日産が春闘で満額回答、経営再建中でも賃上げ月1万円の背景
はじめに
日産自動車が2026年春季労使交渉(春闘)で、組合の賃上げ要求に満額回答しました。ベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせて月額1万円、年間一時金は5.0カ月分です。賃上げ率は2.7%に相当します。
注目すべきは、日産が2期連続で巨額の最終赤字を計上している点です。経営再建計画「Re:Nissan」のもとで2万人の人員削減と7工場の閉鎖を進めている最中の満額回答は、異例ともいえる判断です。
本記事では、日産が赤字下でも賃上げに踏み切った背景、他の自動車メーカーとの比較、そして今後の経営再建への影響を解説します。
日産の春闘回答の詳細
賃上げの具体的な内容
2026年3月11日の団体交渉で、日産は以下の回答を行いました。
- 月例賃金: ベアと定期昇給を合わせて月額1万円(ベア分は約4,000円)
- 年間一時金: 5.0カ月分
- 賃上げ率: 2.7%
60歳以上の定年再雇用者については、月額4,000円の改善が示されています。いずれも組合の要求額に対する満額回答です。
前年との比較で見える変化
2025年春闘では、日産は月額1万6,500円の賃上げ、一時金5.2カ月分で回答していました。今年の回答額が大幅に下がった背景には、組合側が日産の厳しい経営状況を考慮して要求水準を引き下げたという事情があります。
2025年春闘では、日産の回答額が5年ぶりに組合要求を下回る結果となりました。この経験を踏まえ、今年は組合が現実的な水準に要求を調整したことで、満額回答が実現したといえます。
経営再建計画「Re:Nissan」と賃上げの両立
巨額赤字と大規模リストラの実態
日産自動車の経営状況は深刻です。2024年度(2025年3月期)の最終赤字は6,708億円に達し、2025年度(2026年3月期)も6,500億円の赤字見通しが発表されています。2期連続で数千億円規模の赤字という、同社の歴史でも極めて異例の事態です。
イヴァン・エスピノーサ社長のもとで策定された経営再建計画「Re:Nissan」の柱は以下の通りです。
- 人員削減: グループ全体で2万人(全従業員の約15%)
- 工場閉鎖: 車両生産工場を17から10へ削減(7工場閉鎖)
- コスト削減: 固定費・変動費合計で5,000億円(2024年度比)
- 目標: 2026年度までに自動車事業の営業利益とフリーキャッシュフローの黒字化
追浜工場(神奈川県横須賀市)の車両生産は2027年度末に終了し、日産自動車九州へ移管される予定です。横浜本社の売却も決断されるなど、大規模な構造改革が進行中です。
赤字下でも賃上げする理由
大幅な赤字にもかかわらず賃上げに踏み切った理由として、日産は以下の要因を挙げています。
第一に、人材の確保と流出防止です。2万人の削減を進める一方で、経営再建の中核を担う人材の離職は避けなければなりません。業界全体で賃上げが進む中、日産だけが賃上げを見送れば、優秀な人材が他社に流れるリスクがあります。
第二に、従業員のモチベーション維持です。リストラのさなかで働き続ける社員にとって、会社が自分たちの貢献を認めているというメッセージは重要です。再建の成否は現場の社員にかかっています。
第三に、物価上昇への対応です。2025年の消費者物価指数(CPI)は前年比3.2%上昇しており、実質賃金の目減りを放置することはできません。
自動車業界全体の春闘動向
他社の回答状況との比較
2026年春闘では、日産に先立ち、マツダや三菱自動車、ヤマハ発動機が2月の段階で満額回答を出す異例の早期決着を見せました。
| メーカー | 月額賃上げ | 一時金 | 回答時期 |
|---|---|---|---|
| 日産自動車 | 1万円 | 5.0カ月 | 3月11日 |
| マツダ | 1万9,000円 | 5.1カ月 | 2月(早期) |
| 三菱自動車 | 1万8,000円 | 5.0カ月 | 2月(早期) |
| ヤマハ発動機 | 1万9,400円 | 5.3カ月 | 2月(早期) |
トヨタ自動車はベアと定昇を合わせた総額で最大2万1,580円を要求しており、ホンダは1万8,500円の要求を出しています。集中回答日である3月18日に向けて注目が集まっています。
日産の月額1万円は他社と比較すると低い水準ですが、これは組合側が経営状況を踏まえて要求を抑えた結果です。
2026年春闘全体の傾向
連合(日本労働組合総連合会)は2026年春闘の賃上げ目標を「定期昇給+ベアで5%以上」「ベア分で3%以上」と設定しています。第一生命経済研究所の予測では、2026年春闘の賃上げ率は5.45%とほぼ前年並みの高水準が実現する見通しです。
米国の関税政策による業績悪化リスクが懸念される中でも、物価上昇を背景に各社は高水準の賃上げ姿勢を崩していません。大企業と中小企業の格差是正も引き続き大きな課題で、中小企業には大企業を上回る6%の賃上げが求められています。
注意点・展望
経営再建との整合性
日産の賃上げ額は月1万円と、他の自動車メーカーと比べて控えめです。この点は経営再建計画との整合性が取れているともいえますが、人材獲得競争の面では不利に働く可能性もあります。
特に注意すべきは、「Re:Nissan」が目標とする2026年度の黒字化が達成できるかどうかです。人件費の増加は限定的とはいえ、米国の関税政策や為替変動など、外部環境の不確実性は大きいです。
今後の焦点
3月18日の集中回答日には、トヨタやホンダといった業界最大手の回答が出揃います。これらの回答水準が、日産を含む業界全体の賃金水準に影響を与えます。
また、日産にとっては賃上げ以上に重要なのが、新車投入による販売回復です。賃上げで従業員の士気を維持しつつ、商品力の強化で収益を改善できるかが、経営再建の成否を左右します。
まとめ
日産自動車は2期連続の巨額赤字という厳しい経営環境のもとでも、2026年春闘で月額1万円・一時金5.0カ月の満額回答を行いました。組合側が要求水準を引き下げたことで満額回答が実現した面はありますが、経営再建中でも人材確保と従業員への配慮を優先する姿勢を示した形です。
自動車業界全体では高水準の賃上げが続いており、3月18日の集中回答日に向けてさらに注目が高まります。日産の経営再建計画「Re:Nissan」が目指す2026年度の黒字化と、従業員への還元をどう両立させていくのか、今後の動向を注視する必要があります。
参考資料:
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