プルデンシャル生命、31億円不正で社長陳謝・給与制度見直しへ
はじめに
外資系生命保険大手のプルデンシャル生命保険が、前代未聞の不祥事に揺れています。100人を超える社員や元社員が、約500人の顧客から総額約31億円もの金銭を不正に受領していたことが発覚。2026年1月23日、同社は都内で記者会見を開き、間原寛社長が深く陳謝しました。
この問題は、1991年から35年近くにわたって続いていたことが判明しており、生命保険業界全体のガバナンス体制が問われる事態となっています。本記事では、事件の全容と背景、そして今後の再発防止策について解説します。
事件の全容
100人超が関与、被害額は約31億円
プルデンシャル生命保険が1月16日に公表した調査結果によると、100人を超える社員や元社員が顧客に架空の投資話などを持ちかけ、金銭をだまし取ったり借りたりする不適切な行為を繰り返していました。
被害者は約500人に及び、1991年から2025年にかけて計約31億円が不正に受領されました。このうち約23億円は未だ弁済されていない状況です。
不正行為の3つのパターン
不正の内訳は以下の3種類に分類されています。
1. 会社の信用・制度を悪用した詐欺(約6000万円) プルデンシャル生命の社員であることを利用し、会社公認の投資商品であるかのように装って顧客から金銭を詐取したケースです。
2. 個人的な投資勧誘・金銭の貸借(約30億8000万円) 最も被害額が大きいのがこのパターンです。社員が顧客との信頼関係を悪用し、個人的に投資話を持ちかけたり、金銭を借り入れたりしていました。
3. 規定外の投資商品・業者の紹介(約13億1000万円) 会社が認めていない投資商品や業者を顧客に紹介し、手数料などの利益を得ていたケースも確認されています。
35年にわたり不正が継続
特に深刻なのは、こうした不正が1991年から断続的に発生していたという点です。長期間にわたって組織的なチェック機能が働かず、問題を早期に発見・是正できなかったことになります。
経営責任と人事
間原社長が引責辞任
2026年1月23日の記者会見には、2月1日付で引責辞任する間原寛社長と、後任の得丸博充氏が出席しました。間原社長は「信頼を裏切り、深く反省している」と顧客や関係者に陳謝しました。
後任の得丸博充氏は、プルデンシャルジブラルタファイナンシャル生命保険の社長兼CEOを務めていた人物です。20年以上にわたり保険事務から営業統括まで幅広い経験を持ち、2022年7月から同職に就いています。
顧問就任に批判、7月退任へ
間原前社長については、辞任後に同社顧問に就任することが発表されていましたが、この人事に批判が殺到しました。「1億円近い退職金が支払われる」との報道もあり、責任の取り方として不十分だとの声が上がっています。
こうした批判を受け、間原氏は7月末に顧問を辞任する予定であることが明らかになりました。
不正が蔓延した背景
完全歩合制の報酬体系
プルデンシャル生命の特徴的なビジネスモデルが、今回の不正の温床となったと指摘されています。
同社では、営業職員を「ライフプランナー」と呼び、入社3年目以降は完全歩合制(フルコミッション)を採用しています。契約を取得すると、顧客が支払う年間保険料の30〜40%程度が収入となる仕組みです。成功すれば年収1000万円以上、トップ層では2〜3億円も可能とされる一方、契約が取れなければ収入はゼロになります。
会社側も「業績に過度に連動する報酬制度が金銭的利益を重視する志向を持つ人材を惹き付けた」と、制度の問題点を認めています。
顧客との密な関係性がリスクに
プルデンシャル生命は、大卒男性が主体のライフプランナーが顧客と長期的な関係を築く営業モデルを打ち出してきました。しかし、この「密な関係性」が仇となりました。
会社は「営業管理職による適切な管理や本社による十分なけん制がなされない中で、営業社員とお客さまの間に密な関係性が築かれ、不適切な事象の検知が十分ではなかった」と分析しています。
生命保険業界全体の構造的問題
今回の問題は、プルデンシャル生命だけの話ではありません。2020年以降、第一生命、メットライフ、明治安田、ソニー生命、大同生命、日本生命、東京海上日動あんしん生命と、立て続けに顧客からの金銭詐取事件が発覚しています。
金融庁は、1社専属の営業職員制度そのものに構造的な問題があると見ています。自社商品しか扱えないため、顧客ニーズに合わない場合でも自社商品で対応しようとするインセンティブが働きやすく、歩合給の割合が高い報酬体系では契約獲得のプレッシャーが常につきまとうためです。
再発防止策と今後の対応
給与モデルの再構築を表明
記者会見で同社は、実績次第で給与が大きく変動する営業担当者の給与モデルを再構築する方針を示しました。完全歩合制の見直しにより、過度な成果主義から脱却し、コンプライアンス意識の向上を図る狙いがあります。
顧客被害の補償拡大
未弁済となっている約23億円の被害について、同社は顧客補償の拡大を実施する方針を表明しました。詳細な補償基準や手続きについては今後発表される見通しです。
金融庁の監視強化
金融庁は「顧客本位の業務運営」に反する不正行為の頻発を重く見ており、業界を挙げた是正に取り組むよう厳命しています。2023年には生命保険協会に対し「営業職員チャネルのコンプライアンス・リスク管理態勢の更なる高度化にかかる着眼点」の策定を求めており、今後も監視を強化していく方針です。
注意点と今後の展望
契約者への影響
今回の不祥事は、既存の保険契約自体に影響を与えるものではありません。ただし、被害に遭った可能性のある顧客は、同社に設置された相談窓口への連絡が推奨されます。
業界全体の信頼回復が課題
生命保険は長期にわたって顧客の人生設計を支える商品です。それだけに、営業職員への信頼は商品の根幹を成しています。今回の事件を機に、業界全体で営業職員の管理体制やインセンティブ設計の見直しが進むことが期待されます。
まとめ
プルデンシャル生命保険の金銭詐取問題は、100人を超える社員が35年にわたって約31億円を不正受領するという、生命保険業界史上でも類を見ない規模の不祥事となりました。
会見で間原社長は深く陳謝し、実績連動型の給与モデル再構築と顧客補償の拡大を表明しました。しかし、完全歩合制という報酬体系や、顧客との密な関係性を活かしたビジネスモデルそのものが不正の温床となっていた以上、表面的な対策だけでは信頼回復は困難です。
生命保険は人生の大きな節目で頼りにされる商品です。今回の事件を教訓に、業界全体で顧客本位の業務運営を徹底することが強く求められています。
参考資料:
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