中古億ションの相続税評価と時価乖離の実態を解説
はじめに
東京都心部では「中古億ション」と呼ばれる1億円を超える中古マンションが珍しくなくなっています。しかし、こうした高額マンションを相続する際、相続税の計算基準となる「評価額」と実際の市場価格(時価)には大きな乖離が存在します。
国税庁の調査によると、マンションの相続税評価額と市場価格の乖離率は平均2.34倍に達しており、戸建て住宅の1.66倍と比較しても顕著な開きがあります。この乖離を利用した「タワマン節税」が問題視され、2024年1月から新しい評価ルールが適用されました。さらに2026年度税制改正大綱では、相続直前の不動産購入による節税にも規制が強化される見込みです。
本記事では、中古億ションの相続税評価の仕組みから最新の改正内容、今後の対策まで詳しく解説します。
マンション相続税評価の基本と時価乖離の実態
従来の評価方法と問題点
不動産の相続税評価額は、土地部分を国税庁が公表する「路線価」、建物部分を市区町村が算出する「固定資産税評価額」をもとに計算されてきました。路線価は公示価格の約80%、固定資産税評価額は時価の50〜70%程度に設定されているため、不動産全体では時価の6〜8割程度の評価となるのが一般的です。
しかし、タワーマンションの高層階では事情が異なります。眺望やステータス性から市場価格が極めて高額になる一方、相続税評価額は低層階とほぼ同じ計算方法が適用されていました。その結果、実勢価格の5割以下という大幅な乖離が生じるケースもありました。
2022年最高裁判決の衝撃
この問題が社会的に注目されるきっかけとなったのが、2022年4月19日の最高裁判決です。この事案では、相続発生直前に約14億円の貸付用マンションを借入金で取得し、路線価評価(約3億円)と債務控除の組み合わせで相続税を0円としていました。
最高裁は、路線価評価を画一的に適用することが「実質的な租税負担の公平に反する」と判断し、国税庁の総則6項(路線価以外の評価方法を適用できる規定)の適用を認めました。この判決により、極端な節税スキームは否認されるリスクが明確になりました。
乖離率の実態データ
国税庁の有識者会議で公表された平成30年の実態調査では、以下の結果が報告されています。
- マンション:市場価格と評価額の乖離率 平均2.34倍
- 戸建て住宅:市場価格と評価額の乖離率 平均1.66倍
つまり、1億円で売却できるマンションの相続税評価額が約4,270万円にとどまるケースが平均的だったということです。高層・築浅のタワーマンションでは、この乖離がさらに大きくなる傾向がありました。
2024年1月からの新評価ルール
通達改正の概要
国税庁は2023年10月に「居住用の区分所有財産の評価について」という法令解釈通達を公表し、2024年1月1日以降の相続・贈与から新しい評価方法を適用しています。この改正により、多くのマンションで相続税評価額が引き上げられることになりました。
新ルールの基本方針は、マンションの相続税評価額を最低でも市場価格の60%以上にするというものです。従来の評価方法で算出した金額に「区分所有補正率」を乗じて計算します。
評価乖離率を決める4つの要素
新しい評価方法では、以下の4つの要素から「評価乖離率」を計算し、補正が必要かどうかを判定します。
- 築年数:築年数が新しいほど市場価格との乖離が大きい(補正率が高い)
- 総階数:建物全体の階数が多いほど乖離が大きい
- 所在階:上層階であるほど乖離が大きい
- 敷地権割合:土地の持分が小さいほど乖離が大きい
これらの要素を計算式に当てはめ、評価水準が0.6未満の場合は、評価額が市場価格理論値の60%に引き上げられます。
計算方法の具体例
新しい計算方法は以下の手順で行います。
- 評価乖離率を計算(4つの要素を使用)
- 評価水準を算出(1÷評価乖離率)
- 区分所有補正率を決定
- 従来の評価額×区分所有補正率=新評価額
例えば、市場価格1億円のタワーマンション(築10年、30階建ての25階)で、従来の評価額が4,000万円だった場合、新ルールでは6,000万円程度に引き上げられる可能性があります。国税庁のホームページでは、Excelの計算ツールが公開されており、簡易的な試算が可能です。
適用除外となるケース
以下のマンションは新ルールの適用対象外となります。
- 事業用テナント物件など居住用以外のもの
- 区分建物登記がされていない一棟所有の賃貸マンション
- 地階を除く総階数が2階以下の低層集合住宅
- 一棟の区分所有建物で居住用専有部分が3室以下かつ親族居住用のもの(二世帯住宅など)
2026年度税制改正でさらに規制強化
5年ルールの導入
2025年12月に公表された2026年度(令和8年度)税制改正大綱では、相続直前の不動産購入による節税に対して新たな規制が盛り込まれました。
具体的には、相続発生前5年以内に購入した賃貸用不動産について、従来の路線価ベースではなく購入時の価格をベースに相続税を算定するというものです。購入時価格に地価変動を考慮した上で、その8割で評価されることになります。
不動産小口化商品への影響
不動産小口化商品(任意組合型など)については、取得時期を問わず恒常的に時価評価へ移行する方針が示されています。これにより、相続対策として不動産小口化商品を活用するスキームも実質的に封じられることになります。
適用時期と対応
新ルールは令和9年(2027年)1月1日以後に相続で取得する財産から適用される予定です。そのため、不動産売却を検討している方は、2026年中に売却を完了させるか、2027年以降にするかで手取り額が大きく変わる可能性があります。
中古億ションの相続対策
築年数による評価減
すでにタワーマンションを所有している場合、将来的に評価額を下げる最も有効な方法は「時間の経過」です。築年数は1年経過するごとに3.3%ずつ評価額が減少する計算となります。長期保有を前提とした相続対策であれば、この効果は無視できません。
現預金との比較
新しい評価方法でタワマン節税の効果は縮小しましたが、資産を預貯金で保有するよりは評価額を下げることができます。預貯金は額面どおりの評価となりますが、不動産は新ルール適用後も市場価格の6割程度に評価されるためです。
専門家への相談
中古億ションの相続税評価は複雑な計算が必要であり、個別の状況によって対策も異なります。相続税の試算や具体的な対策については、相続税に詳しい税理士への相談をお勧めします。
まとめ
中古億ションの相続税評価と時価の乖離問題は、2024年の通達改正で一定の是正が図られ、2026年度税制改正大綱ではさらなる規制強化が予定されています。従来のような大幅な節税は難しくなりましたが、不動産を活用した相続対策自体が無効になったわけではありません。
重要なのは、最新の税制を正確に理解し、長期的な視点で資産承継を計画することです。特に相続発生が近い場合や、高額な不動産を保有している場合は、早めに専門家に相談して具体的な対策を検討することをお勧めします。
参考資料:
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