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by nicoxz

スティグリッツ教授が提唱する「米国抜き」の国際秩序

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はじめに

2026年1月20日、米国のトランプ大統領が就任1年を迎えます。この節目に、ノーベル経済学賞受賞者であるコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授が注目すべき提言を行いました。

スティグリッツ教授は東京都内で日本経済新聞のインタビューに応じ、「Gマイナス1(米国を除く主要国)」で気候変動や貧困などの課題に取り組み、国際秩序を取り戻す必要があると訴えました。

トランプ政権による法の支配への攻撃を厳しく批判する教授の見解は、今後の国際社会の在り方を考える上で重要な示唆を含んでいます。

スティグリッツ教授とは

経歴と実績

ジョセフ・E・スティグリッツは、コロンビア大学教授を務めるアメリカの経済学者です。2001年にノーベル経済学賞を受賞し、情報の非対称性に関する研究で知られています。

世界銀行のチーフエコノミストを務めた経験もあり、グローバル経済や開発経済学の分野で世界的な影響力を持つ論客です。格差問題や市場の失敗についての著作も多く、政策提言においても積極的に発言を続けています。

トランプ政権への一貫した批判

スティグリッツ教授は、トランプ政権に対して一貫して批判的な立場をとってきました。2024年6月には、ノーベル経済学賞を受賞した16人のエコノミストとともに「第2期トランプ政権における米国経済のリスク」と題する書簡を公表しています。

書簡では「ドナルド・トランプ前大統領の行動は安定性を欠いており、米国の世界的な地位を脅かしている」と懸念を表明しました。さらに2024年10月には、23人のノーベル経済学賞受賞者がカマラ・ハリス氏を大統領として支持する書簡を公表するなど、選挙期間中から警鐘を鳴らし続けました。

「Gマイナス1」構想の詳細

米国抜きの国際協力

スティグリッツ教授が提唱する「Gマイナス1」とは、G7(主要7か国)から米国を除いた形での国際協力の枠組みを意味します。トランプ政権が多国間主義から離脱する中、残りの主要国が結束して国際秩序を維持すべきだという考え方です。

具体的には、気候変動対策、貧困問題への取り組み、自由貿易体制の維持など、米国が後ろ向きになっている分野で、他の主要国がリーダーシップを発揮することが求められています。

トランプ政権への厳しい評価

教授はインタビューで、トランプ政権について「悲観的にみていたが、これほど事態が悪化するとは思わなかった」と語りました。特に「米国でも国際社会でも法の支配が攻撃されている」と強い懸念を示しています。

また、教授は「米国経済はトランプが言うほどよくなっていない。彼はペテン師のようなやり方で、私たちを言いくるめようとしている」とも批判しています。

トランプ政権1年の評価

「米国第一主義」の帰結

第2次トランプ政権は、発足から1年足らずの間に予測不能かつ大胆な政策を矢継ぎ早に打ち出してきました。「米国第一主義」や「Make America Great Again(MAGA)」の思想に基づく政策は、製造基盤の再建、対中抑止、国際システムの再構築という3つの柱で整理できます。

政権は「政府効率化省(DOGE)」の設立、WHO脱退、北部・南部国境からの違法薬物流入に対処するための関税課税など、多くの大統領令を発令してきました。

経済の二極化

2025年の米国経済は全体として堅調に推移してきましたが、その内実は二極化が進む「K字型」経済の様相を強めています。高所得者がAIブームの恩恵を受けて消費をけん引する一方、低中所得層は関税負担の増加を受けて消費を抑制しています。

スティグリッツ教授は、ICE(移民・関税執行局)による大勢の移民の強制送還により労働力の供給源が枯渇しかかっていると指摘し、これを「供給面での失策」と批判しています。政府予算の無差別な削減が実際には余計なコストを増やし、悪影響が広範囲に及んでいるとも述べています。

法の支配への懸念

複数の有識者が、トランプ政権下での米国の民主主義の後退を懸念しています。議会、裁判所、メディアがトランプ政権を批判しにくい状況にあるとの指摘があり、一部の有識者は1930年代前半のドイツとの類似性を指摘するほどです。

国際刑事裁判所(ICC)に対する圧力や、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金停止なども、国際的な法の支配を揺るがす動きとして懸念されています。

G7の機能不全

過去の経験

G7サミットは、民主主義、自由、人権尊重、法の支配といった価値を共有する先進7か国が集まり、政策合意を形成してきた枠組みです。しかし第1次トランプ政権時代(2017-2021年)には、すでに機能不全に陥った経験があります。

2018年には「反保護主義」を盛り込んだ首脳宣言が採択された後に、トランプ大統領がその承認を拒否しました。2019年には包括的な首脳宣言の取りまとめを初めて断念せざるを得ませんでした。

バイデン政権下での回復

2021年に多国間主義を重視するバイデン大統領が就任したことで、G7サミットは再び結束を取り戻しました。ウクライナ危機への対応でも、G7は結束してロシアに対する制裁を調整する役割を果たしました。

しかし、トランプ政権の復活により、G7は再び亀裂が深まるリスクに直面しています。

G7改革論の台頭

こうした状況を受けて、G7の改革や拡大を求める声も上がっています。米国のシンクタンクCSIS(米戦略国際問題研究所)からは、韓国、オーストラリア、スペインのG7加入を提唱する論考が発表されています。

加盟国を増やすことで、米国が自由貿易などグローバル・ガバナンスの根幹から乖離した場合でも、同志国間の連携を強化できるという狙いがあります。

国際社会への影響

グローバルサウスの台頭

G7の影響力が低下する中、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国の存在感が増しています。中国やインドをはじめとする新興国は、従来の米国主導の国際秩序とは異なる枠組みでの協力を模索しています。

スティグリッツ教授は、トランプ政権下で米国の国力や経済が衰えることで「覇権の移行」が起こると予測しています。「米国覇権なき世界」への移行期に、どのような国際秩序を構築するかが問われています。

日本の立ち位置

こうした国際情勢の中で、日本は安定した政治・経済・社会を維持している国として評価が高まっているとの見方もあります。「トランプショック」の中で、日本が果たすべき役割への期待も指摘されています。

スティグリッツ教授が東京でインタビューに応じたことも、日本への期待の表れと言えるかもしれません。

注意点と今後の展望

2026年中間選挙の影響

米国では2026年11月3日に中間選挙が行われます。現時点での予想は上院が共和党優勢、下院は接戦です。民主党が下院で過半数を奪還した場合、ねじれ議会となり、トランプ政権の政策運営は大きく制約されます。

一方、共和党が両院で多数を維持した場合、「米国第一」政策は一段と推進される見込みです。中間選挙の結果は、国際秩序の今後にも大きな影響を与えます。

「Gマイナス1」の実現可能性

スティグリッツ教授の提唱する「Gマイナス1」構想は、米国の同盟国にとって難しい選択を迫るものです。特に安全保障面で米国に依存する日本やヨーロッパ諸国にとって、米国抜きの国際協力を積極的に進めることには慎重論もあります。

しかし、気候変動対策など、米国が後ろ向きになっている分野では、すでに他国主導の枠組みが動き始めています。部分的な「Gマイナス1」は、すでに現実のものとなりつつあると言えます。

トランプ後の世界

スティグリッツ教授の分析は、トランプ政権の任期中だけでなく、その後の世界についても示唆を与えています。米国の覇権が相対的に低下する中で、多極化する世界秩序にどう対応するかは、すべての国にとっての課題です。

まとめ

スティグリッツ教授の「Gマイナス1」構想は、トランプ政権就任1年を迎える今、国際社会に重要な問いを投げかけています。米国が多国間主義から離脱する中、他の主要国がどのように国際秩序を維持していくかが問われています。

教授はトランプ政権による「法の支配への攻撃」を厳しく批判し、米国内外での民主主義の後退に警鐘を鳴らしています。経済面でも、二極化する「K字型」経済の問題点を指摘しています。

2026年中間選挙の結果は、今後の米国政治の方向性を左右します。国際社会は、米国の動向を注視しながらも、気候変動や貧困といったグローバルな課題に協調して取り組む必要があります。スティグリッツ教授の提言は、そうした協力の枠組みを考える上での重要な視座を提供しています。

参考資料:

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