NISA定期居住確認が廃止へ、投資家の手続き負担を大幅軽減
はじめに
NISA(少額投資非課税制度)口座を持つ投資家にとって、煩わしい手続きの一つだった「定期居住確認」が廃止されることになりました。金融庁は2026年度税制改正において、金融機関に義務付けていた10年ごとの居住確認制度を見直し、より柔軟な運用に変更します。
現行制度では、口座開設から10年後、その後は5年ごとに郵送などで住所確認が必要でした。この確認が遅れると新規買い付けが停止されるリスクがあり、長期の資産形成を目指す投資家にとって大きな懸念材料となっていました。
本記事では、今回の制度改正の背景、具体的な変更内容、そして投資家が知っておくべきポイントを詳しく解説します。
定期居住確認制度とは何だったのか
10年ルールの仕組み
これまでNISA制度では、金融機関は口座開設者に対して定期的な居住確認を行う義務がありました。具体的には、NISA口座に初めてつみたて投資枠を設けた日から10年が経過した時点で、顧客の氏名と住所を確認する必要がありました。その後も5年ごとに同様の確認が求められていました。
確認方法は主に郵送で行われ、金融機関から届いた書類に記入して返送するという流れでした。この手続きは一見簡単に思えますが、実際には多くの問題を抱えていました。
なぜ居住確認が必要だったのか
NISAの非課税恩恵を受けるためには、日本国内に居住していることが条件となります。海外に移住した場合、原則としてNISA口座は利用できなくなります。この居住要件を担保するために、定期的な確認が制度化されていたのです。
会社命令による海外転勤など、やむを得ない理由がある場合は「非課税口座継続適用届出書」を提出することで最長5年間は口座を維持できる特例もありますが、個人的な理由での海外移住では口座を閉鎖する必要がありました。
確認遅延がもたらすリスク
最大の問題は、居住確認が完了しない場合のペナルティでした。確認期間内(基準経過日から1年以内)に手続きが完了しないと、新たなNISA口座への投資信託等の受け入れができなくなる可能性がありました。
長期投資を前提としたつみたてNISAでは、毎月の積立が突然停止されるリスクがあったのです。引っ越しで郵便物が届かなかったり、書類を紛失したりした場合、意図せず投資計画が中断されてしまう恐れがありました。
2026年度税制改正での変更内容
定期確認から届出制へ
今回の改正により、金融機関が定期的に行っていたNISA口座開設者の住所確認義務が廃止されます。代わりに、住所等に変更があった場合は、口座保有者自身が「非課税口座異動届出書」を金融機関に提出する届出制に移行します。
これは、確認の主体が金融機関から投資家本人に移ることを意味します。住所変更があれば自ら届け出る必要がありますが、変更がなければ特に何もする必要はありません。
届出を怠った場合の対応
住所変更の可能性がある投資家から一定期間内に届出書の提出がなかった場合には、つみたて投資枠等において新規の買い付けや移管を停止する運用上の対応が行われます。
ただし、これは現行制度のような一律の定期確認ではなく、金融機関との通常のやりとりの中で住所が確認できれば問題ありません。たとえば、取引報告書の送付や各種通知が正常に届いていれば、居住実態は確認されていると見なされます。
改正のスケジュール
この改正内容は2025年12月26日に閣議決定された税制改正大綱に盛り込まれました。施行は2026年中を予定しており、具体的な開始時期は今後発表される見込みです。
投資家へのメリットと実務上の影響
手続き負担の大幅軽減
最も大きなメリットは、定期的な書類対応が不要になることです。特に長期投資家にとっては、10年後、15年後、20年後と繰り返し発生する手続きがなくなるのは大きな負担軽減となります。
現在、NISA口座数は2025年6月末時点で約2,696万口座に達しています。政府目標の2027年12月末までに3,400万口座という水準に向けて増加を続けており、今回の改正はこれら多くの投資家にとって朗報といえます。
取引停止リスクの解消
住所確認の遅れによる突然の取引停止リスクがなくなることで、投資家は安心して長期の積立投資を継続できます。「うっかり書類を出し忘れて積立が止まっていた」という事態を心配する必要がなくなります。
特につみたてNISAは20年間の長期非課税保有が可能な制度です。その間に2回の定期確認(10年後と15年後)が必要だったものが、改正後は自己申告のみで済むようになります。
金融機関側のコスト削減
投資家だけでなく、金融機関側にとってもメリットがあります。数百万〜数千万単位の口座に対して定期的に郵送物を送り、回収・管理するコストは膨大でした。この事務負担が軽減されることで、金融機関はより顧客サービスの向上に注力できるようになります。
今後も必要な手続きと注意点
住所変更時の届出は必須
改正後も、住所が変わった場合には速やかに「非課税口座異動届出書」を提出する必要があります。届出を怠ると、最悪の場合は取引停止措置が取られる可能性があるため、引っ越しの際は忘れずに手続きを行いましょう。
届出の際には本人確認書類(住民票の写し、マイナンバーカードなど)の提示が必要となります。複数の金融機関でNISA口座を開設している場合は、全ての金融機関に届出が必要です。
海外転勤時の対応は従来通り
海外赴任などで非居住者となる場合の扱いは、今回の改正では変わりません。1年以上海外に滞在する場合は原則としてNISA口座は利用できなくなります。
ただし、会社命令による海外転勤であれば、出国前に「非課税口座継続適用届出書」を提出することで最長5年間は口座を維持できます。この特例を利用する場合は、常任代理人の設定など出国前の手続きが必要です。
なお、金融機関によって海外赴任時の対応は異なります。楽天証券や野村證券、みずほ証券などは継続保有に対応していますが、マネックス証券など一部の金融機関では対応していないため、事前に確認しておくことをお勧めします。
金融機関変更時の注意
NISA口座の金融機関を変更する場合、現在の住所がご登録内容と異なると「勘定廃止通知書」を受け取ることができません。金融機関の変更を検討している方は、まず住所変更を済ませてから手続きを進める必要があります。
2026年度税制改正におけるその他のNISA関連改正
未成年へのつみたて投資枠拡大
今回の税制改正では、定期居住確認の廃止以外にも重要な変更があります。最も注目されているのは、つみたて投資枠の対象年齢撤廃です。
現行制度では18歳以上が対象でしたが、改正後は0歳から17歳までの未成年にも新たにつみたて投資枠が設けられます。年間投資上限額は60万円、非課税保有限度額は600万円となります。
対象商品の拡充
つみたて投資枠の対象となる投資信託の要件も緩和されます。これまで「主に株式に投資するもの」に限られていましたが、「主に株式又は公社債に投資するもの」に変更されます。これにより、債券中心のファンドやバランス型投資信託など、リスクを抑えた商品も選択肢に加わります。
まとめ
NISAの定期居住確認廃止は、長期投資家にとって歓迎すべき改正です。10年ごとの煩雑な手続きがなくなり、確認遅延による取引停止リスクも解消されます。
ただし、住所変更時の届出義務は残りますので、引っ越しの際は忘れずに手続きを行いましょう。また、海外赴任時の特例制度など、居住要件に関する基本的な仕組みは変わりませんので、該当する方は従来通りの対応が必要です。
2026年度税制改正では、未成年へのつみたて投資枠拡大や対象商品の拡充など、NISA制度全体の利便性向上が図られています。これらの改正を活用して、より効果的な資産形成を進めていきましょう。
参考資料:
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