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by nicoxz

ソニーがテレビ事業を分離する理由と66年の歴史に見る必然

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はじめに

ソニーグループは2026年1月20日、テレビやホームオーディオといったホームエンタテインメント事業を、中国の家電大手TCL Electronicsとの合弁会社に分離することを発表しました。1960年のテレビ事業参入から66年、ソニーを世界的企業に押し上げた看板事業の分離は、家電業界に大きな衝撃を与えています。

しかしこの決断は、単なる「日本家電の敗北」ではありません。背景には、ソニーが30年近く前から模索してきた「会社の形」を巡る根本的な問いと、エンタメ企業への明確な変革があります。本記事では、テレビ事業分離の背景と今後の展望を詳しく解説します。

合弁会社設立の概要

出資比率と事業範囲

新会社はTCLが51%、ソニーが49%を出資する形で設立されます。テレビとホームオーディオの開発・設計から製造、販売、物流、顧客サービスまでをグローバルに一貫して運営します。

重要なのは、「ソニー」「ブラビア」といったブランド名称は新会社でも継続して使用されることです。また、ヘッドホンやイヤホンは分離の対象外となります。

スケジュール

両社は2026年3月末をめどに法的拘束力のある確定契約の締結に向けた協議を行い、新会社は2027年4月の事業開始を想定しています。関係当局の許認可取得が条件となります。

トリニトロンで世界を制した栄光

革新的技術で業界を席巻

ソニーのテレビ事業を語る上で欠かせないのが、1968年に発売された「トリニトロン」です。「1ガン3ビーム方式」の電子銃とアパーチャーグリルを採用したこのブラウン管は、従来のシャドーマスク方式の約2倍の明るさと高いコントラストを実現し、世界で2億8000万台を販売しました。

1973年にはアメリカエミー賞の技術部門を受賞。1995年頃には家庭用テレビの世界シェアナンバーワンを達成し、ソニーを代表する看板商品となりました。

「苦労マトロン」から生まれた成功

トリニトロンの開発は平坦な道のりではありませんでした。ソニーは当初、アメリカから技術導入した「クロマトロン」の開発に取り組みましたが、生産性が低く難航。社内では「苦労マトロン」と揶揄されました。この困難を乗り越え、徹底的な改良の末に生まれたのがトリニトロンでした。

コモディティ化と事業環境の激変

液晶テレビ時代への対応遅れ

2000年代に入ると、テレビ市場は大きな転換期を迎えます。液晶テレビの台頭により、ソニーが誇ったブラウン管技術の優位性は急速に失われていきました。

2007年4月、トリニトロンカラーテレビの日本向け生産が終了。その後も中南米向けの生産を続けましたが、2008年3月に完全撤退し、41年の歴史に幕を閉じました。

ブラウン管から液晶への転換期において、ソニーは「ベガ」ブランドで一定の成功を収めたものの、液晶パネルを自社生産しない構造的な弱みを抱えていました。一方、TCLをはじめとする中国・韓国メーカーは、パネル製造から完成品まで一貫して手がける垂直統合型のビジネスモデルで競争力を高めていきました。

テレビのコモディティ化

現在のテレビ市場では、高画質化技術の差別化が難しくなり、価格競争が激化しています。日本の花形とされていた家電事業も時代とともに様変わりが激しく、東芝やシャープに続いてソニーもパートナーとの連携という選択肢に舵を切ることになりました。

30年前から続く「会社の形」の模索

カンパニー制の先駆者

ソニーは1994年、日本で初めてカンパニー制を導入した企業です。1992年3月期に創業以来初の営業赤字に転落したことを契機に、事業責任の明確化と市場対応の強化を目指して、9事業本部と8営業本部を8つのカンパニーに集約しました。

翌1995年に社長に就任した出井伸之氏は、さらなる改革を推進します。1996年には「第2次カンパニー制」を導入し、各カンパニーの独立性を高めました。出井氏は「ソニーをグローバルに通用する普通の会社にする」ことを目指し、取締役と執行役を分離する執行役員制度を日本で初めて導入しました。「執行役員」という言葉自体が出井氏の造語とされています。

事業ポートフォリオの再編

2005年にはカンパニー制を廃止し、横断的連携の強化と効率化に舵を切りました。その後もソニーは事業ポートフォリオの見直しを続け、2025年には金融子会社ソニーフィナンシャルグループを分離しています。

今回のテレビ事業分離は、こうした30年にわたる組織改革の延長線上にあり、「選択と集中」を進めるソニーにとって必然的な判断といえます。

TCLとの提携がもたらす強み

垂直統合型サプライチェーン

TCLはテレビの完成品メーカーであると同時に、傘下のCSOT(華星光電)で液晶パネルや有機ELパネルを自社生産する垂直統合型企業です。韓国サムスンと同様のビジネスモデルを持ち、包括的なコスト競争力を持っています。

新会社ではソニーの高画質・高音質技術やブランド力を基盤としながら、TCLの先端ディスプレイ技術と世界規模の事業基盤を活用することで、競争力の強化を目指します。

ソニーにとってのメリット

ソニーにとっては、コスト競争が激しいテレビ事業の経営負担を軽減しながら、ブランドは維持できるという合理的な判断です。経営資源をゲーム、映画、音楽といったエンタテインメント事業に集中させる戦略が一層明確になります。

今後の展望と注意点

エンタメ企業への変革

ソニーグループはゲーム(PlayStation)、映画(ソニー・ピクチャーズ)、音楽(ソニーミュージック)などのエンタテインメント事業を成長の柱と位置付けています。テレビ事業の分離により、この方向性はさらに明確になります。

ただし、テレビはソニーのエンタメコンテンツを表示するデバイスとしての役割もあります。ブランドを維持しながら合弁会社に事業を委ねることで、この接点を保ちつつ経営資源の最適配分を実現しようとしています。

ブランド維持の課題

「ソニー」「ブラビア」ブランドが新会社で継続されるとはいえ、製品の企画・開発・製造の主導権はTCL側に移ります。長期的にブランド価値をどう維持していくかは今後の課題となります。

まとめ

ソニーのテレビ事業分離は、トリニトロンで世界を制した66年の歴史に一つの区切りをつけるものです。しかしこれは単純な「日本家電の敗北」ではなく、30年前から続く組織改革と事業ポートフォリオ再編の延長線上にある戦略的判断です。

コモディティ化が進むテレビ市場において、TCLの垂直統合型サプライチェーンと組むことは合理的な選択といえます。ソニーはエンタテインメント企業への変革を一層加速させることになるでしょう。

参考資料:

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