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by nicoxz

東大開発ニパウイルスワクチン、4月臨床試験へ

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はじめに

致死率が最大75%に達する危険な人獣共通感染症であるニパウイルスに対し、東京大学先端科学技術研究センター(RCAST)が開発したワクチンが、2026年4月からベルギーで初期段階の臨床試験を開始することが明らかになりました。現時点でニパウイルスに対する承認済みのワクチンや抗ウイルス薬は存在せず、今回の臨床試験開始は世界的に大きな期待を集めています。

この発表は、インド・西ベンガル州で2026年1月に新たに2名の医療従事者の感染が確認され、WHOに報告されたタイミングと重なりました。インドでは今回が7回目、西ベンガル州では3回目のアウトブレイクとなり、ニパウイルスの脅威が改めて浮き彫りになっています。

ニパウイルスの脅威と現状

高い致死率と感染経路

ニパウイルスは、オオコウモリ(フルーツバット)を自然宿主とする人獣共通感染症で、致死率は40〜75%と非常に高い水準にあります。感染経路は主に以下の3つです。

まず、コウモリから直接ヒトへの感染があります。コウモリの唾液や尿で汚染された果物やナツメヤシの樹液を摂取することで感染するケースが報告されています。次に、感染した動物(主に豚)との接触による感染があります。そして最も懸念されるのが、ヒトからヒトへの感染で、特に医療現場での感染拡大が問題視されています。

2026年インドでのアウトブレイク

2026年1月、インド・西ベンガル州で2名の医療従事者がニパウイルスに感染したことが確認され、WHOに報告されました。インドでは今回が7回目のアウトブレイクとなり、西ベンガル州では3回目の発生です。特にケララ州は高リスク地域として知られており、過去にも複数回のアウトブレイクが発生しています。

WHOは国際的な拡散リスクは低いと評価していますが、香港、マレーシア、シンガポールなどの周辺国は空港での検疫体制を強化するなど、警戒を強めています。医療従事者が感染した事実は、院内感染のリスクの高さを示しており、適切な感染管理の重要性を浮き彫りにしています。

東京大学のワクチン開発

臨床試験の詳細

東京大学先端科学技術研究センターが開発したニパウイルスワクチンは、2026年4月からベルギーで初期段階(Phase I)の臨床試験を開始します。この臨床試験では、まずワクチンの安全性と人体での免疫応答を評価することが主な目的となります。

アウトブレイクの最前線で臨床試験を実施することで、実際の流行状況下でのワクチンの有効性をより正確に評価できる利点があります。東京大学のワクチン開発は、日本の研究機関が国際的な感染症対策に貢献する重要な事例として注目されています。

開発の意義

現在、ニパウイルスに対する承認済みのワクチンや治療薬は世界中に存在しません。そのため、東京大学の開発するワクチンが実用化されれば、医療従事者や高リスク地域の住民を保護する画期的な手段となります。特に、アウトブレイクが頻発するインドやバングラデシュなどの南アジア地域での導入が期待されています。

国際的なワクチン開発競争

オックスフォード大学のChAdOx1 NipahB

東京大学以外にも、複数の研究機関がニパウイルスワクチンの開発を進めています。最も進んでいるのがオックスフォード大学の「ChAdOx1 NipahB」で、すでにPhase II(第二相)の臨床試験段階に入っています。

このワクチンはバングラデシュで臨床試験が実施されており、2025年6月には欧州医薬品庁(EMA)からPRIME(優先医薬品)指定を取得しました。この指定により、開発プロセスが加速され、承認までの期間が短縮される見込みです。オックスフォード大学のワクチンは、世界初の実用化に最も近い候補として位置づけられています。

その他の有望な候補

感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)は、「PHV02」と呼ばれるワクチン候補に対して4,360万ドル(約65億円)の資金支援を行っています。このワクチンも臨床試験の準備段階にあり、CEPIの支援により開発が加速されることが期待されています。

また、アメリカの国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)は、Moderna社と協力してmRNA技術を用いた「mRNA-1215」の開発を進めています。このワクチンはPhase Iの臨床試験が開始されており、mRNA技術の柔軟性と迅速な製造能力が注目されています。新型コロナウイルスのワクチン開発で実績を積んだmRNA技術が、ニパウイルスに対しても有効性を示すかが焦点となっています。

注意点・展望

実用化までの課題

ワクチン開発において、臨床試験の開始は重要なマイルストーンですが、実用化までには多くの課題が残されています。Phase Iでは主に安全性が評価されますが、その後のPhase IIでは有効性、Phase IIIでは大規模な集団での効果と安全性の確認が必要です。このプロセスには通常数年を要し、すべての段階で良好な結果が得られるとは限りません。

また、ニパウイルスのアウトブレイクは散発的であり、大規模な臨床試験を実施するための十分な症例数を確保することが困難な場合があります。そのため、複数の候補ワクチンを並行して開発し、最も有望なものを迅速に実用化する戦略が重要となります。

パンデミック対策としての重要性

WHOは、ニパウイルスを「優先的に研究開発が必要な病原体」のリストに含めています。これは、将来的にパンデミックを引き起こす可能性がある感染症として位置づけられていることを意味します。気候変動による生態系の変化や、人間活動の拡大により、コウモリとヒトの接触機会が増加する可能性があり、ニパウイルスの脅威はさらに高まる懸念があります。

今回の東京大学をはじめとする国際的なワクチン開発の取り組みは、将来のパンデミックに備えるための重要な投資と言えます。複数のワクチン候補が開発されることで、供給の安定性や異なる集団での有効性の確保にもつながります。

地域での感染対策の重要性

ワクチン開発と並行して、高リスク地域での感染予防対策も極めて重要です。コウモリの生息地に近い地域では、コウモリがかじった果物や樹液を避ける、医療施設での適切な感染管理を徹底する、サーベイランス体制を強化するなどの対策が必要です。

インドのケララ州では、過去のアウトブレイクの経験を活かし、コウモリの生息状況のモニタリングや、地域住民への教育プログラムが実施されています。こうした地道な取り組みとワクチン開発の両輪で、ニパウイルスの脅威に立ち向かう必要があります。

まとめ

東京大学先端科学技術研究センターが開発したニパウイルスワクチンの臨床試験開始は、致死率最大75%という極めて危険な感染症に対する人類の挑戦における重要な一歩です。現時点で承認済みのワクチンや治療薬が存在しない中、東京大学の取り組みは日本の研究力を世界に示す機会でもあります。

オックスフォード大学のChAdOx1 NipahBがすでにPhase IIに進んでいることや、ModernaのmRNAワクチンの開発など、国際的なワクチン開発競争は加速しています。複数の候補が並行して開発されることで、より早期の実用化と、異なる地域や集団への対応が可能になります。

2026年1月のインド・西ベンガル州でのアウトブレイクは、ニパウイルスの脅威が現実のものであることを改めて示しました。ワクチン開発の進展は希望の光ですが、実用化までには数年を要する見込みです。その間、高リスク地域での感染予防対策と医療体制の強化が不可欠です。

気候変動や人間活動の拡大により、人獣共通感染症のリスクは今後も増大すると予測されています。ニパウイルスワクチンの開発は、将来のパンデミックに備えるための重要な取り組みであり、国際的な協力と継続的な投資が求められています。東京大学のワクチンが臨床試験で良好な結果を示し、一日も早く実用化されることが期待されます。

参考資料

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