実質賃金11カ月連続マイナス、2026年度プラス転換は実現するか
はじめに
厚生労働省が2026年1月8日に発表した毎月勤労統計調査によると、2025年11月の実質賃金は前年同月比2.8%減となり、11カ月連続のマイナスを記録しました。2025年は3%を超える物価上昇が続き、2年連続の高水準の賃上げにもかかわらず、実質的な購買力の低下が続いています。
政府は電気・ガス代への補助復活などの政策効果により、2026年度には実質賃金がプラスに転じると予測しています。しかし、円安による食料品価格の上振れリスクも残っており、家計の回復は予断を許さない状況です。
2025年11月の統計結果
実質賃金2.8%減
物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比2.8%減少しました。2025年1月以来、11カ月連続でのマイナスとなっています。物価上昇に賃金の伸びが追いついていないことが、長期にわたるマイナスの原因です。
名目賃金は微増
名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は31万202円で、前年同月比0.5%増でした。基本給にあたる所定内給与は27万41円で2.0%伸びています。
2025年の春季労使交渉が2年連続で高水準の賃上げにつながり、所定内給与の伸びを支えています。しかし、特別給与(ボーナス)の減少により、名目賃金全体の伸びは大幅に鈍化しました。
物価上昇が続く
2025年は3%を超える物価上昇が続いています。食料品や日用品を中心とした値上げが相次ぎ、賃金の増加分を上回る物価高が家計を圧迫しています。
実質賃金低迷の背景
物価と賃金の「いたちごっこ」
日本では長らくデフレが続いていましたが、2022年以降は物価上昇に転じました。一方、賃金の上昇ペースは緩やかで、物価上昇に追いついていません。
企業収益は改善しているものの、人件費への還元が十分でないとの指摘もあります。特に中小企業では価格転嫁が難しく、賃上げ原資の確保に苦慮するケースが多いとされています。
円安の影響
円安は輸入品の価格上昇を通じて物価を押し上げます。食料品やエネルギーの多くを輸入に頼る日本では、円安が家計に与える影響は大きくなります。
2025年も円安傾向が続いており、これが物価上昇の一因となっています。
構造的な問題
日本の実質賃金は過去30年間ほぼ横ばいで推移しており、先進国の中で低い伸びにとどまっています。労働生産性の向上が進まない中、持続的な賃上げには限界があるとの見方もあります。
2026年度の見通し
政府の予測
政府は、電気・ガス代への補助復活といった政策効果により、2026年度には実質賃金がプラスに転じると見込んでいます。エネルギー価格補助により、消費者物価指数の上昇が抑制されることが期待されています。
民間機関の予測
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの予測では、2025年度の実質賃金上昇率は-0.8%と低迷した後、2026年度は+0.5%、2027年度は+0.1%に改善する見込みです。
今後は実質賃金の改善が続き、2026年度にはプラスでの推移が定着するとの見方が示されています。
物価上昇率の見通し
公益社団法人日本経済研究センターによると、2025年度の物価上昇率は2.06%、2026年度には2%を切る水準になる見込みです。物価上昇のペースが緩やかになれば、賃金の伸びが追いつきやすくなります。
2026年春闘の動向
連合の賃上げ要求
労働組合の中央組織である連合は、2026年の春季労使交渉でベースアップで3%以上、定期昇給との合計で5%以上の賃上げを要求する方針を発表しています。
3年連続での高水準の賃上げ実現を目指していますが、経済環境の変化により、企業側の対応がどうなるかは不透明です。
賃上げ率低下の懸念
一方、ニッセイ基礎研究所は2026年の賃上げ率が大幅に低下すると予測しています。物価上昇率の鈍化により、大きな賃上げを行わなくても従業員の生活水準を維持可能との見方から、企業が賃上げに消極的になる可能性があるとしています。
リスク要因
円安による物価上振れ
円安がさらに進行すれば、輸入品価格の上昇を通じて物価が上振れするリスクがあります。特に食料品は輸入依存度が高く、家計への影響は直接的です。
物価上昇率が予想を上回れば、実質賃金のプラス転換が遠のく可能性があります。
海外経済の不確実性
米国の金融政策や世界経済の動向によっては、日本の輸出企業の業績に影響が及び、賃上げ余力が低下する恐れもあります。
エネルギー価格の変動
原油や天然ガスの国際価格は地政学的リスクの影響を受けやすく、エネルギー価格が急騰すれば、政府の物価対策効果が相殺される可能性があります。
家計への影響と対策
消費行動の変化
実質賃金の低迷により、家計は消費を抑制する傾向にあります。生活必需品以外への支出を控え、節約志向が強まっています。
企業の価格転嫁
小売業や外食産業では、原材料費や人件費の上昇を価格に転嫁する動きが続いています。消費者物価の上昇は当面続く見通しです。
政府の対策
政府は電気・ガス代補助の復活のほか、低所得世帯への給付金支給などの対策を講じています。ただし、恒久的な対策ではなく、効果の持続性には限界があります。
まとめ
2025年11月の実質賃金は前年比2.8%減で、11カ月連続のマイナスとなりました。3%を超える物価上昇に賃上げが追いついていない状況が続いています。
政府は2026年度のプラス転換を予測していますが、円安による物価上振れリスクも残っています。2026年春闘での賃上げ動向と、物価上昇のペースが、家計の回復を左右する重要な要素となります。
参考資料:
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