冒頭解散で高校無償化・減税に遅れの懸念
はじめに
高市早苗首相は2026年1月23日に召集される通常国会の冒頭で衆議院を解散する方針を固めました。1月14日に与党幹部へ正式に意向を伝達し、19日に記者会見で表明する予定です。投開票は2月8日が有力視されています。
しかし、この「冒頭解散」には大きな課題があります。予算審議が大幅に遅れることで、2026年度当初予算案の年度内成立が困難となり、4月から予定されていた高校授業料無償化の全国展開や自動車税の環境性能割廃止といった政権の看板政策に、法的な裏付けが間に合わない可能性が出てきました。
冒頭解散の背景と政治的意図
36年ぶりの1月解散
国会召集日当日の「冒頭解散」は戦後5回目で、1月の衆院解散は1990年以来36年ぶりとなります。解散から投開票までの16日間は戦後最短です。
高市首相が早期解散に踏み切る背景には、高い内閣支持率があります。日本経済新聞社の世論調査によると、高市内閣の支持率は2025年12月時点で75%を記録し、10月の内閣発足以来70%台を維持しています。参院で与党の過半数割れが続く中、この高支持率を追い風に衆院選で勝利し、政策推進力を高める狙いがあります。
野党の準備不足を突く狙い
真冬の2月投開票という異例の日程には、野党の選挙準備が整う前に勝負をかける意図も指摘されています。野党側は候補者調整や選挙態勢の構築が十分に進んでおらず、短期決戦は与党に有利に働く可能性があります。
一方で、立憲民主党と公明党が連携を模索する動きも出ています。野田佳彦・立憲代表と斉藤鉄夫・公明代表は1月12日に会談し、「より高いレベルで連携」することで一致しました。異なる政党の候補者を同じ比例名簿に登載する「統一名簿」方式も検討されています。
予算審議への影響
11年ぶりの暫定予算編成へ
通常国会冒頭で衆院が解散されると、2026年度当初予算案の審議時間が大幅に不足します。このため、予算案の年度内成立は事実上不可能となり、政府は11年ぶりに暫定予算を編成する見通しです。
暫定予算とは、本予算が成立するまでの空白期間をつなぐための臨時予算です。行政機能を維持するための最低限の支出に限定され、新規事業や政策的経費は含まれません。主な対象は人件費などの経常的経費、継続中の公共事業、年金・医療などの社会保障費、国債の利払いなどです。
過去の暫定予算事例
直近の暫定予算は2015年で、4月1日から11日までの11日間分として一般会計歳出5兆7593億円が計上されました。安倍政権下で実施した前年12月の衆院選の影響で予算案提出が遅れたためです。
1990年の事例では、予算成立が年度末から約50日遅れ、その間の暫定予算は約10兆円規模となりました。今回も同様の規模が想定されます。
地方自治体や経済への影響
暫定予算の編成は、国だけでなく地方自治体にも影響を及ぼします。仙台市の郡和子市長は「国の力を得ながら行っていく事業もたくさんある」と述べ、成立の遅れによる市民生活への影響に懸念を示しました。
また、政局の不安定化は株価や為替にも影響を与える可能性があります。衆院選後の政権運営が混乱すれば、好調な株式市場に冷や水となる懸念も指摘されています。
看板政策への具体的影響
高校授業料無償化の行方
高市政権の看板政策の一つが、2026年4月からの高校授業料無償化の全国展開です。これは2025年10月に自民・公明・日本維新の会の3党が最終合意した政策で、私立高校を含めた所得制限なしの授業料支援を実現するものです。
具体的には、高等学校等就学支援金の支給上限額が私立高校の全国平均授業料である45万7000円に引き上げられます。これまで年収910万円以上の世帯は支援対象外でしたが、2026年度からすべての家庭が対象になる予定でした。
しかし、この制度変更には予算措置と関連法案の成立が必要です。予算審議が遅れれば、4月の新学期に間に合わない可能性があります。すでに東京都や大阪府では先行して所得制限を撤廃していますが、全国での一斉実施が遅れれば、地域間格差が拡大する恐れがあります。
環境性能割廃止の課題
自動車取得時に課税される「環境性能割」の廃止も、2026年度税制改正大綱に盛り込まれた重要政策です。環境性能割は2019年に導入され、燃費性能に応じて取得価額の最大3%(軽自動車は2%)が課税されてきました。
当初、自民党内では2年間の凍結で調整していましたが、国民民主党の要求を受けて廃止に転換しました。2026年3月末での廃止が予定されていますが、税制改正法案の成立が遅れれば、4月以降も課税が継続する可能性があります。
環境性能割の税収は年間約2000億円で、重要な地方財源となっています。東京、神奈川、愛知、大阪の4都府県では、それぞれ100億円以上の税収減が見込まれており、代替財源の確保も課題です。
103万円の壁引き上げへの影響
国民民主党との合意で実現した「103万円の壁」の178万円への引き上げも、税制改正法案の成立を待たなければ実行できません。
2026年度税制改正大綱では、基礎控除と給与所得控除の最低保障額をそれぞれ4万円増額し、さらに年収220万円以下には給与所得控除を追加で5万円増額、年収650万円以下には基礎控除を上乗せすることで、所得税の課税最低限を178万円まで引き上げる内容となっています。
財務省の試算では、この措置による追加の減税規模は年間約6500億円。103万円から160万円への引き上げ分を含めると、合計で年間約1兆8500億円の減税となります。法案成立の遅れは、働く人々の手取り増加を先送りすることを意味します。
政府の対応と今後の見通し
つなぎ措置の検討
政府は予算成立の遅れに備え、つなぎ措置の検討を進めています。高校無償化については、予算成立前でも概算払いなどの形で支援を継続する方法が模索されています。
ただし、法的根拠のない状態での支出には限界があり、完全な政策実施は予算成立後となる可能性が高いです。
短期決戦で影響最小化を狙う
高市首相が冒頭解散を選んだ理由の一つは、解散から投開票までを最短にすることで、政治空白を最小限に抑える狙いがあります。選挙後に速やかに国会を召集し、予算審議を再開すれば、暫定予算の期間を短縮できる可能性があります。
しかし、選挙結果によっては政権運営が複雑化し、予算審議がさらに長期化するリスクも否定できません。
まとめ
高市首相の通常国会冒頭解散は、高支持率を背景にした政治判断である一方、4月から予定されていた看板政策の実施に影響を及ぼす可能性があります。高校授業料無償化、環境性能割廃止、103万円の壁引き上げといった国民生活に直結する政策の法的裏付けが遅れることへの懸念は大きいです。
政府は暫定予算の編成やつなぎ措置の検討を進めていますが、完全な形での政策実施には予算成立が不可欠です。2月8日の投開票後、新たな国会でどれだけ迅速に予算審議を進められるかが、国民生活への影響を左右することになります。
有権者としては、各政党がこれらの政策課題にどう取り組むのかを注視しながら、投票に臨むことが重要です。
参考資料:
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