中古億ション相続で知るべき評価額と節税特例
はじめに
東京23区の中古マンション平均価格が2025年に初めて1億円を突破し、築20年超の物件でも「億ション」となる時代が到来しています。親から自宅マンションを相続するケースは今後ますます増加しますが、相続税は時価ではなく「評価額」で計算されるため、その仕組みを理解しているかどうかで税負担は大きく変わります。
相続税の課税対象となる割合はすでに約10%に達し、東京都では18.7%と全国最高水準です。自宅が最も高額な財産というケースでは、不動産の評価方法と活用できる特例の知識が欠かせません。本記事では、中古億ションの相続における評価額の決まり方と、利用可能な特例制度について詳しく解説します。
中古億ションが急増する背景
東京23区の価格高騰の実態
不動産調査会社の東京カンテイによると、2025年の東京23区における中古マンションの平均希望売り出し価格は70平方メートルあたり1億393万円に達しました。前年比34.6%増という過去最大の上昇率を記録しています。
新築マンションの平均価格が1億3,000万円を超える水準が3年以上続いていることで、実需層が中古市場に流入し、中古物件の価格も押し上げられています。LIFULLの調査では、東京都における億ション割合は2019年の2.6%から2025年には15.0%にまで拡大しました。
相続税の課税割合も上昇傾向
国税庁の統計によると、令和5年分の相続税課税割合は9.9%で、10人に1人が課税対象です。2015年に基礎控除額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」に引き下げられて以降、課税対象者は約2倍に増加しました。
地価や株価の上昇が続く中、今後はさらに課税割合が上がる見通しです。特に都心部の不動産を保有する世帯は、相続税への備えが不可欠といえます。
相続税評価額の仕組みと2024年改正
時価と評価額の乖離問題
相続税は時価ではなく、相続税評価額に基づいて計算されます。土地は路線価(時価の約8割)、建物は固定資産税評価額(時価の5〜7割)で評価されるため、不動産は現金より相続税上の評価が低くなります。
特にタワーマンションでは、この乖離が顕著でした。国税庁の資料によると、マンションの市場価格と相続税評価額の乖離率は平均2.34倍にのぼり、1億円で購入したマンションの評価額が4,000万円程度になるケースもありました。
2024年の区分所有補正率の導入
2022年の最高裁判決で、13億円で購入したマンション2棟を3億円と評価した申告が否認されたことを受け、2024年1月から新たな評価ルールが適用されています。
新ルールでは「区分所有補正率」が導入され、マンションの相続税評価額が市場価格の60%を下回る場合、60%になるよう補正されます。補正率は築年数、総階数、所在階、敷地権割合の4要素で決まります。
具体例として、東京都内の築9年・43階建て高層マンション23階の場合、従来の評価額3,720万円が新ルールでは7,140万円に引き上げられます。実勢価格1億1,900万円に対する評価割合は、約31%から約60%へと大幅に上昇しました。
対象外となる物件
新ルールの対象外となるのは、オフィスや商業ビル、一棟所有の賃貸マンション、総階数2以下の低層建物、親族が居住する二世帯住宅(区分所有が3以下)などです。中古の分譲マンションは基本的に対象となるため、億ションの相続では新ルールの影響を受けることになります。
小規模宅地等の特例の活用
特例の概要
小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。特定居住用宅地等の場合、330平方メートルまでの部分について適用されます。
この特例を適用できれば、評価額が大幅に下がるため、相続税の負担を大きく軽減できます。ただし、相続人の立場によって適用要件が異なる点に注意が必要です。
相続人別の適用条件
配偶者の場合は無条件で特例を利用できます。相続後に売却しても、生前に同居していなくても問題ありません。最も有利な立場といえます。
同居親族の場合は、相続開始時に被相続人と実際に同居していることが条件です。住民票だけ同じで実態がなければ適用できません。また、相続税の申告期限まで居住と所有を継続する必要があります。
別居親族(家なき子)の場合は、要件が最も厳格です。被相続人に配偶者がおらず一人暮らしだったこと、相続人本人や配偶者が過去3年以内に自己所有の家屋に住んでいないことなど、複数の条件をすべて満たす必要があります。
マンションにおける特例の注意点
小規模宅地等の特例は「土地」に対して適用されるため、マンションの場合は敷地権(土地の持分)部分が対象です。タワーマンションのように一戸あたりの敷地権割合が極めて小さい物件では、特例の恩恵も限定的になります。
たとえば、マンション全体の敷地が1,000平方メートルで持分割合が10%なら、100平方メートル分にしか特例が適用されません。戸建て住宅と比べると、特例による減額効果は小さくなる傾向があります。
2026年度税制改正の影響と今後の展望
賃貸用不動産の評価見直し
2026年度の税制改正大綱では、相続直前に購入した賃貸用不動産の評価が見直されます。相続発生前5年以内に取得した賃貸用不動産は、購入価格をベースに地価変動を考慮した価格の8割で評価する方針です。
不動産小口化商品については、取得時期にかかわらず購入時の時価で評価されることになります。この改正は2027年1月1日以降の相続から適用される予定です。
従来の節税スキームへの影響
従来は、現金で高額マンションを購入し賃貸に出すことで、相続税評価額を大幅に圧縮するスキームが広く利用されていました。土地は路線価で約8割、建物は固定資産税評価で5〜7割に評価され、さらに賃貸による減額(土地約2割減、建物約3割減)も適用できたためです。
今回の改正により、短期間での不動産購入による節税は事実上封じられます。今後は長期保有を前提とした事業承継型の不動産相続対策が主流になると見込まれます。
相続時精算課税制度の活用
2026年中に検討すべき対策の一つが相続時精算課税制度の活用です。この制度を使えば、贈与時点の評価額で価格が固定されるため、将来の相続時にも低い評価額が適用される可能性があります。不動産価格がさらに上昇すると見込む場合は、早めの贈与が有利に働くケースもあります。
まとめ
中古億ション時代の相続では、「時価」と「評価額」の違いを正しく理解することが出発点です。2024年の区分所有補正率の導入により、マンションの評価額は従来より引き上げられましたが、それでも時価の60%程度に抑えられています。
小規模宅地等の特例は最大80%の減額が可能な強力な制度ですが、マンションでは敷地権割合が小さいため効果が限定されます。相続人の立場によって適用要件も異なるため、早めに要件を確認しておくことが重要です。
2027年からは賃貸用不動産の評価見直しも始まります。制度が複雑化する中、相続専門の税理士への相談を早期に行い、自身の状況に合った対策を検討することをおすすめします。
参考資料:
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