レゾナック銅張積層板30%値上げの背景と業界への影響
はじめに
レゾナック・ホールディングス傘下のレゾナックが、電子回路基板向けの銅張積層板(CCL)およびプリプレグの販売価格を全製品で30%以上引き上げると発表しました。2026年3月1日出荷分から実施されます。
銅張積層板は、スマートフォンやパソコン、自動車の電子制御ユニットなど、あらゆる電子機器のプリント基板に使われる基幹材料です。今回の大幅値上げは、原材料である銅箔やガラスクロスの需給逼迫が主因とされていますが、その背景にはAI半導体需要の急拡大という構造的な変化があります。
本記事では、値上げの詳細な背景、業界全体への影響、そしてレゾナックの事業戦略との関連を解説します。
値上げの背景:原材料の需給逼迫
銅箔価格の高騰
銅張積層板の主要原材料である銅箔は、世界的な需給関係や地政学的要因、為替変動の影響を受けて価格が上昇しています。銅はEV(電気自動車)のモーターやバッテリー、再生可能エネルギーのインフラにも大量に使われるため、複数の産業から引き合いが強まっています。
CCLメーカーにとって、銅箔の価格上昇は生産コストに直接影響を与え、利益率を圧迫する要因です。レゾナックだけでなく、パナソニック インダストリーも同様に銅張積層板・プリプレグの価格改定を発表しており、業界全体の動きとなっています。
ガラスクロス(T-Glass)の供給タイト化
もう一つの重要な原材料であるガラスクロスについても、深刻な需給逼迫が起きています。特にBT基板やABF基板などの高性能基板に使用されるT-Glassは、主要サプライヤーである日東紡績の供給能力が需要増に追いつかない状況です。
2025年7月には、台湾のIC基板大手がBT基板の供給価格を最大20%引き上げました。その主な理由が、T-Glassの需給逼迫です。日東紡の新規増産は2026年下半期になると予想されており、少なくとも2026年前半までは供給がタイトな状況が続く見通しです。
AI半導体需要が需給構造を変えた
これらの原材料が逼迫している根本的な原因は、AI半導体の爆発的な需要増加です。NVIDIAのGPUをはじめとするAIアクセラレータには、高性能なパッケージ基板が不可欠であり、それに使われる銅張積層板やガラスクロスの需要が急増しています。
AI向け半導体の平均成長率は2024年から2028年にかけて年率31%と予測されており、この成長に伴って材料需要も急拡大しています。従来の民生用電子機器向けの需要に加え、データセンター向けの大規模な需要が加わったことで、供給体制が追いつかない構造となっています。
レゾナックの事業戦略と値上げの位置づけ
半導体材料企業への「脱皮」
レゾナックは近年、半導体材料事業への集中を鮮明にしています。かつての総合化学メーカーから、半導体・電子材料を中核とする企業への転換を進めており、2025年12月期の半導体・電子材料事業は連結売上収益が前期比12%増の4,990億円、コア営業利益では34%増の990億円を見込んでいます。
CFOの染宮氏は「AI関連の製品売上高は年率30%成長が見込める」との見通しを示しており、今回の値上げは単なるコスト転嫁ではなく、成長投資の原資を確保する意味合いもあると考えられます。
生産能力の大幅拡大
レゾナックはAI半導体パッケージ向け材料の増産に約150億円を投じ、生産能力を2023年比で最大5倍に引き上げる計画です。特にAI半導体パッケージ向けの絶縁接着フィルム(NCF)や放熱シート(TIM)の増産を進めています。
半導体・電子材料が占める売上比率を現在の32%から、将来的に50%以上に拡大することを目指しており、石油化学や黒鉛電極といった従来事業からの構造転換を加速させています。
米国での共創拠点「US-JOINT」
2026年には米国シリコンバレーに次世代半導体パッケージの研究コンソーシアム「US-JOINT」を開設する予定です。米国のハイパースケーラーや大手半導体メーカーとの緊密な連携を通じて、次世代材料の開発を加速させる狙いがあります。材料・装置の参画企業12社との「共創」体制を構築し、グローバルでの競争力強化を図ります。
電子基板業界への波及と今後の展望
業界全体の値上げ連鎖
レゾナックの30%以上という大幅な値上げは、電子基板業界全体に波及する可能性があります。パナソニック インダストリーもすでに価格改定を発表しているほか、原油高や円安の影響、中国の税制変更による原材料購入価格の上昇なども加わり、CCL業界全体でコスト上昇圧力が強まっています。
CCLの価格上昇は、プリント基板メーカー、さらにはその先の電子機器メーカーへと転嫁されていくことが予想されます。最終的には、サーバーやスマートフォンなどの製品価格に影響を及ぼす可能性があります。
株式市場の反応
株式市場では今回の値上げを好感する動きが見られます。レゾナック株は2025年11月に約35年ぶりの高値を記録しており、値上げ発表後の2026年1月27日にも前日比588円(7.33%)高の8,607円まで上昇しました。半導体関連企業への「脱皮」と採算改善への期待が株価を押し上げています。
注意すべきリスク
一方で、値上げが顧客離れを招くリスクや、中国のローカルCCLメーカーの台頭による競争激化も注視が必要です。中国半導体産業の自国化路線が加速する中、CCL分野でも中国勢の開発が進んでおり、中長期的には価格競争力が問われる場面が出てくる可能性があります。
まとめ
レゾナックの銅張積層板30%以上の値上げは、AI半導体需要の急拡大に伴う銅箔・ガラスクロスの需給逼迫を反映した動きです。同社は半導体材料企業への転換を加速させており、値上げによる採算改善と成長投資の原資確保を両立させる戦略です。
電子基板業界全体で同様の値上げが広がる中、日東紡の増産が本格化する2026年下半期までは供給タイトな状況が続く見通しです。電子機器メーカーや基板メーカーにとっては、調達コスト上昇への対応が当面の課題となります。AI需要の構造的な拡大を背景に、半導体材料市場の再編が進む転換点にあるといえます。
参考資料:
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