大阪ダブル選、主要4党が候補擁立見送り
はじめに
大阪府の吉村洋文知事(日本維新の会代表)と大阪市の横山英幸市長(同副代表)が2026年1月16日付で辞職し、出直し選挙に臨む意向を表明したことに対し、主要政党が一斉に反発しています。自民党大阪府連は1月17日、独自候補の擁立を見送る方針を決定し、立憲民主党、公明党、共産党も同様の対応を取ることを表明しました。4党が足並みを揃えて対抗馬擁立を見送るという異例の事態は、今回の出直し選挙に「大義がない」との批判が広く共有されていることを示しています。さらに、身内である日本維新の会内部からも異論が噴出しており、吉村氏が目指す3度目の大阪都構想挑戦は、スタート前から大きな逆風に直面しています。
出直し選挙の背景と経緯
3度目の都構想挑戦
大阪都構想は、大阪市を廃止して複数の特別区に再編する構想で、日本維新の会の看板政策です。2015年5月17日の第1回住民投票では、賛成694,844票、反対705,585票で、わずか10,741票差(投票率66.83%)で否決されました。その後、維新は構想を練り直し、2020年11月1日に2回目の住民投票を実施しましたが、賛成675,829票、反対692,996票で、17,167票差(投票率62.35%)で再び否決されました。
2020年の否決後、当時の松井一郎大阪市長は政界引退を表明し、吉村知事も「3度目の住民投票はない」と明言していました。しかし、2024年12月1日に日本維新の会代表に選出された吉村氏は、大阪都構想への挑戦を再び掲げ、出直し選挙という手法で民意を問う方針に転じたのです。
衆院選との同日実施を狙う戦略
吉村・横山両氏の辞職表明は、次期衆議院議員総選挙の投開票日として有力視されている2月8日との同日実施を狙ったものです。知事選の告示は1月22日、市長選の告示は1月25日となる見通しで、極めてタイトな日程での選挙実施が想定されています。
吉村氏は1月15日の記者会見で「三度目の都構想に挑戦するのであれば、民主的プロセスが必要」と説明しました。しかし、都構想は前回選挙の公約に掲げておらず、任期途中での辞職による出直し選挙の正当性については、大きな疑問が呈されています。
各党の反応と候補擁立見送りの背景
自民党「壮大な独り相撲」
自民党大阪府連の松川るい会長は、1月17日の市内での会合後の記者会見で、「こんな突然選挙をやって、結果を得ても民意を得たことになるのか疑問だ。壮大な独り相撲だ」と厳しく批判しました。自民党は、今回の出直し選挙に大義がなく、対抗馬を擁立して正面から争う価値がないと判断したのです。
松川会長の発言は、維新が衆院選との同日実施により選挙費用を節減し、対立陣営の準備不足を狙った不意打ち的な戦略を取っていることへの不満を表しています。自民党としては、短期間で候補者を擁立し選挙戦を戦う体制を整えることが困難であるという現実的な判断もあったと見られます。
公明党「相手にしない」
公明党大阪府本部の幹部は「相手にしない。大金を使って選挙をする大義がないから、候補など出さない」と明言しました。公明党は従来、大阪都構想に反対の立場を取ってきましたが、今回は選挙そのものに正当性がないとして、対抗馬擁立を見送る判断をしました。
共産党の候補見送り
共産党は1月16日、府知事・市長選に候補者を出さない方針を固めました。共産党は過去2回の住民投票で都構想反対運動を展開してきた経緯がありますが、今回は選挙戦での対決ではなく、選挙そのものへの批判に重点を置く戦略を選択しました。
立憲民主党と連合大阪の対応
立憲民主党の支持団体である連合大阪は、「組合員に『白票』の投函を呼びかけることを検討する」と発表しました。これは、選挙をボイコットするのではなく、投票所には行くものの、どの候補者も支持しないという意思表示を促すものです。白票戦略は、投票率の低下を招かずに、選挙の正当性に疑問を投げかける狙いがあります。
維新内部からの異論
前原誠司氏の批判
日本維新の会前共同代表の前原誠司氏は1月15日、記者団の質問に対し、ダブル選について「する意味が分からない」と明言しました。前原氏は国政レベルでの維新の要職にあった人物であり、その発言は党内の意見が一枚岩ではないことを浮き彫りにしました。
大阪市議団の反対決議
さらに深刻なのは、大阪維新の会の大阪市議団が1月15日に緊急総会を開催し、ダブル選について反対する決議を行ったことです。地元組織が党代表の方針に反対決議を出すという異例の事態は、今回の出直し選挙が維新内部でも十分なコンセンサスを得られていないことを示しています。
市議団の反対理由としては、選挙費用の負担、短期間での選挙準備の困難さ、そして2度の住民投票で否決された都構想を再び持ち出すことへの疑問などが挙げられています。
出直し選挙の問題点
多額の税金負担
出直し選挙には多額の税金が投入されます。過去の事例では、2014年の大阪市長選挙で市が支出した選挙費用は約5億円に上り、市民団体から税金の無駄遣いだとして訴訟が起こされた経緯があります(大阪地裁は違法性を否定して請求を棄却)。
今回のダブル選挙でも、知事選と市長選を合わせて数億円規模の税金が使われる見込みです。公明党幹部が「大金を使って選挙をする大義がない」と批判したのは、こうした財政負担への懸念を反映しています。
無投票当選の場合でも、投票用紙や選挙ポスターの公設掲示板などの準備に費用がかかります。今回、主要政党が対抗馬を擁立しなければ無投票当選となる可能性が高く、その場合でも一定の選挙費用が発生することになります。
政治的戦略としての出直し選挙
1962年の法改正以降、出直し選挙で前職が当選した場合、任期は元の任期の残任期間となるため、結果的に短い任期で再び選挙が実施されることになります。これは、選挙費用の二重負担につながる構造的な問題です。
また、現職首長が対立陣営の準備不足を狙って不意打ち的に辞任し、出直し選挙に臨むという政治的戦略が多発したことが、過去に問題視されてきました。今回のケースも、衆院選との同日実施により対立陣営の準備時間を奪う意図があると見られており、こうした戦略的な出直し選挙の問題点が改めて浮き彫りになっています。
大阪都構想の歴史と課題
2度の住民投票の経緯
大阪都構想は、大阪市を廃止し、複数の特別区(2015年案は5区、2020年案は4区)に再編する構想です。東京23区のような体制を大阪に導入し、府と市の二重行政を解消し、効率的な広域行政を実現することを目指しています。
しかし、2015年と2020年の2度の住民投票で、いずれも僅差ながら否決されました。反対派は、大阪市という基礎自治体が消滅することによる住民サービスの低下や、特別区設置に伴う移行コストの大きさを懸念し、賛成派は二重行政の解消と広域行政の効率化を訴えました。
毎日新聞の報道によれば、2013年以降の大阪都構想関連業務の総費用は、人件費や選挙関連経費を含めて100億円を超えています。この巨額の費用をかけながら、2度の住民投票で否決されたという事実は、構想の正当性に重い疑問を投げかけています。
3度目の挑戦の困難
吉村氏が3度目の挑戦に踏み切った背景には、維新の支持基盤である大阪での求心力維持という政治的動機があると見られます。しかし、2020年の否決後に「3度目の住民投票はない」と明言していた経緯があり、方針転換の説得力が問われています。
さらに、今回の出直し選挙は住民投票そのものではなく、知事・市長選挙で都構想への挑戦の是非を問うという間接的な形式です。仮に両氏が当選したとしても、それが直ちに都構想への賛成を意味するわけではなく、改めて住民投票を実施する必要があります。この複雑なプロセスが、有権者の理解を得られるかは不透明です。
注意点・展望
無投票当選の可能性と正当性の問題
主要4党が候補擁立を見送った結果、吉村・横山両氏が無投票当選する可能性が高まっています。しかし、無投票当選では民意を十分に問うたとは言い難く、都構想推進の正当性を主張することは困難です。連合大阪が白票投函を呼びかけているのは、こうした正当性の欠如を可視化する戦略といえます。
無投票当選の場合、選挙費用は抑えられる一面もありますが、民主的プロセスを経ずに任期を更新することへの批判は避けられません。吉村氏が「民主的プロセスが必要」と述べながら、実際には競争相手のいない選挙となる可能性があるという矛盾が生じています。
衆院選への影響
今回のダブル選が衆院選と同日実施される場合、大阪における選挙戦の構図に影響を与える可能性があります。維新は大阪を地盤とする政党であり、知事・市長選での話題が衆院選にも波及することが予想されます。
一方で、他党が「大義なき選挙」として批判を強めることで、維新の政治手法そのものが争点化する可能性もあります。出直し選挙への批判が、衆院選での維新の支持率に影響を与えるかどうかが注目されます。
地方自治と民意の在り方
今回の事態は、出直し選挙という制度そのものの是非を問う契機ともなっています。現職首長が任期途中で辞職し、再選を狙うという手法は、法的には可能ですが、政治的・倫理的な正当性については議論の余地があります。
今後、出直し選挙の濫用を防ぐための制度改正の議論が進む可能性もあります。特に、短期間での再選挙による財政負担や、対立陣営の準備不足を狙った不意打ち的な辞職については、何らかの規制が必要との声が高まる可能性があります。
まとめ
大阪府知事・市長の出直し選挙に対し、自民党、立憲民主党、公明党、共産党の主要4党が候補擁立を見送るという異例の事態が発生しています。これは、吉村知事・横山市長が目指す3度目の大阪都構想挑戦に「大義がない」との批判が広く共有されていることの現れです。
大阪都構想は2015年と2020年の2度の住民投票で否決されており、関連業務に100億円を超える費用が投じられてきました。吉村氏は「民主的プロセスが必要」として出直し選挙を正当化していますが、主要政党の不参加により無投票当選となる可能性が高く、民意を問うという目的は達成されない見通しです。
さらに深刻なのは、日本維新の会内部からも異論が噴出していることです。前原誠司前共同代表の批判や、大阪維新の会市議団の反対決議は、党内のコンセンサス形成が不十分であることを示しています。
出直し選挙は多額の税金を必要とし、対立陣営の準備不足を狙った政治的戦略として批判されています。今回の事態は、出直し選挙制度の在り方や、地方自治における民意の尊重について、改めて考える契機となるでしょう。2月8日に予定される選挙の結果がどうなろうと、その正当性と今後の展開には大きな疑問符がついています。
参考資料:
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