金利ある世界の到来で銀行はどう変わる?収益と後遺症
はじめに
2025年12月、日本銀行は政策金利を0.75%に引き上げ、1995年以来約30年ぶりの高水準に到達しました。長らく続いた超低金利時代が終わりを告げ、日本は「金利ある世界」へと本格的に移行しています。
この歴史的な転換は、金融機関にとって収益拡大の好機となる一方で、長すぎた金利のない世界の後遺症も浮き彫りにしています。特に信用金庫では国債の含み損が急拡大し、金融庁が集中点検に乗り出す事態となっています。
本記事では、金利上昇が銀行や信用金庫にもたらす影響の「表と裏」を詳しく解説し、預金者や中小企業経営者が知っておくべきポイントをお伝えします。
30年ぶりの金利水準に到達した日銀の利上げ
2025年12月の歴史的決定
日銀は2025年12月19日の金融政策決定会合で、政策金利である無担保コール翌日物レートの誘導目標を0.25%引き上げ、0.75%とすることを決定しました。これは2024年3月のマイナス金利解除以降、段階的に進めてきた金融正常化の重要な節目となります。
利上げの背景には、米国経済や各国の金融政策を巡る不確実性の低下、そして2026年も継続が見込まれる堅調な賃上げがあります。また、1ドル160円に迫る円安を抑制したいという政府との政策目標の一致も指摘されています。
長期金利も26年ぶりの水準に
日銀の利上げ決定を受けて、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは一時2.02%に上昇し、1999年8月以来約26年ぶりの高水準を記録しました。2026年1月には2.23%まで上昇しており、金融市場では日銀による継続的な利上げが織り込まれています。
市場の予測では、政策金利は2026年9月までにさらに0.25%引き上げられ、中立金利の下限とされる1.0%に到達するシナリオが想定されています。専門家10人への調査では、最終的な金利水準の平均予想は1.45%となっています。
金融機関にとっての「表」:収益改善の好機
地方銀行の預貸利ざや改善
金利上昇は、銀行にとって本業である預貸ビジネスの収益性を大きく改善させています。預貸利ざや(貸出金利回りから預金等利回りを差し引いた差)は、2025年4〜9月期決算で多くの地方銀行において改善が確認されました。
上場地銀のコア業務純益は前年同期比で約3割増加しており、「金利のある世界」への回帰が着実に収益に反映されています。貸出金利の引き上げには時間を要する傾向がありましたが、段階的な利上げを経て、ようやく本格的な収益改善期に入ったといえます。
預金金利の引き上げ競争
メガバンク3行(三菱UFJ、三井住友、みずほ)と三井住友信託銀行は、日銀の追加利上げを受けて普通預金金利を0.2%から0.3%に引き上げると発表しました。2026年2月2日から適用され、三菱UFJ銀行では1993年2月以来33年ぶりの高水準となります。
さらに注目すべきはネット銀行の動きです。あおぞら銀行は「BANK」口座の普通預金金利を0.75%に引き上げると発表しました。SBI新生銀行の「スタートアップ円定期預金」は3カ月もので1.00%、東京スター銀行の新規口座開設者向け定期預金は0.90%と、メガバンクを大きく上回る金利を提示しています。
余資運用環境の改善
銀行の資産運用(余資運用)についても収益環境が改善しています。日銀当座預金の超過準備に対する付利に加え、国債利回りも上昇しているため、国債保有を増やす動きが見られます。マイナス金利政策の解除により、金融機関が日銀当座預金から得られる利子所得は年間約2,500億円増加すると試算されています。
金融機関にとっての「裏」:超低金利時代の後遺症
信用金庫の含み損が3倍に急拡大
金利上昇の「裏」の側面として最も深刻なのが、信用金庫における国債の含み損拡大です。全国の信用金庫が保有する有価証券の含み損は、2025年3月期決算で約2.5兆円に達し、前年度から3倍超に膨らみました。
市場金利が上昇すると、保有する債券の価格は下落します。満期まで保有し続ければ実際の損失にはなりませんが、会計上は含み損として計上されます。金融庁は年度内にも信用金庫の財務状況について集中点検を開始する方針です。
日銀自身も過去最大の含み損
日銀が2025年9月中間決算で発表した保有国債の含み損は、9月末時点で32兆8,258億円となり、過去最大を記録しました。3月末時点の28兆6,246億円からさらに拡大しており、金融正常化に向けた国債買い入れ減額が進む中、長期金利の上昇が評価額を押し下げています。
銀行株のPBR1倍割れ継続
銀行株は利上げ期待を背景に高値圏で推移していますが、依然として約8割の銘柄がPBR(株価純資産倍率)1倍を下回っています。これは市場が、金利上昇に伴う保有債券の含み損拡大リスクを警戒していることを示しています。
中小企業と個人への影響
貸出金利上昇による企業負担
金利上昇は中小企業の資金調達コストを直接的に押し上げます。2024年10月時点における新規融資の平均金利は約1.2%〜1.7%、短期プライムレートは2025年9月時点で1.875%となっています。
特に注意が必要なのは、中小企業の主な借入方法である「証書貸付」のほとんどが変動金利型である点です。基準金利が見直されれば、既存の借り入れについても利払い負担が増加します。大企業と比べて資金調達手段が限られる中小企業にとって、金利上昇の影響は相対的に大きくなります。
住宅ローンへの影響
変動金利型の住宅ローンについては、日銀の利上げ決定後、金融機関が比較的速やかに基準金利を改定する傾向があります。固定金利型についても、大手銀行は長期金利の上昇に伴い、すでに金利引き上げの動きを見せています。住宅購入を検討している方は、金利動向を注視する必要があります。
注意点・今後の展望
金融庁による監視強化
信用金庫の含み損拡大を受け、金融庁は財務状況の集中点検に乗り出します。特に国債を大量に保有している金融機関については、2026年3月期決算での対応が注目されます。ただし、現時点では長期国債と超長期国債の利回りが急騰し、国内市場の波乱要因となるリスクは限定的との見方もあります。
今後の利上げ見通し
日銀は今後も経済・物価の状況を見ながら、段階的な利上げを継続する姿勢を示しています。2025年12月の金融政策決定会合の「主な意見」では、継続的な利上げの必要性が示唆されており、2026年はより短期間での利上げが実施される可能性があります。
市場では、政策金利の最終到達点として1.0%〜1.5%程度が予想されています。日銀の推計では中立金利は1.0%〜2.5%の間にあるとされており、現在の0.75%でも依然として金融緩和的な水準にあるといえます。
まとめ
30年ぶりの金利水準への到達は、日本の金融環境における歴史的な転換点です。金融機関にとっては預貸利ざやの改善という「表」の恩恵がある一方、長期にわたる超低金利時代に蓄積された国債の含み損という「裏」の課題が顕在化しています。
預金者にとっては、普通預金金利が0.3%〜0.75%に上昇するなど、金利メリットを享受できる環境が整いつつあります。一方、中小企業経営者や住宅ローン利用者は、借入コストの上昇に備えた対策が求められます。
今後も日銀の利上げが継続する見通しの中、金融機関の対応力と、企業・個人の金利変動への適応が問われる時代に入りました。
参考資料:
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