日経平均352円安、トランプ欧州関税とグリーンランド問題の全容
はじめに
2026年1月19日、東京株式市場で日経平均株価は前週末比352円60銭安の5万3583円57銭で取引を終えました。下げ幅は一時800円を超える場面もあり、市場には強い警戒感が広がりました。
この急落の主因は、トランプ米大統領がグリーンランドの領有を巡って欧州8カ国に追加関税を課すと発表したことです。さらに国内では衆議院解散・総選挙の観測が高まる中、政治情勢を見極めたいとの買い控えも重なりました。
本記事では、トランプ関税の詳細とグリーンランド問題の背景、そして日本株市場への影響について解説します。
トランプ大統領、欧州8カ国に追加関税を発表
関税の内容と対象国
トランプ大統領は1月17日、デンマーク自治領グリーンランドの取得に反対する欧州8カ国からの輸入品に対し、追加関税を課すことを発表しました。
対象となるのは、デンマーク、英国、フランス、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、オランダの8カ国です。関税は2月1日に10%で発効し、「グリーンランドの完全かつ全面的な購入でディールが成立しない限り」、6月には25%に引き上げるとトランプ氏は警告しています。
発動のきっかけ
この追加関税発表の直接的なきっかけは、デンマークなど欧州8カ国がグリーンランドで北大西洋条約機構(NATO)の軍事演習を実施すると表明したことでした。トランプ氏はこれを米国への威嚇的な姿勢と捉え、対抗措置として関税を課すことを決めました。
「この神聖な土地は誰にも手を出させない」とトランプ氏は述べており、グリーンランド取得への強い意欲を示しています。
欧州の対応と報復措置
欧州連合(EU)は、トランプ氏の追加関税発表を受けて対抗措置の検討に入りました。報道によれば、約930億ユーロ(約17兆円)規模の報復案を示し、トランプ氏に関税の撤回を求めています。
対象となった8カ国は共同声明を発表し、「関税の脅しはヨーロッパとアメリカの関係を損なう」と批判しました。デンマークのフレデリクセン首相は「グリーンランドは売り物ではない」と明確に拒否しており、米欧間の対立は深まる様相を見せています。
グリーンランドはなぜ重要なのか
軍事・安全保障上の価値
グリーンランドがアメリカにとって重要な理由は、まず軍事・安全保障上の価値にあります。世界最大の島であるグリーンランドは領土の3分の2以上が北極圏内に位置し、モスクワとニューヨークの中間地点にあたります。
米軍は1951年の防衛協定に基づき、グリーンランド北西部にピトゥフィック宇宙基地(旧称:チューレ空軍基地)を運用しています。この基地は米軍最北の拠点であり、ミサイル警戒、ミサイル防衛、宇宙監視の任務を担っています。
米国の立場からすれば、敵対的な大国がグリーンランドを支配下に置く事態は絶対に避けたいところです。グリーンランドを足掛かりにすれば、米国本土への攻撃が可能になるためです。
レアアースと資源の重要性
グリーンランドには豊富な天然資源が眠っています。石油や天然ガスに加え、電気自動車や風力タービン、軍事装備品の製造に不可欠なレアアース(希土類元素)も含まれます。
現在、世界のレアアース生産は中国が支配しており、輸出規制の強化が懸念されています。グリーンランドの資源を確保することは、中国依存からの脱却という観点からも重要です。専門家の間では「グリーンランド取得の真の目的は、中国の締め出しにある」との見方もあります。
北極圏をめぐる大国間競争
気候変動により北極の氷が減少し、北極海航路が国際貿易の新たなルートとして注目されています。この航路はスエズ運河経由の南回り航路より短く、政治的に不安定な中東を通らないというメリットがあります。
中国は2018年に自国を「近北極国家」と位置づけ、「極地シルクロード」構想を打ち出しました。ロシアも北極圏での存在感を強めており、大国間の競争が激化しています。こうした状況下で、グリーンランドの戦略的価値はさらに高まっています。
日本株市場への影響
一時800円超の急落
1月19日の東京株式市場では、トランプ関税への警戒感から幅広い銘柄が売られました。日経平均株価は一時、下げ幅が800円を超え、短期的なトレンドを示す5日移動平均線を下回って推移しました。
特に自動車や機械といった輸出関連株、化学などの素材株、商社など景気敏感セクターの下落が目立ちました。米欧間の貿易摩擦が激化すれば、世界経済全体にマイナスの影響が及ぶとの見方が広がっています。
国内政治要因も重なる
株式市場への影響は海外要因だけではありません。国内では高市早苗首相が衆議院解散を検討しているとの報道があり、政治情勢を見極めたいとの慎重姿勢も買い見送りにつながりました。
衆議院選挙については「1月27日公示、2月8日投開票」「2月3日公示、15日投開票」などの日程案が浮上しています。選挙期間中は政策の不透明感から株価が変動しやすく、投資家は様子見姿勢を強めています。
「選挙は買い」のアノマリーも
一方で、過去のデータを見ると、衆議院解散から総選挙までの期間は株価が上昇する傾向があります。過去55年間、17回の選挙のうち15回で株価が上昇しており、約88%の確率となっています。
ただし、選挙終了後の株価は上昇・下落がまちまちであり、「選挙は買い」というアノマリーが有効な期間は比較的短いとされています。選挙が終われば、市場は再び海外要因や経済指標に注目することになります。
今後の注目点とリスク要因
2月1日の関税発動に注目
最大の焦点は、2月1日に予定されている10%追加関税の発動です。EUが報復措置を実施すれば、貿易戦争がエスカレートする可能性があります。
交渉による解決の可能性も残されていますが、トランプ氏のグリーンランド取得への執着は強く、デンマーク側も売却を明確に拒否しているため、短期的な妥協点を見出すのは難しい状況です。
為替・金利動向も注視
米欧間の貿易摩擦は為替相場にも影響を与えます。リスク回避の動きが強まれば円高が進み、日本の輸出企業の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策や日銀の追加利上げ観測も、株式市場の変動要因となります。2026年は国内外の政治・経済イベントが複雑に絡み合い、市場の変動が大きくなりやすい環境です。
まとめ
トランプ大統領によるグリーンランド問題を巡る欧州8カ国への追加関税発表は、米欧関係に新たな緊張をもたらしています。グリーンランドは軍事・資源・北極圏戦略の観点から、米国にとって極めて重要な地域であり、トランプ氏が簡単に引き下がるとは考えにくい状況です。
日本株市場はこうした海外リスクに加え、国内の政治情勢という不確実性も抱えています。短期的な株価変動に一喜一憂せず、米欧関係の行方や国内政治の動向を冷静に見守ることが重要です。2月1日の関税発動と、その後の各国の対応が、今後の市場動向を左右する鍵となるでしょう。
参考資料:
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