プルデンシャル生命31億円不正、成果主義の闇と再発防止の課題
はじめに
外資系生命保険大手プルデンシャル生命保険で、100人超の社員・元社員が顧客約500人から合計約31億円を不正に受領していた問題が発覚しました。不正行為は1991年から30年以上にわたって続いていたことが明らかになっています。
「最強の営業集団」と呼ばれたプルデンシャル生命で、なぜこのような大規模な不正が長年にわたり見過ごされてきたのでしょうか。背景には、歩合給中心の報酬制度と、営業社員への監視体制の不備がありました。
本記事では、事件の概要と背景、生命保険業界が抱える構造的な問題、そして再発防止に向けた課題について解説します。
事件の概要
発覚した不正の規模
2026年1月16日、プルデンシャル生命保険は社内調査の結果を発表しました。100人超の社員・元社員が、約500人の顧客から不適切に金銭を受領しており、その総額は約31億円に達します。
内訳を見ると、制度や保険業務に関連する金銭詐取等が約6,000万円、制度・保険業務とは直接関係しない不適切行為で在職中に約16.3億円、退職後に約14.5億円が受け取られていました。返還されたのは約8億円にとどまり、22億円以上が未補償のまま残っています。
不正行為の内容
不正の手口は多岐にわたります。架空の投資話を持ちかけて金銭をだまし取るケース、国内で認められていない金融商品を紹介するケースなどがありました。
また、金銭の受領は確認されないものの、社内規程で取り扱いが認められていない投資商品や業者の「紹介」が69名・顧客240名で確認されています。保険営業を入り口として、顧客との信頼関係を悪用した行為が横行していたのです。
30年以上にわたる不正
不正受領は、米国本社が日本法人を設立した1987年からわずか4年後の1991年に始まっていました。2025年まで30年以上にわたって不正が続いていたにもかかわらず、会社側は事態を把握できていませんでした。
報酬を目当てに顧客との関係を「密室化」する営業社員への監視が行き届かなかったことが、長期間の不正を許す原因となりました。
不正の背景
成果主義の報酬制度
プルデンシャル生命は、営業社員の報酬が「業績に過度に連動する」設計であったことを認めています。いわゆるフルコミッション(完全歩合制)に近い報酬体系は、優秀な営業社員を惹きつける一方で、過度なプレッシャーを生み出す土壌となりました。
契約を取らなければ収入が得られないという環境の中で、一部の営業社員は顧客を不正な投資に誘導するようになりました。成果主義への牽制が効かず、コンプライアンスに反する行動の動機や機会を与えてしまったのです。
営業社員への監視不足
プルデンシャル生命の営業社員は、基本的に個人で活動することが多く、会社側がいつ、どこで、誰に営業活動を行っているかを把握する仕組みが十分ではありませんでした。
顧客との関係が「密室化」しやすい構造の中で、不正を早期に発見する体制が整っていなかったことが、問題を長期化させました。日常の意思疎通など不正を把握する体制が欠如していたのです。
コンプライアンス体制の不備
コンプライアンス上の問題について気軽に相談できる窓口がない、支社・営業所に対する他部門の牽制が不十分、不適切行為を行った営業職員への処分が甘いなど、複数の問題が指摘されています。
不正行為につながる懸念のある営業職員の属性情報(多額の借金等)を十分に把握できていないことも、リスク管理の不備として挙げられています。
生命保険業界の構造的問題
相次ぐ営業職員の不祥事
プルデンシャル生命の問題は、生命保険業界全体に共通する課題を浮き彫りにしています。2020年以降、第一生命、メットライフ生命、明治安田生命、ソニー生命、大同生命、日本生命、東京海上日動あんしん生命と、大手を含めて顧客からの金銭詐取事件が相次いで発覚しています。
各社に共通するのは、営業職員への依存度の高さと、歩合給中心の報酬体系です。「売れば稼げる」という構造が、コンプライアンス意識よりも契約獲得を優先させる文化を生み出しています。
1社専属制の問題
生命保険の営業職員は、基本的に自社の商品しか扱えない「1社専属」です。顧客のニーズに合わない場合でも、何とか自社商品で対応しようとするインセンティブが働きます。
この構造は、顧客本位の営業を阻害する要因となっています。顧客にとって最適な商品を提案するよりも、自社の契約を取ることが優先されがちなのです。
金融庁の監督強化
金融庁は、営業職員の不正行為を減らすための取り組みを厳しくモニタリングする姿勢を示しています。コンプライアンスに関する統括部門の設置、各営業拠点のコンプライアンス担当者の配置、内部監査態勢の整備などを求めています。
2023年2月には生命保険協会が「営業職員チャネルのコンプライアンス・リスク管理態勢の更なる高度化にかかる着眼点」を取りまとめ、業界全体での取り組みが進められています。
再発防止と被害者救済
経営責任と人事刷新
プルデンシャル生命は、間原寛社長が2026年2月1日付で辞任することを発表しました。後任には、同じプルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパン傘下の生命保険会社社長である得丸博充氏が就任します。
経営陣の交代により、企業文化の刷新と信頼回復を図る狙いがあります。
被害者への補償
同社は被害者への補償について、第三者の専門家による補償委員会を設置することを発表しました。補償委員会で認定した不正事案については「全額会社が補償する」としています。
ただし、不正に受領された約31億円のうち、返還されたのは約8億円にとどまっており、残りの22億円超の補償がどのように進められるかが課題となっています。
再発防止策
同社は再発防止策として、以下の取り組みを表明しています。
- 社員がいつ、どこで、誰に営業活動を行っているかを把握できるシステムの整備
- 教育・研修の強化
- 人事処分ガイドラインの改定と不適正行為への処分厳格化
- 「お客様本位の観点から不適切と考えられる行為」も処分対象とすることの明確化
「セールスよりもコンプライアンス優先の文化へ」の醸成が求められています。
まとめ
プルデンシャル生命の31億円不正受領問題は、成果主義に偏った報酬制度と監視体制の不備が招いた結果です。30年以上にわたり不正が見過ごされてきたことは、企業のガバナンスに重大な欠陥があったことを示しています。
この問題は、プルデンシャル生命だけでなく、生命保険業界全体が抱える構造的な課題を浮き彫りにしています。歩合給中心の報酬体系、1社専属制、営業職員への監視不足など、業界全体で取り組むべき問題が山積しています。
被害者への補償と再発防止の取り組みが着実に進められることを期待するとともに、生命保険業界全体が「顧客本位」の営業文化への転換を図ることが求められています。
参考資料:
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