カンタス航空がジェットスター・ジャパンから撤退、DBJが新株主に
はじめに
オーストラリア航空大手カンタスグループが、日本のLCC(格安航空会社)ジェットスター・ジャパンから撤退することが明らかになりました。2026年2月3日、日本航空(JAL)、カンタス航空、日本政策投資銀行(DBJ)、東京センチュリー、ジェットスター・ジャパンの5社が共同で発表しました。
カンタスグループは保有する全株式(33.3%)をDBJに譲渡し、2027年6月には新ブランドでの事業がスタートする予定です。2012年の就航から約14年、日本のLCC市場を牽引してきた「ジェットスター」ブランドが日本から姿を消すことになります。
本記事では、今回の株主構成変更の背景、日本のLCC市場の現状、そして新体制で期待される今後の展開について解説します。
カンタス撤退の経緯と背景
国内線の収益悪化が決定打に
ジェットスター・ジャパンは成田空港を拠点に国内線を中心に運航してきましたが、近年は収益面で苦戦が続いていました。新型コロナウイルス禍後のビジネス客減少、燃料費の高騰、そして新幹線との競争激化が重なり、黒字化への道のりは険しい状況でした。
特に国内線では、東京−大阪間など主要ルートで新幹線と激しく競合しています。LCCの低価格を武器にしても、新幹線の利便性や定時性には及ばず、価格競争だけでは限界がありました。
カンタスグループの戦略的再編
カンタスグループは、ジェットスター・ジャパンからの撤退だけでなく、アジア太平洋地域全体で事業再編を進めています。2025年7月にはシンガポールを拠点とするジェットスター・アジア航空の事業も終了しました。
同グループは「歴史的な機材更新プログラムを支援する戦略的再編」と説明しており、最大5億豪ドル(約500億円)相当の機材資本を本国オーストラリアの中核事業に再投資する方針です。成長が見込みにくい海外事業から撤退し、経営資源を集中させる判断といえます。
14年間の軌跡
ジェットスター・ジャパンは2011年8月に設立が発表され、2012年7月に成田空港から国内線の運航を開始しました。当初はカンタスグループ、JAL、三菱商事の3社が各3分の1ずつ出資する形でスタートしました。
その後、2012年に東京センチュリーリース(現・東京センチュリー)が三菱商事から株式の一部を譲受して出資に参加。2014年には関西国際空港を第2ハブ、2018年には中部国際空港を第3ハブとして拠点を拡大してきました。
就航から累計5,500万人以上の乗客を運び、日本のLCC市場の拡大に大きく貢献しました。2013年からはJALとのコードシェア便として国内線全路線を運航し、JAL国際線との乗り継ぎ利用も可能になっています。
新たな株主構成と今後のスケジュール
DBJが新株主として参画
今回の株主構成変更では、カンタスグループが保有する全株式(33.3%)をDBJに譲渡します。譲渡後の株主構成は以下の通りです。
- JAL:50.0%(変更なし)
- DBJ:33.3%(新規参画)
- 東京センチュリー:16.7%(変更なし)
DBJは政府系金融機関として航空業界に豊富な知見を持っています。過去にもJALの経営再建に関与した実績があり、その経験を活かした経営支援が期待されます。
ブランド変更のタイムライン
今後のスケジュールは以下の通り発表されています。
- 2026年7月:最終合意
- 2026年10月:新ブランド名を発表
- 2027年6月:株式譲渡完了、新ブランドでの事業開始
「ジェットスター」はカンタスグループに帰属するブランド名のため、カンタスの出資引き上げに伴い使用できなくなります。シルバーとオレンジを基調とした現在の機体デザインも見納めとなります。
運航への影響はなし
今回の株主体制の変更による運航計画への影響はありません。現在運航している国内線18路線・国際線5路線は引き続き維持される見込みです。利用者は従来通りのサービスを受けることができます。
日本のLCC市場の現状と競争環境
大手2社に次ぐLCC3社の存在感
日本の航空市場はANAとJALの大手2社で約7割の輸送力を占めています。これに続くのがLCC3社(ピーチ・アビエーション、ジェットスター・ジャパン、スプリング・ジャパン)で、合計シェアは約15%です。
LCCの中ではANAグループのピーチが最大手で、ジェットスター・ジャパンがこれに次ぐ規模を持っています。両社は関西・成田を拠点にしながらも路線が重複する部分が多く、一騎打ちの様相を呈しています。
JALグループのLCC戦略
JALグループには現在、3つのLCCブランドが存在します。
- ジェットスター・ジャパン:国内線と近距離アジア国際線
- ZIPAIR:成田を拠点に北米・アジアの中長距離路線
- スプリング・ジャパン:中国路線を中心に展開
特にスプリング・ジャパンは中国系LCC「春秋航空」の日本法人でしたが、2021年にJALの傘下に入りました。ジェットスター・ジャパンの新体制移行後も、JALは複数のLCCブランドを擁する体制を維持することになります。
運賃値上げの動き
2024年度には、LCC各社が航空券の値上げに動きました。値上げ率はスプリング・ジャパンが8.86%、ピーチが5.43%、ジェットスターが3.26%でした。燃料費高騰や人件費上昇が背景にあります。
ただし、1キロあたりの運賃単価で見ると、ピーチが8.6円、ジェットスターが8.9円と、大手航空会社の約半額の水準を維持しています。低価格というLCCの基本的な強みは保たれているといえます。
新体制で期待される成長戦略
インバウンド需要の取り込み
JALの斎藤裕二副社長は「これから伸ばすのは短距離国際線」と述べ、特にアジア市場の開拓に意欲を示しています。訪日外国人客(インバウンド)は増加傾向にあり、アジアからの観光客を取り込む短距離国際線の強化は理にかなった戦略です。
新体制では、DBJの持つ航空業界への知見を活かしながら、国内線の盛り返しとインバウンド対応の両立を目指します。地方空港への送客強化も重要なテーマとなるでしょう。
経営の自立性は維持
共同リリースによると、新会社は「引き続きLCCとしての自立的な運営を維持」する方針です。JALの完全子会社化ではなく、独立したLCCとしての運営を続けることで、低コスト体質を維持しながら成長を目指します。
株主との新たなシナジー創出により、顧客価値やサービス品質の向上も図るとしています。ブランド変更を機に、サービス面での差別化も進む可能性があります。
注意点・今後の展望
ブランド移行に伴う注意点
2027年6月の新ブランド移行に向けて、利用者は以下の点に注意が必要です。
- マイレージプログラムの取り扱いが変更される可能性
- 予約システムや公式サイトのURL変更
- 機体デザインやサービス内容の変更
移行期間中の詳細は、今後順次発表される見込みです。現時点では運航への影響はないとされていますが、予約済みの便についても情報をチェックしておくと安心です。
日本のLCC市場の行方
カンタスの撤退は、日本のLCC市場が成熟期に入ったことを示唆しています。黎明期の拡大フェーズから、収益性を重視するフェーズへと移行しているといえるでしょう。
今後は、単なる低価格競争だけでなく、サービス品質やネットワークの充実度で差別化を図る動きが加速すると予想されます。新ブランドがどのようなポジショニングを取るのか、2026年10月の発表が注目されます。
まとめ
カンタス航空のジェットスター・ジャパンからの撤退は、14年続いた日豪航空大手の提携に幕を下ろすものです。背景には国内線の収益悪化と、カンタスグループの戦略的再編があります。
新たにDBJが株主として参画し、JAL・東京センチュリーとともに新体制を構築します。2027年6月には新ブランドでの事業がスタートし、「ジェットスター」の名前は日本から消えることになります。
新会社はインバウンド需要の取り込みや短距離国際線の強化を目指しており、日本のLCC市場における存在感を維持・拡大していく方針です。利用者にとっては、新ブランドがどのような価値を提供してくれるのか、今後の発表に注目していきましょう。
参考資料:
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