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by nicoxz

BYDと広汽集団にみる中国車の増収減益と価格競争の限界

by nicoxz
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はじめに

中国の自動車産業は、販売台数では世界を圧倒しています。中国汽車工業協会によると、2025年の自動車販売は3,440万台に達し、17年連続で世界首位を維持しました。新エネルギー車の販売も1,600万台を超え、国内新車販売に占める比率は50%を上回っています。数量だけ見れば、中国メーカーは勝っているように見えます。

しかし、収益面では逆風が強まっています。背景にあるのは、EV・PHVへの急速なシフトと、それをめぐる過酷な値下げ競争です。販売台数が増えても、値引きや販売奨励金、在庫評価損、ライン再編費用が利益を削り、増収減益や赤字転落が相次いでいます。本記事では、2025年決算で明暗が分かれたBYDと広汽集団を軸に、中国車の収益力に何が起きているのかを整理します。

売れても儲からない中国車の構図

記録的な販売と縮む利益

中国の自動車市場は、数量では依然として拡大しています。中国汽車工業協会の2026年1月公表資料では、2025年の自動車販売は3,440万台、新エネルギー車販売は1,600万台超でした。需要の中心が電動化車両に移り、中国ブランドの存在感も強まっています。

それでも利益がついてこないのは、価格競争があまりに激しいからです。工業情報化部は2025年5月31日、車企間の無序な価格競争について「価格戦に勝者はなく、未来もない」と異例の強い表現で批判しました。中国汽車工業協会が紹介した業界データでも、2024年の自動車業界利益率は4.3%に低下し、2025年1-4月には3.9%まで下がったとされています。台数は伸びても、採算はむしろ悪化しているということです。

この環境で踏みとどまっているのがBYDです。CnEVPostが紹介した同社2025年通期決算によると、BYDの純利益は326.2億元で前年比19%減、売上高は8039.7億元で同3.46%増でした。販売台数は460万2436台と過去最高を更新した一方、粗利益率は19.44%から17.74%へ低下しています。つまり、売れてはいるが、1台当たりで稼げる額は薄くなっているわけです。

しかも、BYDは価格競争で完全に負けたわけではありません。海外輸出は初めて100万台を超え、2025年は105万台に達しました。国内価格競争の痛みを海外展開で吸収しつつある企業ですら、純利益は2割近く減りました。これは、いまの中国市場では規模拡大だけでは収益防衛が難しいことを示しています。

値下げ競争が利益を壊す仕組み

価格戦が厄介なのは、単に値札が下がるだけでは済まない点です。第一に、販売促進費や補助が増え、粗利が縮みます。第二に、旧モデルや在庫車の評価損が出やすくなります。第三に、新エネルギー車へ構成転換する過程で、既存ラインや無形資産の減損が発生しやすくなります。利益率が低下すると、研究開発やブランド投資に回せる余力も減ります。

工業情報化部が「価格戦は品質やサービス水準を損ないかねない」と警告したのは、この悪循環を意識しているからです。短期的には値下げでシェアを取れても、長期的には研究開発の原資やサプライチェーン全体の体力を奪います。中国EV産業の強さは技術革新にありますが、その基盤である利益が薄くなると、優位性を維持しにくくなります。

広汽集団が映す旧来型メーカーの苦境

上場来初の通期赤字見込み

BYD以上に厳しい状況が表れたのが広汽集団です。香港取引所への2026年1月30日付開示によると、同社の2025年親会社株主帰属純利益はマイナス80億〜90億元となる見通しで、通期赤字に転落する見込みです。Caixin Globalは、これが2010年の上場以来初の通期赤字だと報じています。

広汽集団の苦境は、販売不振だけでは説明できません。会社側は開示資料で、2025年の年間販売が想定を下回ったうえ、急速な市場変化に対応するため販売投資を増やしたこと、自主ブランドの新エネルギー製品への構造調整で無形資産や棚卸資産の減損が増えたこと、合弁会社の生産ライン最適化に伴う資産減損で持分利益がさらに減ったことを挙げています。つまり、値下げ競争、自主ブランド改革、合弁再編が同時に利益を押し下げた構図です。

しかも、広汽集団の採算悪化は2025年に突然始まったわけではありません。会社開示では、2024年の親会社株主帰属純利益は8.24億元の黒字でしたが、非経常損益を除いた純利益はマイナス43.51億元でした。前年の黒字は一部持分売却の寄与が大きく、本業の収益力はすでに傷んでいたことになります。2025年は、その弱さが価格戦と電動化の加速で一気に顕在化したと見るべきです。

合弁依存モデルの揺らぎ

広汽集団の問題は、中国の伝統的完成車メーカーが抱える構造問題でもあります。従来はホンダやトヨタとの合弁が利益の柱でしたが、中国市場では現地EV勢が価格と機能で優位に立ち、日系を含む外資合弁の販売力が弱っています。広汽集団は自主ブランドAIONや伝祺の育成を急いでいますが、電動化市場ではBYDや吉利、零跑など競争相手が多く、切り替えコストも大きいのが実情です。

Caixin Globalによると、広汽集団の2025年売上高は957億元で前年比10.4%減、販売台数は172万台で同14.1%減でした。海外販売は伸びているものの、国内の落ち込みを埋めるにはまだ力不足です。旧来の合弁依存から、自主ブランド中心の新エネルギー戦略へ移る過程で、最も痛みが出やすい局面に入っていると言えます。

注意点・展望

今後の焦点は、中国車メーカーが数量競争から利益競争へ軸足を移せるかどうかです。BYDのように規模、技術、海外展開を兼ね備えた企業でも利益率低下を避けられていません。広汽集団のような移行途上のメーカーは、さらに厳しい再編圧力にさらされます。今後は、単にEVを多く売るだけではなく、どの価格帯で、どの地域で、どのブランド力を持って売るのかが収益の分かれ目になります。

また、当局の姿勢も重要です。工業情報化部が2025年5月31日に「価格戦」に明確な歯止めをかける方針を示したことは、産業政策が数量拡大一辺倒から質重視へ軸を戻し始めたシグナルと読めます。ただし、行政が呼びかけても、過剰供給とシェア争いの構造が変わらなければ、値引き圧力は簡単には消えません。業界再編と淘汰は今後も続く可能性が高いでしょう。

まとめ

中国車の収益力に陰りが出ているのは、需要が弱いからではなく、売れても利益が残りにくい市場構造になっているからです。BYDは販売拡大と海外伸長を続けながら純利益が19%減り、広汽集団は価格戦と電動化移行の負担に耐えきれず、上場来初の通期赤字見込みに追い込まれました。

今後の中国自動車市場を読むうえでは、販売台数だけを見ても不十分です。値引きの深さ、粗利益率、在庫や資産の減損、海外展開の採算まで含めて見なければ、本当の競争力は分かりません。中国車はなお世界市場で存在感を増す可能性がありますが、その前提は「安く売る力」ではなく、「利益を残しながら成長する力」に移ってきています。

参考資料:

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