野村證券が脱・証券へ舵切り、未公開資産に活路
はじめに
2025年12月に創立100周年を迎えた野村ホールディングスが、2026年に入り大きな転換点を迎えています。日本の証券業界で圧倒的な存在感を誇る「ガリバー」が、従来の株式売買仲介中心のビジネスモデルから脱却し、プライベートアセット(未公開資産)の運用を新たな成長の柱に据える戦略を打ち出しました。
金利復活や物価上昇により資産運用の重要性が増す中、野村證券はなぜこの転換を選んだのでしょうか。本記事では、野村證券の戦略転換の背景、プライベートアセットの特徴、そして今後の展望について詳しく解説します。
野村證券101年の歴史と転換の背景
日本の証券業界を切り開いてきた歩み
野村ホールディングスは1925年12月、大阪野村銀行の証券部から分離して設立されました。その起源はさらに遡り、創業者の野村徳七が1904年に「野村商店」を継承したことに始まります。当時、証券業者は「株屋、相場師」と蔑まれていましたが、徳七は欧米で最先端の証券業を学び、日本に近代的経営を持ち込みました。
特筆すべきは調査部の設置と「大阪野村商報」の発刊です。科学的な調査研究を行い、顧客が安心して株式を保有できる環境を整えたことは、日本の証券投資文化の礎となりました。
設立からわずか1年3ヶ月後の1927年には、日本の証券会社として初めてニューヨーク出張所を開設するなど、早くから海外展開も進めてきました。1997年の山一證券廃業後は名実ともに日本最大の証券会社となり、現在の顧客資産残高は153.5兆円(2024年3月末現在)に達しています。
株式相場依存の弱点
しかし、野村證券には長年の課題がありました。株式の売買仲介で手数料を得る伝統的なビジネスモデルは、相場の変動に業績が大きく左右されるという弱点を抱えています。好況時には大きな収益を上げられる一方、相場が低迷すると収益が急減するリスクがあります。
この課題を克服するため、野村ホールディングスは株式相場に左右されにくい新たな収益源の確保を模索してきました。その答えが、プライベートアセット(未公開資産)への注力です。
プライベートアセットとは何か
未公開資産の4つの分類
プライベートアセット(未公開資産)とは、株式市場で取引される上場株式や公募債券などの「伝統的資産」に対し、市場で公開されていない資産を指します。主に以下の4つに分類されます。
- プライベートエクイティ(PE):未上場企業の株式への投資
- プライベートクレジット:ファンドによる企業向け融資
- 不動産:オフィスビル、商業施設、住宅などへの投資
- インフラ:データセンター、パイプライン、再生可能エネルギー施設などへの投資
これらの資産は株式市場の値動きと連動しにくく、相場変動の影響を受けづらいという特徴があります。また、流動性が低い分、相対的に高いリターンが期待できるとされています。
期待されるリターン向上効果
野村アセットマネジメントの試算によると、上場株式や債券のみで構成される一般的なポートフォリオから、2割を未公開資産に振り向けて約10年運用した場合、収益率が年1%程度向上したとされています。長期運用においては、この1%の差が複利効果により大きな資産形成の違いを生みます。
野村證券のプライベートアセット戦略
投資一任サービスへの国内初導入
野村証券は2025年12月、個人投資家向けの投資一任サービスに日本で初めてプライベートアセットを組み込みました。「野村SMA(エグゼクティブ・ラップ)」専用の投資信託として、契約額3,000万円以上の顧客を対象にサービスを開始しています。
まずは世界最大級のインフラ投資会社である豪マッコーリー・アセット・マネジメントのファンドを投資対象とし、将来的には非上場株や不動産にも投資対象を広げる方針です。同時期に野村はマッコーリー・グループの米国資産運用会社の全株式取得を完了しており、プライベートアセット分野での体制強化を進めています。
運用資産40兆円増への挑戦
野村ホールディングスは、未公開資産を軸に運用資産残高を40兆円増やすことを目指しています。これは株式売買仲介に依存してきた収益構造を根本から変革し、安定的な資産運用ビジネスへとシフトする大きな一歩です。
従来は機関投資家や超富裕層に限られていた未公開資産への投資機会を、より幅広い富裕層に提供することで、新たな顧客層の開拓も狙っています。
新本社移転と次の100年への始動
日本橋の象徴的建造物の保存と再開発
2026年、野村グループは日本橋の新本社ビルに移転します。新本社は「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」のメインタワー10階〜20階に入居予定です。ビルの高さは約284メートルで、「ニホン(2)バ(8)シ(4)」にちなんだ数字となっています。
注目すべきは、1930年竣工の日本橋野村ビルディング旧館の保存です。建築家・安井武雄が設計したこの建物は、中央区指定有形文化財であり、2012年にはDOCOMOMO JAPANにより「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」にも選定されています。再開発に際して本館・別館は解体されましたが、旧館は外壁と1階を保存し、4階建ての複合施設として生まれ変わります。
創業の地である日本橋で、歴史ある建造物を守りながら新たな拠点を構えることは、野村グループにとって過去と未来をつなぐ象徴的な事業といえます。
投資家の信頼回復への課題
個人投資家の意識と課題
野村アセットマネジメントが実施した「投資信託に関する意識調査2025」によると、NISA利用率は回答者の28%と前年から15ポイント上昇し、投資家の裾野は確実に広がっています。しかし課題も明らかになりました。
投資家であっても5割が投資に対して「怖いもの」、4割が「ギャンブルのようなもの」というイメージを持っているという実態があります。また、保有している投資信託の種類が「どれに該当するかわからない」と回答した人が29%、今後購入したい投資信託についても44%が「わからない」と回答しています。
長期・積立・分散投資の考え方や金融商品への理解を深める投資教育が、業界全体の課題として残されています。
信頼構築への道のり
野村證券がプライベートアセット運用で成功を収めるためには、顧客との信頼関係構築が不可欠です。未公開資産は伝統的な上場株式と比べて情報開示が限定的で、流動性も低いため、顧客への丁寧な説明と適切なリスク管理が求められます。
創業者の野村徳七が重視した「科学的な調査研究」と「顧客への情報提供」の精神は、新たなビジネス領域においても変わらず重要です。
まとめ
創業101年目を迎えた野村證券は、株式売買仲介中心のビジネスモデルからの転換という大きな挑戦に踏み出しています。プライベートアセットへの注力は、相場変動に左右されにくい安定収益の確保と、富裕層顧客への新たな投資機会の提供を両立させる戦略です。
2026年の新本社移転は、歴史ある建造物の保存と最新鋭のオフィス環境の両立を象徴する事業となります。日本の証券業界を牽引してきたガリバーが、次の100年に向けてどのような姿に変貌するのか、その動向は日本の資産運用業界全体の方向性を占う上でも注目されます。
参考資料:
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