三菱UFJ信託がファンド事務代行に参入、日本買いを後方支援
はじめに
三菱UFJ信託銀行が2026年春にも、国内で不動産などに投資するファンドのバックオフィス(後方事務)業務を代行する事業に参入します。会計処理やコンプライアンス(法令順守)対応といった管理業務を引き受ける「黒子役」を担い、ファンドの運用会社が投資判断に集中できる環境を整えます。
この動きの背景には、海外投資家による「日本買い」の需要拡大があります。日本政府が推進する「資産運用立国」構想とも連動する今回の参入は、日本の金融インフラを国際水準に近づける重要な一歩です。
ファンド事務代行とは何か
バックオフィス業務の中身
ファンドの運営には、投資先の選定や売買判断といったフロントオフィス業務と、それを支えるバックオフィス業務があります。バックオフィスの主な業務には、ファンドの基準価額(NAV)の計算、会計・経理処理、投資家への報告書作成、コンプライアンス対応、規制当局への届出などが含まれます。
これらの業務は専門性が高く、人手もかかります。特に海外のファンドが日本に参入する際には、日本固有の会計基準や法規制への対応が大きな障壁となっていました。
日本では「自前主義」が主流だった
欧米では、ファンドのバックオフィス業務を専門の事務代行会社(ファンドアドミニストレーター)に委託するのが一般的です。しかし日本では、投資信託の基準価額の日次計算を運用会社と信託銀行が二重にチェックするなど、独自の商慣行が残っており、事務のアウトソーシングは進んでいませんでした。
三菱UFJ信託銀行のファンド向け事務代行サービスへの参入は、信託銀行としては国内初となる可能性があり、この「自前主義」からの転換を象徴する動きです。
「日本買い」の拡大が背景に
海外投資家が日本に注目する理由
海外投資家による日本への投資意欲は近年、顕著に高まっています。その理由は複数あります。円安による不動産や企業の割安感、東京証券取引所の企業統治改革による株主還元の強化、そして日本企業の収益力改善が挙げられます。
不動産分野では、オフィスビルや物流施設、データセンターなどへの海外マネーの流入が続いています。三菱UFJ銀行も2025年4月、三菱UFJ信託銀行が運用する1,000億円規模の不動産ファンドに300億円を拠出すると発表しています。
参入障壁としての事務負担
海外のファンドが日本で投資活動を行う際、最大の障壁の1つがバックオフィスの負担です。日本語での規制対応、日本固有の会計慣行への準拠、現地スタッフの確保など、運用以外のコストが重くのしかかります。
三菱UFJ信託銀行がこれらの事務を一括で引き受けることで、海外ファンドは運用に専念できるようになります。これは日本への投資を検討している海外ファンドにとって、参入のハードルを大きく下げる効果が期待できます。
政府の「資産運用立国」構想との連動
金融庁の改革方針
日本政府は金融庁を中心に「資産運用立国」を掲げ、日本を世界有数のアセットマネジメントセンターにする構想を推進しています。改革の柱の1つが、運用会社のミドル・バックオフィス業務の外部委託を促進することです。
具体的には、英語のみで行政手続きが完了する特区の設置、日本固有の商慣行の是正、投資運用業の参入要件の緩和などが進められています。三菱UFJ信託銀行の事務代行サービスは、この政策方針に沿った民間側の対応と言えます。
2,200兆円の家計資産
日本の家計資産は約2,200兆円に上りますが、その多くが現金・預金のまま眠っています。政府は「貯蓄から投資へ」のシフトを促しており、2024年に始まった新NISA(少額投資非課税制度)もその一環です。国内外の運用会社が参入しやすい環境を整えることで、この巨大な資金プールの活性化を目指しています。
MUFGの事業構造
旧東銀リースからの事業承継
今回の事務代行事業は、MUFGファイナンス&リーシング(旧東銀リース)からファンド向けの事務代行業務を三菱UFJ信託銀行が引き継ぐ形で展開されます。信託銀行の持つ法的な信認(フィデューシャリー)機能と、既存の不動産・証券化ビジネスとの相乗効果を狙っています。
三菱UFJ信託銀行はすでに上場J-REIT(不動産投資信託)や私募ファンドの一般事務・資産保管業務を受託した実績があります。今回の参入は、この既存事業をさらに拡大し、非上場ファンドやプライベートエクイティを含む幅広いファンドに対応するものです。
注意点・展望
ファンド事務代行の普及には課題もあります。日本の金融実務に精通した専門人材の確保、既存の信託銀行との役割分担の整理、そしてサイバーセキュリティやデータ管理の体制構築が求められます。
また、日本政府は外国投資審査の強化にも動いており、2026年中にも米国のCFIUS(対米外国投資委員会)に相当する組織を設立する方針です。投資促進と安全保障のバランスが今後の論点になるでしょう。
海外の大手ファンドアドミニストレーターとの競合や連携も注目されます。三菱UFJ信託銀行が国内で先行者利益を確保できるかが、今後の展開を左右します。
まとめ
三菱UFJ信託銀行のファンド事務代行事業への参入は、日本の資産運用インフラの近代化を象徴する動きです。海外投資家が日本に参入する際の事務的な障壁を取り除き、「日本買い」の流れを後方から支援する狙いがあります。
政府の「資産運用立国」構想と民間の取り組みが連動することで、日本がアジアにおける資産運用の主要拠点へと発展できるかが問われています。
参考資料:
- Mitsubishi UFJ Trust readies back-office support for ‘Japan buying’ funds | Nikkei Asia
- Building Prosperity: Japan’s ambition to become a leading asset management center | Deloitte
- 不動産業務 | 三菱UFJ信託銀行
- Investing In… 2026 - Japan | Chambers and Partners
- Japan to beef up foreign investment oversight | Japan Times
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