NVIDIA次世代チップ発表でデータセンター冷却株が急落した背景

by nicoxz

はじめに

2026年1月、米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES 2026」で、NVIDIAのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)が衝撃的な発言を行いました。次世代AIチップ「Vera Rubin」を搭載したデータセンターでは、従来必要とされていた水冷チラー(冷却装置)が不要になるというのです。

この発言を受けて、データセンター向け冷却装置を提供する企業の株価が急落。Johnson Controls InternationalやTrane Technologiesなど、HVAC(暖房・換気・空調)大手の株価が軒並み下落しました。AI半導体市場で約8割のシェアを持つNVIDIAの技術発表が、関連銘柄の投資家を揺さぶる事態となっています。

本記事では、Vera Rubinプラットフォームの技術的革新と、冷却関連株への影響、そして今後の見通しについて詳しく解説します。

Vera Rubinプラットフォームとは何か

次世代AI半導体の全容

NVIDIAが発表したVera Rubinは、同社の次世代AIプラットフォームです。Vera CPU(中央演算処理装置)とRubin GPU(画像処理装置)を組み合わせた構成で、合計6種類のチップで構成されています。

ファンCEOによると、Vera Rubinは現行のGrace Blackwellチップと比較して2倍の処理能力を持ちながら、同等の冷却要件で動作するとのことです。これは、推論処理やAIモデル処理において、前世代比で3〜5倍の性能向上を実現することを意味します。

特筆すべきは、Vera Rubin NVL72システムが100%液体冷却に対応している点です。Grace Blackwellの80%と比較して、冷却効率が大幅に向上しています。

革新的な冷却技術の仕組み

Vera Rubinが採用する冷却方式は、45度セルシウス(約113度ファーレンハイト)の温水を使用した単相直接液体冷却(DLC)です。ファンCEOは「このスーパーコンピューターを基本的に温水で冷却しており、非常に効率的だ」と説明しました。

従来のデータセンターでは、高性能チップを冷やすために冷水を循環させるチラーシステムが必要でした。しかしVera Rubinでは、液体が空気よりも効率的に熱を吸収する特性を最大限に活用。より高い動作温度での運用が可能となり、ファンやチラーのエネルギー消費を大幅に削減できます。

さらに、Vera RubinはBlackwellの液冷設計をベースに、同じCDU(冷却液分配装置)圧力ヘッドで液体流量をほぼ2倍に増加。極めて高負荷な作業が続いても熱によるスロットリング(性能低下)を防ぎ、一貫した性能を維持できる設計となっています。

冷却関連株への衝撃

急落した銘柄と下落幅

NVIDIAの発表を受けて、2026年1月7日の米国株式市場ではデータセンター冷却関連銘柄が軒並み下落しました。

主な下落銘柄は以下の通りです。

  • Modine Manufacturing: 7.5%下落(一時は21%の急落を記録)
  • Johnson Controls International: 6.2%下落、7月以来最大の下げ幅
  • Trane Technologies: 5.3%下落
  • Carrier Global: 1%下落

Johnson ControlsとTrane Technologiesは数カ月ぶりの安値を記録し、S&P 500構成銘柄の中でも最大級の下落率となりました。

各社のデータセンター事業比率

Bloomberg Intelligenceの分析によると、チラーはJohnson ControlsやTraneがデータセンターに提供する機器の「主要な」構成要素です。

データセンター事業が各社の売上高に占める比率は以下のように推定されています。

  • Johnson Controls International: 売上高の10〜20%程度
  • Trane Technologies: 約10%
  • Carrier Global: 約5%

データセンター事業への依存度が高いJohnson ControlsやTraneにとって、今回の発表は事業戦略の見直しを迫られる可能性があります。

市場の見方は分かれる

売り込み過ぎとの見方も

一方で、今回の株価下落を「過剰反応」と見るアナリストも存在します。

シティグループの産業アナリスト、アンドリュー・カプロウィッツ氏は「HVACの売り込みは行き過ぎだと考える」と指摘。Rubinチップのアーキテクチャは「依然として液体冷却機能を必要とする」と述べ、冷却需要がなくなるわけではないとの見解を示しました。

また、Vera Rubinの出荷開始は2026年後半の予定であり、市場への本格的な影響が出るまでには時間がかかるとの見方もあります。

恩恵を受ける企業も

NVIDIAの発表は、すべての冷却関連企業にマイナスというわけではありません。

バークレイズは、液体冷却システムに強みを持つnVent Electricを「恩恵を受ける可能性のある企業」として挙げています。同社の株価は7日、0.5%上昇しました。

また、Vertiv Holdingsも精密冷却や液体冷却への対応力が高く、大型チラーへの依存度が低いことから、相対的な勝者になる可能性があると分析されています。同社株は一時下落したものの、終値では0.6%高で取引を終えました。

つまり、今回の変化は「チラーから液体冷却へ」という技術シフトを示しており、液体冷却技術に強みを持つ企業にとってはむしろ追い風となる可能性があります。

今後の注意点と展望

投資家が注視すべきポイント

今回の急落は、AI関連投資の難しさを改めて浮き彫りにしました。NVIDIAのような主要プレイヤーの技術発表が、サプライチェーン全体に波及効果をもたらすことが明確になったためです。

投資家が注視すべきポイントは以下の通りです。

  1. Vera Rubinの実際の市場投入時期と普及速度: 2026年後半の出荷開始予定だが、大規模導入には時間がかかる可能性
  2. 既存データセンターの更新サイクル: 新規建設だけでなく、既存施設の冷却システム更新需要は継続
  3. 他のAI半導体メーカーの動向: AMD、Intelなど競合の冷却技術採用状況
  4. 各HVAC企業の事業ポートフォリオ転換: 液体冷却ソリューションへのシフト対応力

技術進化がもたらす構造変化

データセンター冷却市場は、AI需要の急増を背景に成長が期待されていた分野です。しかし今回の発表は、その成長シナリオが必ずしも「従来型チラー企業の成長」を意味しないことを示しました。

重要なのは、冷却需要自体がなくなるわけではないという点です。Vera Rubinでも液体冷却システムは必須であり、むしろ液体冷却の重要性は高まっています。変わるのは「どのような冷却技術が求められるか」という点です。

従来の空冷やチラーベースの冷却から、より効率的な液体冷却へのシフトが加速すると予想されます。この技術転換に対応できる企業が、今後の市場成長の恩恵を受けることになるでしょう。

まとめ

NVIDIAのジェンスン・ファンCEOによるCES 2026での発言は、データセンター冷却市場に大きな衝撃を与えました。次世代Vera Rubinプラットフォームがチラー不要の設計を実現したことで、Johnson ControlsやTrane Technologiesなど従来型冷却装置を提供する企業の株価が急落しています。

ただし、これは冷却需要の消滅ではなく、「技術シフト」と捉えるべきです。液体冷却技術に強みを持つnVent ElectricやVertivなどは、むしろ恩恵を受ける可能性があります。

AI半導体市場の急速な技術進化は、関連サプライチェーン全体に影響を及ぼします。投資家はNVIDIAだけでなく、周辺産業の技術動向にも注目し、変化への対応力を見極めることが重要です。

参考資料:

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