消費税減税、高市首相の発言が一転「即効性ない」から「悲願」へ
はじめに
高市早苗首相は1月19日の記者会見で、衆院選において食料品にかかる消費税を2年間ゼロにする案を自民党の公約として掲げる考えを示しました。会見では「自民と維新の合意書にあり、私自身の悲願でもあった」と語り、物価高対策としての効果を強調しました。
しかし、この積極姿勢は就任以来の慎重な態度とは大きく異なります。首相は以前から「国の品格として食料品の消費税率は0%にすべきだ」と主張してきましたが、総裁選では持論を封印。首相就任後も「レジの改修に時間がかかる」「即効性がない」として消費税減税には後ろ向きな姿勢を見せていました。
発言のぶれは「選挙目当ての日和見主義」との批判を受けかねません。高市首相の消費税をめぐる発言の変遷と、その背景を検証します。
「国の品格」と語った持論
総裁選前の明確な主張
高市早苗氏は2025年5月、自民党の会合に出席後、消費税について明確な持論を展開していました。「国の品格として食料品の消費税率はゼロ%にするべきだ」という発言は、物価高に苦しむ国民の間で大きな期待を集めました。
この主張は高市氏の経済ブレーンとして知られる本田悦朗元内閣官房参与の影響もあるとされています。本田氏は「食料品のゼロ税率は国家の品格」と繰り返し主張しており、高市氏の政策の根幹を形成していました。
立憲民主党の野田佳彦代表は2025年11月の国会で、「高市総理は今年5月23日、『国の品格として食料品の消費税率は0%にするべき』と発言されています。たった数か月前、総理が”国の品格”とまでおっしゃった政策です」と指摘し、姿勢の変化を追及しました。
期待を集めた初の女性首相
2025年10月の自民党総裁選で、高市氏は党員・党友票でトップを獲得し、日本初の女性首相が誕生しました。「初の女性総理だから、今までの男の政治家にはできなかった、国民のための大胆な決断をしてくれる」という期待が高まりました。
特に消費税減税については、高市氏が以前から明確な持論を持っていたこともあり、実現への期待は大きかったといえます。
総裁選での「封印」
党内の多数意見にならず
しかし、総裁選出馬時から高市氏の姿勢には変化が見られました。「食料品の消費税を0%にすべきだ」という主張は封印され、代わりに「今の物価高対策に即効性はない」として距離を置く発言が目立つようになりました。
総裁当選後の就任会見では、消費税率の引き下げについて問われ、「自民党の税制調査会では消費税の軽減税率についての引き下げについては多数意見となりませんでした」と説明。「選択肢としては決してこれを放棄するものではないですけど、すぐに私たちが対応できることをまず優先したい」と述べました。
この発言は、党内の財政規律を重視する勢力への配慮と解釈されましたが、「自民党の偉い人たちの決めた枠から飛び出せない、弱いリーダーだ」という批判も招きました。
技術的理由の強調
さらに首相は、消費税減税を見送る理由として技術的な課題を挙げました。国会審議では「レジの改修に1年以上かかるということで、まず物価高対策として即効性のあるものとしては諦めた経緯がございます」と説明しています。
「難しいことはやりたくない」という言い訳に聞こえるとの指摘もあり、SNS上では「手のひら返し」との批判が殺到しました。実業家のひろゆき氏も「5ヶ月前食料品消費税ゼロ主張してたのに、あっさり手のひら返し」と指摘しています。
首相就任後の慎重姿勢
「無責任な減税しない」
首相就任後の高市氏は、消費税減税に対して一貫して慎重な姿勢を維持しました。2025年12月の日本経済新聞の単独インタビューでは「無責任な減税はしない」と明言し、国債発行を抑える方針を示しました。
日本維新の会との連立政権合意には「飲食料品について2年間に限り消費税の対象としないことも視野に、法制化を検討する」と明記されていましたが、首相は「党内で反対がある」「レジシステムの改修などに一定の期間がかかるとの課題にも留意が必要」として、実現には消極的でした。
本音を漏らした国会答弁
一方で、本心では消費税減税への意欲を持ち続けていたことを示す発言もありました。2025年11月11日の衆院予算委員会で、公明党の岡本三成政調会長から「恒久財源5兆円を自由に使えるとしたら何に使いたいか」と問われた首相は、こう答えました。
「自民党に怒られるかもしれないが、今だったら食料品の消費税をずっとゼロにする」
委員の一部から拍手が起こると、首相は「恒久財源があればだ」と念押しし、「恒久財源が10兆円あったら、もっとやりたいことがいっぱいある」と力説しました。この発言は、首相の本音を垣間見せるものとして注目されました。
選挙前の態度転換
「悲願」と語る積極姿勢
1月19日の記者会見で、高市首相の姿勢は一転しました。食料品の消費税ゼロ化について「自民と維新の合意書にあり、私自身の悲願でもあった」と語り、検討を加速すると強調したのです。
かねての持論である消費税減税に慎重な姿勢をとってきた首相が、なぜこのタイミングで積極姿勢に転じたのか。背景には選挙戦略があると見られています。
野党の動きへの対抗
このタイミングでの方針転換の背景には、野党の動きがあります。立憲民主党と公明党による新党「中道改革連合」が消費税減税を目玉政策として掲げる中、争点を奪われることへの危機感が働いたとの分析があります。
消費税減税を自民党の公約に盛り込むことで、野党との差別化を図りつつ、物価高に苦しむ有権者へのアピールを狙う意図が透けて見えます。
党内からの戸惑い
しかし、この唐突な方針転換には党内からも戸惑いの声が上がっています。自民党の財務大臣経験者からは「そんないいかげんなことを…」との声が漏れ、財源の裏付けがない減税への懸念が示されています。
「世論受けしか考えていないバラマキ政策だ」という批判は、与党内部からも出ているのが実情です。
発言のぶれがもたらす問題
「日和見主義」との批判
高市首相の消費税をめぐる発言の変遷は、「選挙目当ての日和見主義」という批判を招いています。
「国の品格として食料品消費税ゼロ」→総裁選で「封印」→首相就任後「即効性がない」「党内の反対がある」→選挙前「私自身の悲願」
この流れを見れば、政策の一貫性よりも政治的な都合が優先されているとの印象は否めません。
信頼性への影響
政策に対する姿勢が状況によって大きく変わることは、首相としての信頼性に影響を与えます。特に消費税は国民生活に直結する重要な政策であり、その場しのぎの対応は長期的な政権運営において大きなマイナスとなりかねません。
日本テレビの調査によると、2024年の総裁選で党員・党友票トップだった高市氏ですが、2025年の調査では2位に後退。人気低下の要因として「政策提言における具体性の欠如」が指摘されています。
今後の展望
財源問題の行方
食料品の消費税をゼロにした場合、年間約5兆円の税収減が発生します。野村総合研究所の分析によると、仮に2年の時限措置であっても、各年5兆円程度の財源を確保することはかなり難しく、結果的に国債発行増加を招く可能性が高いとされています。
また、食料品の消費税を2年間ゼロにする場合の実質GDP押し上げ効果は1年間で+0.22%と大きくないとの試算もあり、財政悪化のリスクに見合う効果があるのか疑問視する声もあります。
選挙後の対応が焦点
選挙で与党が過半数を獲得した場合、実際に食料品消費税ゼロを実現するのかどうかが焦点となります。これまでの発言の変遷を見れば、選挙後に再び「財源の問題がある」として先送りにする可能性も否定できません。
有権者としては、公約が本当に実行されるのか、その財源はどう確保されるのかを冷静に見極める必要があります。
まとめ
高市早苗首相の消費税減税をめぐる発言は、「国の品格」と語った持論から総裁選での封印、首相就任後の慎重姿勢、そして選挙前の「悲願」発言へと大きく揺れ動いてきました。
物価高対策としての消費税減税には一定の効果が期待できますが、年5兆円の財源問題は解決されていません。発言のぶれは「選挙目当て」との批判を招いており、政策の実現可能性と首相の信頼性が問われています。
2月8日の投開票に向けて、有権者は各党の消費税政策と財源の裏付けを冷静に判断することが求められます。
参考資料:
関連記事
期限付き減税が抱える構造的リスクとは?過去の失敗に学ぶ
2026年衆院選で争点となる消費税減税。過去の期限付き減税がなぜ失敗してきたのか、定率減税の廃止や歴代政権の教訓から、減税政策の構造的リスクを解説します。
食料品消費税ゼロは実現するか、各党公約を徹底比較
2026年衆院選で争点となる食料品の消費税減税。高市首相や野田氏が年度内実現を目指す中、各党の公約と財源問題、家計への影響を詳しく解説します。
高市首相、食品消費税減税「26年度めざす」 財源めぐり党内に懸念
高市早苗首相が食品消費税の2年限定ゼロを2026年度中に実現する意向を表明。しかし年5兆円の税収減への財源確保に党内からは懐疑的な声も上がっています。
高市自民が「鬼門」消費税の争点化を回避する背景
2026年衆院選で高市首相は食料品の消費税2年間ゼロを掲げますが、与野党が軒並み減税公約を掲げ差別化が困難な状況です。消費税が自民党の「鬼門」とされる歴史的背景と、財源論の課題を解説します。
消費税減税で経済界が警鐘、財源なき公約への懸念
2026年衆院選で各党が消費税減税を公約に掲げる中、経済界と労働界が財源不明確を理由に懸念を表明。法人減税縮小への波及や金融市場の動揺が広がっています。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。