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by nicoxz

シンガポール高コスト車市場で富裕層需要が崩れない理由

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はじめに

シンガポールで車を持つことは、日本や欧米の感覚とはまったく違います。車両価格に加えて、まず「所有し道路を走る権利」であるCOEを落札しなければならず、その権利は10年間で失効します。2026年3月の入札では、普通車向けカテゴリーAが10万8,220シンガポールドル、大型車向けカテゴリーBが11万4,002シンガポールドルでした。権利だけで日本円にして1,000万円を超える水準です。

それでも高級車や自家用車の需要は消えていません。むしろ、車を所有できる層と、レンタルやライドヘイリングに移る層の二極化が進んでいます。本記事では、シンガポールの車市場を支えるCOE制度の仕組みと、なぜ高コストでも富裕層需要が底堅いのかを整理します。

COEがつくる高価格構造

車両価格より先に必要な利用権

シンガポールの自動車コストを押し上げる最大要因は、COEです。Land Transport AuthorityとOneMotoringによると、COEは車を10年間保有・使用する権利で、車の新規登録前に入札で確保する必要があります。10年満了後は廃車か、直近3カ月の平均価格を基にしたPQPを支払って更新する仕組みです。つまり、車本体ではなく「道路スペース」そのものに希少価値がついています。

価格が高止まりするのは、供給が厳しく管理されているからです。LTAの2026年1月22日発表では、2026年2月から4月のCOE総枠は1万8,824枚で、前四半期より1%少なくなりました。加えて、車向けのカテゴリーA・Bと二輪向けDの車両増加率は0%のまま2028年1月末まで据え置かれます。国土の狭い都市国家で渋滞を抑えるには、車の絶対数を増やさない設計が続くということです。

需要の強さも数字に表れています。2026年3月第1回入札では、カテゴリーAの枠1,268枚に対し入札件数は1,762件、カテゴリーBは枠815枚に対して1,261件でした。どちらも落札枠を大きく上回る申し込みです。価格が高いから需要が消えるのではなく、高い価格でも入札できる層に需要が集中していると読むべきです。

車を持つだけで贅沢品になる市場

この制度のもとでは、車は移動手段というより、アクセス権のある耐久消費財に近くなります。COEに加えて登録税、追加登録料、保険、駐車場、ERP通行料までかかるため、総保有コストはさらに膨らみます。LTAは2026年3月にERP料金の引き上げも発表しており、車所有のランニングコストは今後も軽くなりそうにありません。

それでも自家用車を求める理由は明確です。シンガポールは公共交通が発達していますが、子どもの送迎、家族の週末移動、時間の自由度、プライバシー、そして社会的ステータスの面で、自家用車には代替しにくい価値があります。車を持てること自体が、所得と資産の余裕を示すシグナルになりやすい市場です。

それでも富裕層需要が底堅い理由

所有需要の集中とレンタル需要の拡大

高コスト市場で起きているのは、需要の消滅ではなく分化です。The Straits Timesによると、2025年のレンタカー台数は9万5,857台と過去最高を更新し、全車両の約15%を占めました。高い頭金やCOE負担を避けたい層が、所有ではなくレンタルやリースへ移っているためです。つまり、一般層には「持たない」選択が広がる一方、所有市場には支払い能力の高い需要が残りやすくなっています。

この構図はCOEの入札結果とも整合的です。価格が10万Sドルを超えても入札件数が枠を大きく上回るのは、企業需要や高所得層が市場に残っているからです。シンガポール統計局によると、2025年の住民世帯の月間市場所得中央値は1万2,446Sドルでした。中央値世帯にとっても車は簡単な買い物ではありませんが、所得上位層には十分手が届く水準です。高価格ゆえに、中間層が抜け、富裕層中心の市場へ純化していく面があります。

EVと高級ブランドが支える新しい需要

もう一つの支えはEV化です。The Straits Timesは、2025年1月から9月の新車登録の43%がEVで、カテゴリーA COEのほぼ半分がEV向けだったと伝えています。中国勢を含む新しいEVブランドが増えたことで、シンガポールでは「高級車か庶民車か」という単純な二分法ではなく、装備と税制メリットを踏まえた選択が進んでいます。

これは富裕層需要の持続にもつながります。従来のラグジュアリーブランドだけでなく、高機能EVや輸入SUVが、最新性や環境配慮も含めたステータス財として消費されるからです。COEが高い分、車を買う人は「安いから買う」のではなく、「所有する価値があるから買う」と考えやすくなります。結果として、高コスト環境でも上位需要は崩れにくくなります。

注意点・展望

今後のポイントは、供給が増えても価格が大きく下がるとは限らないことです。LTAは2025年2月以降、今後数年で約2万枚の追加COEを段階的に市場へ入れる方針を示していますが、2026年2月から4月の総枠はむしろ前期比1%減でした。ゼロ成長政策が続く以上、構造的な希少性は残ります。

また、富裕層需要が底堅いことは、市場全体が健全という意味ではありません。所有市場の高価格維持は、中所得層をカーシェアやレンタルに押し出し、移動手段の階層化を強める側面があります。レンタル車の増加は合理化の表れですが、逆に言えば、自家用車がますます選ばれた人だけの財になっている証拠でもあります。

まとめ

シンガポールで高コストでも車の需要が残るのは、COE制度が供給を厳しく絞り込み、所有そのものを希少財にしているからです。高価格は需要を完全には消さず、むしろ支払い能力の高い層へ所有需要を集中させます。一方で、中間層はレンタルやリースへ移り、市場ははっきり二極化しています。

今のシンガポールの車市場は、単なる高価格市場ではなく、交通政策、都市構造、所得階層がそのまま反映された市場です。車が「便利だから買う」ものから、「持てる人が持つ」ものへ変わるなかで、富裕層需要は今後も底堅く残る可能性が高いでしょう。

参考資料:

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