衆院選で問われる高市政権の積極財政路線とは
はじめに
2026年1月27日、第51回衆議院総選挙が公示されました。2月8日の投開票に向けて12日間の選挙戦がスタートし、1200人を超える候補者が465議席を争います。
今回の選挙で最大の焦点となっているのが、高市早苗首相が掲げる「責任ある積極財政」路線への評価です。昨年10月の政権発足以来、従来の財政規律重視から大きく舵を切った高市政権の経済政策は、物価高に苦しむ国民生活を救う切り札となるのか、それとも財政悪化のリスクを高めるのか。各党の公約とともに、今回の選挙の争点を詳しく解説します。
高市政権の「責任ある積極財政」とは何か
従来路線からの大転換
高市首相は2025年11月の所信表明演説で、「責任ある積極財政の考え方の下、戦略的に財政出動を行う」と宣言しました。これは従来の財政規律を重視する姿勢からの大きな転換を意味します。
具体的には、積極的な財政出動によって経済を成長させ、税率を引き上げなくても税収が伸びる経済構造をつくることを目指しています。成長率の範囲内で債務の伸びを抑制することで、政府債務残高対GDP比を引き下げ、「強い経済」の実現と財政健全化の両立を図る方針です。
経済対策の3つの柱
高市政権が打ち出した経済対策は、以下の3つを柱としています。
第一に、生活の安全保障・物価高への対応です。最優先課題として位置付けられ、ガソリン税と軽油引取税の旧暫定税率の廃止、電気・ガス料金の支援、中小企業・農林水産業への支援などが含まれます。
第二に、危機管理投資・成長投資による「強い経済」の実現です。経済安全保障、食料安全保障、エネルギー安全保障、国土強靭化などの分野への投資を成長戦略の柱と位置付けています。2025年11月には日本成長戦略本部が始動し、AI・半導体など17項目が戦略分野に設定されました。
第三に、防衛力と外交力の強化です。安全保障環境の変化に対応した防衛力整備を進める方針を示しています。
補正予算は18兆円超
高市政権は2025年度補正予算として18兆円超の大型予算を成立させました。総合経済対策の規模は総額21.3兆円に達し、新型コロナ禍後で最大規模となっています。
首相は、2025年度当初予算と補正予算案を合わせた国債発行額が2024年度の補正後の42.1兆円を下回る見込みだと説明し、「財政の持続可能性にも十分配慮したものだ」と主張しています。
各党の公約を比較する
自民党:食料品消費税の時限減税
自民党は政権公約で「日本列島を、強く豊かに。」をスローガンに掲げています。重点施策として、強い経済による国民生活の向上、地方経済の活性化、安全保障の強化、社会保障の充実、憲法改正の5つの柱を打ち出しました。
消費税については、食料品に限り2年間限定で減税する方針です。特例公債(赤字国債)に頼らず財源を確保し、給付付き税額控除の制度ができるまでの「つなぎ」と位置付けています。
日本維新の会:社会保険料引き下げが一丁目一番地
連立与党のパートナーである日本維新の会は、「動かすぞ、維新が。」を掲げ、「経済・政治・日本を動かす3つの改革」を軸に据えています。
特に社会保険料の引き下げを「一丁目一番地」として、現役世代の負担軽減を最重要課題に位置付けています。また、食料品の消費税「2年間ゼロ」を自民党と歩調を合わせて掲げ、ガソリン税の暫定税率廃止(1リットルあたり約25円の減税)を短期的な家計支援策として提案しています。
中道改革連合:与党への対抗軸
2025年10月の高市政権発足直前、公明党は企業・団体献金の規制強化で折り合えなかったとして連立政権を離脱しました。その後、立憲民主党と公明党が合流して新党「中道改革連合」を結成しています。
中道改革連合は高市政権との対立軸を明確にし、食料品の消費税ゼロを生活者支援策として提案。教育・医療・介護などの基本サービスの無償化・低廉化による現役世代の負担軽減と格差是正を掲げています。また、首相の衆議院解散権を制限し、恣意的な解散を防ぐことも公約に盛り込んでいます。
国民民主党:「もっと手取りを増やす」
国民民主党は「『もっと』手取りを増やす。」をキャッチフレーズに掲げています。いわゆる「103万円の壁」の打破として、基礎控除等を103万円から178万円へ引き上げる目標を維持し、年収665万円以下の層への基礎控除上乗せなどを主張。手取り増の第2弾として、住民税の控除額引き上げによる減税も明記しています。
解散のタイミングと各党の反応
なぜ今、解散なのか
高市首相は1月19日の記者会見で、解散を決断した理由について「高市内閣が政権選択選挙の洗礼を受けていないことを気に掛けてきた」と説明しました。高市内閣として本格的な政策・予算編成の大改革を進める前に「堂々と審判を仰ぐことが民主主義国家のリーダーの責務」と述べています。
また、前回の衆議院選挙では自民党の政権公約には書かれていなかった政策が多く、高市早苗が日本の国家経営を担う可能性すら想定されていなかったことを理由として挙げました。
野党からの批判
この「通常国会冒頭解散」に対しては、野党から厳しい批判が相次いでいます。
立憲民主党の野田代表は「信を問いたいならもっと早く国会を開くべきだった」と指摘し、政治とカネの問題や物価高対策などの議論が尽くされていない段階での解散に疑問を呈しました。
国民民主党の玉木代表も「年収の壁見直しなど、合意した約束が果たされないタイミングでの解散は残念だ」と述べ、政局よりも経済対策を優先すべきだったとの認識を示しています。
今後の注目点と課題
与党で過半数を確保できるか
解散時点での衆議院の勢力は、自民党196議席、維新34議席で、連立与党合計230議席と過半数の233議席を下回っていました。高市首相は与党で過半数を目標に掲げ、「下回った場合は即刻退陣する」と明言しています。
高市内閣の支持率は報道各社の世論調査で60〜70%台の高水準を維持しており、自民の独自調査では260議席程度を見込めるとの結果も出ているとされています。
積極財政路線の持続可能性
大和総研の分析によると、高市政権が描いているように積極財政によって潜在成長率を引き上げられるかどうかは不透明です。内閣府や日本銀行が推計した潜在成長率は直近で+0.5〜0.7%程度にとどまっており、成長率を大幅に高めることは容易ではありません。
ニッセイ基礎研究所は、高市政権の真価が問われるのは経済対策よりも2026年度当初予算であると指摘しています。基礎控除の物価連動引き上げやNISA拡充などは、当初予算に反映されて初めて実現するためです。
まとめ
今回の衆院選は、高市政権の「責任ある積極財政」路線に対する国民の審判という性格を持っています。物価高対策、成長投資、財政健全化の両立という難題に対して、有権者がどのような判断を下すのか注目されます。
選挙結果は2月8日に明らかになります。投票に際しては、各党の公約を比較検討し、日本経済の将来像について自らの考えを反映させることが重要です。
参考資料:
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