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by nicoxz

ステーブルコイン利回り問題で銀行と仮想通貨業界が激突

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はじめに

ステーブルコインをめぐる規制論争が、いま世界の金融当局を悩ませています。特に焦点となっているのが、ステーブルコインの保有者に対する「利回り」の提供です。

2026年2月2日、ワシントンのホワイトハウスに、Coinbase、Ripple、Circleなどの仮想通貨企業と、米国銀行協会をはじめとする銀行業界の代表者が集結しました。議題は、ステーブルコイン交換業者が顧客に残高に応じた利回りを提供することの是非。しかし、2時間以上に及ぶ協議は平行線に終わりました。

この記事では、ステーブルコインの利回り問題がなぜ銀行システムを脅かすのか、規制の「抜け穴」とは何か、そして世界の金融システムにどのような影響を与えうるのかを詳しく解説します。

ステーブルコインとは何か

法定通貨と連動するデジタル資産

ステーブルコインとは、米ドルなどの法定通貨に価値が連動するよう設計された暗号資産です。ビットコインやイーサリアムのような価格変動が激しい仮想通貨とは異なり、1コイン=1ドルの価値を維持することを目指しています。

2026年初頭時点で、ステーブルコインの市場規模は3,179億ドル(約47兆円)に達しています。最大のステーブルコインであるTether(USDT)は1,870億ドルの時価総額を持ち、市場の約61%を占めています。2位のUSDコイン(USDC)は757億ドルで、2025年には前年比73%の成長を記録しました。

急成長する市場と銀行への脅威

ステーブルコインは決済手段として急速に普及しています。2025年の取引総額は33兆ドルに達し、過去最高を記録しました。米国財務長官のスコット・ベセント氏は、ステーブルコイン市場が2030年までに3.7兆ドル規模に成長する可能性を示唆しています。

この急成長が銀行業界に与える影響は甚大です。スタンダードチャータード銀行の報告書によれば、ステーブルコインの普及は近代銀行制度における最大級の構造的変化を引き起こし、3年以内に銀行システムから1兆ドルが流出する可能性があると警告しています。

利回り問題の核心

規制の「抜け穴」とは

米国では2025年6月に成立したGENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)により、ステーブルコインの発行体が保有者に直接利息を支払うことは禁止されています。しかし、ここに大きな抜け穴が存在します。

この法律は発行体のみを規制対象としており、取引所や関連会社を通じた利回り提供を明示的に禁止していません。実際、Coinbaseは現在、自社プラットフォームでUSDCを保有する顧客に年4.1%の報酬を提供しています。これは米国の銀行における平均的な普通預金利回り0.6%を大幅に上回る水準です。

銀行業界の危機感

米国銀行協会(ABA)、クレジットユニオン協会、銀行政策研究所などの金融業界団体は、この抜け穴の閉鎖を強く求めています。彼らの主張によれば、ステーブルコインへの利回り提供が認められれば、銀行預金から最大6.6兆ドルが流出する恐れがあるとしています。

バンク・オブ・アメリカのブライアン・モイニハンCEOは投資家向けプレゼンテーションで、「ステーブルコインへの報酬が維持された場合、6兆ドルの預金がステーブルコインに移行する可能性がある」と警告しました。

仮想通貨業界の反論

一方、CoinbaseのブライアンアームストロングCEOは銀行業界のロビー活動を強く批判しています。アームストロング氏は「一部のロビー団体がワシントンで競争を排除しようとしている」と述べ、利回り禁止に断固反対する姿勢を示しています。

彼が挙げる反対理由は主に2つです。第一に、利回りは消費者に直接的な利益をもたらすこと。第二に、利回りを禁止すれば米国の国際競争力が低下し、資金が規制の緩い海外に流出するリスクがあることです。

なお、Coinbaseは2025年第1四半期だけで、Circleからの分配金として約3億ドルを受け取っており、利回り禁止が実現すれば年間約10億ドルの収益を失う可能性があります。

世界の規制動向

各国で異なるアプローチ

ステーブルコインの利回り規制について、世界各国は異なるアプローチを採用しています。

米国、EU、シンガポール、香港、UAE、日本などの主要7経済圏では、ステーブルコインを規制対象の決済手段として位置づけ、100%の準備金バッキングと発行者のライセンス制度を義務付けています。利回りについては、多くの国が発行体による直接的な利息支払いを禁止していますが、取引所経由での利回り提供については対応が分かれています。

欧州とアジアの多くの国は、ステーブルコインを決済手段として位置づけるため利回りを制限する傾向にあります。一方、英国と米国は比較的オープンな姿勢を維持しつつ、規制の詳細を検討中です。

日本の独自路線

日本の規制枠組みは世界で最も詳細かつ構造化されたものの一つとして評価されています。日本では、発行者に対して100%の現金預金を強制するのではなく、準備金の50%を短期債券で保有することを許可しています。

この緩和措置は、発行者が準備金から一定の利回りを得ることを可能にし、日本発行のステーブルコインの国際競争力を高めることを目的としています。規制当局は、厳格すぎる準備金要件がビジネスモデルを成り立たなくさせることを理解した上での判断です。

金融システムへの影響

中小銀行が直面するリスク

ステーブルコインへの資金流出が最も深刻な影響を与えるのは、預金に収益の多くを依存する中小銀行です。シティグループの調査部門は「特に地域密着型の融資を行うコミュニティバンクが影響を受ける可能性が高い」と分析しています。

米国銀行協会のコミュニティバンカー評議会は、州別の分析結果を公表し、コミュニティバンクから合計6.6兆ドルの預金流出が起こりうると警告しました。預金減少は融資能力の低下につながり、地域経済への信用供給に悪影響を及ぼす可能性があります。

銀行の対抗策

銀行業界も手をこまねいているわけではありません。預金流出リスクに対応するため、いくつかの戦略を検討しています。

第一に、預金金利の差別化です。ステーブルコインへの流出リスクが高い顧客層には高い利回りを提供し、安定した資金源には低い金利を維持する戦略です。第二に、トークン化預金商品の開発です。JPモルガンのJPMDのように、デジタルトークンの利便性と銀行預金の規制保護を組み合わせた商品が登場しています。

トークン化マネーマーケットファンドの台頭

GENIUS法がステーブルコインの利息支払いを禁止したことで、新たな動きが生まれています。規制上の区別により、利回りを求める投資家はステーブルコインではなく、トークン化マネーマーケットファンド(MMF)に向かう傾向が出てきました。

ステーブルコインは決済手段として位置づけられる一方、オンチェーンで利回りを得たいユーザーや機関投資家にとっては、トークン化MMFが好まれる資産となりつつあります。

今後の見通しと注意点

CLARITY法案の行方

現在、米国議会ではCLARITY法案の審議が進められています。この法案には、ステーブルコイン保有者への報酬に関する条項が含まれており、銀行業界と仮想通貨業界の対立点となっています。

トランプ大統領の仮想通貨顧問であるパトリック・ウィット氏は、両陣営に対して2月末までに妥協点を見出すよう指示しました。しかし、上院銀行委員会での審議は利回り問題をめぐる対立により延期されており、法案成立の見通しは不透明です。

投資家が注意すべきポイント

ステーブルコインの利回りに魅力を感じる投資家は、いくつかのリスクを認識しておく必要があります。まず、規制環境が急速に変化する可能性があること。現在提供されている利回りが将来的に禁止される可能性は否定できません。

また、取引所リスクも考慮が必要です。利回りは発行体ではなく取引所から提供されることが多く、取引所の経営状況に依存します。さらに、ステーブルコイン自体のデペッグ(価格乖離)リスクも存在します。過去にはTerraUSDの崩壊のような事例もありました。

まとめ

ステーブルコインの利回り問題は、単なる規制論争ではありません。これは、伝統的な銀行システムとデジタル金融の未来をめぐる根本的な対立です。

銀行業界は預金流出による金融システムの不安定化を懸念し、仮想通貨業界は消費者利益と国際競争力を主張しています。両者の溝は深く、短期間での解決は難しい状況です。

投資家や一般消費者にとっては、この規制論争の行方を注視しつつ、ステーブルコインのリスクと利点を慎重に評価することが重要です。金融の民主化という理想と、金融システムの安定性という現実のバランスを、各国がどのように取るのか。その答えはまだ見えていません。

参考資料:

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