高市自民が「鬼門」消費税の争点化を回避する背景
はじめに
2026年1月27日公示・2月8日投開票の衆議院選挙を前に、消費税減税が各党共通のテーマとなっています。高市早苗首相は食料品を2年間消費税の対象外とする考えを表明しましたが、与野党のほとんどが消費税減税を掲げる異例の展開となっています。
消費税は自民党にとって長年「鬼門」とされてきました。増税を掲げた政権が選挙で敗北するケースが歴史的に多く、2025年の参院選でも自民党は与党過半数割れの苦杯を喫しています。本記事では、高市政権が消費税を「争点化」しにくい背景と、財源論が置き去りにされている現状を詳しく解説します。
高市首相の消費税減税表明
「悲願」としての食料品消費税ゼロ
高市首相は1月19日の記者会見で、2年間に限り食料品を消費税の対象としない考えを示しました。首相は「私自身の悲願だ」と述べ、実現への強い意欲を表明。衆院選後に社会保障と税の一体改革を議論する超党派の「国民会議」を早期に立ち上げ、「財源やスケジュールの在り方など、実現に向けた検討を加速する」と強調しました。
この食料品消費税減税は首相のかねての持論です。もっとも、2025年10月の自民党総裁選では封印し、日本維新の会との連立政権合意後も慎重な姿勢に終始してきた経緯があります。
自民党内の戸惑い
高市首相の発言は党内に波紋を広げています。自民と維新の連立合意では「飲食料品については2年間に限り消費税の対象としないことも視野に法制化の検討を行う」と明記されていますが、首相の発言はこの合意を踏み越えかねない内容でした。
党内からは「そんないいかげんなことを言われても困る」との戸惑いの声が上がっています。政府高官は「やると決まったわけではない」と語り、政府・自民党内には「実現できない」との見方が早くも広がっています。
野党への対抗姿勢
首相の発言は、消費税減税をこぞって訴える野党に引っ張られた側面があります。27日公示の衆院選を控え、減税競争に乗り遅れることへの危機感が背景にあるとみられます。しかし、連立合意を踏み越えかねない発言内容に、自民内からいら立ちの声も漏れています。
各党の消費税減税公約
与党の主張
自民党は公約で、物価高対策として飲食料品を「2年間に限り消費税の対象としないこと」の実現に向け検討を加速すると明記しました。連立パートナーの日本維新の会も歩調を合わせ、2年間限定での食料品消費税ゼロを掲げています。
維新の藤田文武共同代表は「無制限な減税は論外だ。市場から信認を得られない」と指摘し、期限を設ける必要性を強調しました。また、ガソリン税の暫定税率廃止として1リットルあたり約25円の減税も提案しています。
野党の主張
立憲民主党と公明党が合流して結成された新党「中道改革連合」は、生活者支援の即効策として飲食料品の消費税を期間限定でゼロにすることを提案しています。立憲の安住淳幹事長は高市政権の経済対策では不十分だと批判し、「目に見える形の物価高対策」として消費税減税を示すと表明しました。
国民民主党は「103万円の壁」打破を前面に掲げ、基礎控除等の引き上げや社会保険料還付制度の創設を提案しています。参政党、れいわ新選組、共産党は「消費税廃止」を求め、日本保守党は「大胆な減税」、社民党は「防衛費削減」を主張しています。
差別化が困難な状況
主な政党がそろって消費税負担の軽減を訴える展開となり、有権者にとって各党の違いが分かりにくい状況が生まれています。減税の是非はこれまで選挙戦の争点となりやすかったものの、今回は各党間で差別化が難しくなっています。
消費税が自民党の「鬼門」である理由
歴史的な敗北パターン
消費税は選挙の「鬼門」とされ、増税を掲げた政権が敗れるケースが歴史的に多くなっています。歴代政権で消費税に初めて挑んだのは大平正芳首相でした。財政再建に向けて「一般消費税」の導入に意欲を示しましたが、世論の猛反発に遭い、1979年10月の衆院選で自民は過半数を割り込みました。
1989年の参院選では、3%の消費税導入やリクルート事件などで自民党に逆風が吹きました。大勝した社会党の土井たか子委員長が発した「山が動いた」は流行語になり、宇野宗佑首相は退陣に追い込まれました。
民主党政権下の2010年参院選では、菅直人首相が唐突に消費税引き上げの検討を表明し、世論の反発を買って民主党は大敗。「ねじれ国会」となり、2012年衆院選での惨敗につながりました。
2025年参院選の教訓
2025年7月の参院選でも消費税が争点となりました。石破茂首相は「消費税は医療、年金、介護、子育てに使うことが法律で決まっている」と維持を訴え、「今さえよければいいという政治が横行したときに国は滅びる」と減税を批判しました。
しかし結果は与党の敗北でした。自民党は39議席、公明党は8議席の計47議席にとどまり、非改選を合わせても過半数の125議席に3議席届きませんでした。この教訓が、高市政権の減税姿勢に影響を与えていると考えられます。
例外的な成功例
一方、安倍晋三首相は10%への引き上げの延期を掲げた2014年12月の衆院選や、増税分の使途見直しを訴えた2017年10月の衆院選で勝利しています。「増税延期」や「増税分の還元」という形で有権者に配慮を示すアプローチが功を奏した例といえます。
財源論の課題
年5兆円の税収減をどう穴埋めするか
食料品の消費税をゼロにした場合、年間約5兆円の税収減が見込まれます。この財源をどう確保するかが最大の課題ですが、具体的な方策は各党ともに不透明なままです。
高市首相は「特例公債に頼ることなく、補助金や租税特別措置、税外収入などの歳出・歳入全般の見直しが考えられる」と述べるにとどめています。中道改革連合の公明党は「政府系投ファンドを創設し、つくり出した財源を活用する」との案を示しています。
経済成長による税収増への期待
一部には、経済成長による税収増で財源を確保できるとの主張もあります。2026年度は3兆から4.5兆円の増収が期待でき、これが2年間続けば5兆円の税収減は十分にカバーできるとの見方です。
しかし、経済成長は不確実であり、景気後退局面に入った場合には税収減が拡大するリスクがあります。確実な財源を示さないまま減税を実施することへの懸念は根強くあります。
社会保障財源としての消費税
消費税は年金、医療、介護、子ども・子育て支援をはじめ社会保障の安定財源として位置づけられています。令和6年度当初予算では、租税及び印紙収入約69.6兆円のうち消費税収が約23.8兆円(21.2%)を占めています。
日本経済新聞社の世論調査(2025年5月)では、「社会保障の財源を確保するために税率を維持するべきだ」が55%、「赤字国債を発行してでも税率を下げるべきだ」が38%という結果でした。財源論なき減税への慎重論は依然として多いことがうかがえます。
注意点と今後の展望
「検討を加速」の実現可能性
高市首相は「検討を加速」と表現しており、実施を確約したわけではありません。選挙後の「国民会議」での議論を経て、財源確保のめどが立たなければ見送られる可能性もあります。有権者は各党の公約を「実現性」の観点からも吟味する必要があるでしょう。
物価高対策としての効果
平均的な世帯で食料品の消費税がゼロになれば、年間6万4000円の負担軽減になるとの試算があります。物価高に苦しむ家計にとっては一定の効果が期待できます。
一方で、「消費税減税は逆進性対策として不十分」との指摘もあります。所得に関係なく一律に減税されるため、高所得者ほど恩恵が大きくなる構造的な問題があります。
まとめ
2026年衆院選では、与野党が軒並み消費税減税を掲げる異例の展開となっています。消費税は自民党にとって長年の「鬼門」であり、高市首相は減税姿勢を示すことで野党との差別化を避け、争点化を回避する戦略をとっているようにも見えます。
しかし、年5兆円ともいわれる税収減の財源論は不透明なままです。社会保障財源としての消費税の重要性を考えれば、「検討を加速」という表現に留まっている点には注意が必要です。有権者は各党の公約を、実現可能性と財源確保の観点から冷静に評価することが求められます。
参考資料:
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