NYダウ588ドル高、トランプ関税撤回で「TACOトレード」再び
はじめに
2026年1月21日、ニューヨーク株式市場でダウ工業株30種平均が急反発し、前日比588ドル(1.2%)高の4万9077ドルで取引を終えました。前日の870ドル安から一転しての大幅上昇です。
きっかけは、トランプ大統領がグリーンランド問題を巡る欧州8カ国への追加関税を撤回したことでした。市場では「やはりTACOだった」との声が広がり、「トランプは最終的に尻込みする」という前提に賭ける投資戦略が再び注目を集めています。本記事では、今回の株価急騰の背景と「TACOトレード」の実態、そのリスクについて解説します。
NYダウ急反発の背景
関税撤回で買い安心感
1月17日、トランプ大統領はグリーンランド取得に反対する欧州8カ国(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、オランダ、フィンランド)に対し、2月1日から10%の追加関税を課すと発表しました。
この発表を受けて、祝日明けの1月20日、ダウ平均は870ドル安と急落。欧米間の貿易戦争激化への懸念が市場を覆いました。
しかし翌21日、トランプ氏はNATOのルッテ事務総長との会談後、「グリーンランドと北極圏全体に関する将来の合意の枠組みを構築した」と発表し、関税を見送る考えを示しました。
この発表を受けて市場の警戒感が一気に後退。ダウ平均は取引時間中に800ドルを超える上げ幅を記録する場面もあり、ナスダック総合指数も270ポイント高の2万3224で取引を終えました。
セクター別の動き
この日は自動車・自動車部品、半導体・同製造装置セクターが上昇を牽引しました。一方、不動産管理・開発セクターは下落しています。
「TACOトレード」とは何か
Trump Always Chickens Out
TACO(タコ)とは「Trump Always Chickens Out(トランプはいつも尻込みする)」の頭文字を取った造語です。2025年5月、フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、ロバート・アームストロング氏が初めてこの言葉を使いました。
トランプ大統領が当初は強硬な姿勢を見せるものの、株価下落や経済への悪影響を懸念して最終的に方針を撤回・軟化させるパターンを皮肉った表現です。
投資戦略としてのTACOトレード
TACOは単なる皮肉だけでなく、具体的な投資戦略も生み出しました。
- トランプ氏が強硬な関税政策を発表
- 株価が急落
- 安値で株式を購入(買い場と判断)
- トランプ氏が方針を撤回・軟化
- 株価が反発したところで売却
「トランプ発言による下落は買い場」という考え方に基づく戦略です。
過去のTACOパターン
フィナンシャル・タイムズのケイティ・マーティン記者は、TACOの典型例として以下の3つを挙げています。
- 「解放の日」関税の一時停止: 2025年4月2日、トランプ氏は各国に高率の「相互関税」を発表。しかし1週間後、株式市場の混乱を受けて90日間の一時停止を発表。市場は史上最大級の1日上昇を記録
- FRB議長解任発言の撤回: パウエルFRB議長の解任を示唆した後、その発言から距離を置く
- 対中関税の引き下げ: 5月の貿易協議で中国への関税引き下げを約束
今回のグリーンランド関税も、このパターンに当てはまりました。
TACOトレードのリスク
「鶏と卵」問題
TACOトレードには構造的な問題があります。レイモンド・ジェームズのワシントン政策アナリスト、エド・ミルズ氏は「政策変更を得るために市場の反応を必要とするのは危険なゲームだ」と指摘しています。
つまり、投資家が「どうせトランプは尻込みする」と広く信じて株を売らなければ、株価は下落しません。株価が下落しなければ、トランプ氏に政策を撤回させる圧力がかからないというジレンマがあります。
トランプ氏が「意地」を見せるリスク
投資銀行パンミュア・リバラムのストラテジスト、ヨアヒム・クレメント氏は「TACOトレードが広まれば広まるほど、トランプ氏が『自分は尻込みしない』と証明するために高い関税を維持する可能性が高まる」と警告しています。
実際、トランプ氏自身はTACOについて「それは交渉と呼ばれるものだ」と述べ、「尻込み」という表現を否定しています。
今回も「本当の」撤回ではない
今回のグリーンランド関税についても、トランプ氏は「見送り」としており、完全な「撤回」ではありません。北極圏の枠組み合意の詳細は不透明であり、交渉が行き詰まれば再び関税カードが持ち出される可能性があります。
注意点・今後の展望
ボラティリティの常態化
TACOトレードの普及は、市場のボラティリティ(価格変動)が常態化することを意味します。トランプ氏の発言一つで数百ドル単位の急騰・急落が起きる状況は、長期投資家にとってストレスの原因となります。
第一生命経済研究所は「TACOは投資戦略にも影響を与えている」と分析しつつ、短期的な売買を繰り返すことのリスクにも注意を促しています。
「次」に賭けるリスク
過去にTACOパターンが成功したからといって、次も同じ結果になるとは限りません。トランプ政権の政策判断は予測困難であり、「今回は違う」展開になる可能性は常に存在します。
特に、米中関係や欧州との貿易摩擦など、より根本的な対立が深刻化した場合、簡単に撤回できない状況に追い込まれる可能性もあります。
まとめ
2026年1月21日のNYダウ588ドル高は、トランプ大統領の欧州関税撤回を受けた「TACOトレード」の典型的な展開でした。「トランプは最終的に尻込みする」という期待に賭ける投資家にとっては、前日の下落が絶好の買い場となりました。
しかし、TACOトレードには「鶏と卵」問題や、トランプ氏が意地を見せるリスクが存在します。短期的な値動きに翻弄されず、政策の不確実性を織り込んだ慎重な投資判断が求められます。
参考資料:
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