
売上高5,000億円を達成し、独自の成長路線を歩むクスリのアオキにとって、経営の独立性確保は重要なテーマです。一方、ドラッグストア業界では大型再編が進んでおり、単独での競争力維持には課題も伴います。
今後の正式発表と、両社の戦略的判断に注目が集まります。
参考資料:
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