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by nicoxz

高市財政への疑念が市場に波紋、債券安と円安が同時進行

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はじめに

2026年1月9日深夜、高市早苗首相が衆議院解散を検討しているとの観測報道が流れると、金融市場は大きく動揺しました。日経平均株価は史上最高値を更新し続ける一方で、円は1年ぶりの安値水準まで下落し、債券市場では国債が売られて金利が上昇しています。この「高市トレード」と呼ばれる市場動向は、株式市場と債券市場で明暗が分かれる異例の展開を見せています。

積極財政への期待で株価が上昇する一方、財政リスクへの懸念から債券が売られるという矛盾した動きの背景には何があるのでしょうか。本記事では、市場参加者が抱く財政への不安と、今後の展開について詳しく解説します。

「高市トレード」の全貌:3つの市場が同時に動いた

株式市場:史上最高値を更新

解散観測が報じられた1月9日夜、米国市場で日経平均先物は5万3500円台まで急騰しました。翌週13日には日経平均株価が868円高で寄り付き、一時1800円超上昇して5万3800円を超える場面もありました。高市政権の積極財政が継続されるとの期待から、投資家は日本株を買い進めています。

野村證券のアナリストは、選挙での勝利により高市政権が「公約に掲げた経済対策を実行しやすくなる」との見方を示しています。特に防衛費増額やインフラ投資、賃上げ支援などの大規模な財政出動が予想され、企業業績の改善期待が株価を押し上げています。

為替市場:1年ぶりの円安水準

円相場は1月9日夜、ニューヨーク外国為替市場で一時1ドル=158.18円まで下落し、約1年ぶりの円安水準を記録しました。わずか1時間で80銭も円が下落する急激な動きとなり、市場関係者は「財政リスクの再燃」と受け止めています。

円安の背景には、積極財政による財政赤字拡大への懸念があります。大規模な経済対策には国債発行が必要となり、日本の財政状況の悪化が予想されることから、投資家は円を売って外貨建て資産にシフトしています。一部のアナリストは、ドル円が160円に達する可能性も指摘しており、為替介入への警戒感も高まっています。

債券市場:長期金利が急上昇

最も深刻な動きを見せたのが債券市場です。東京債券市場では10年物国債利回りが1.680%まで上昇し、超長期債(20年債、30年債、40年債)の利回りは軒並み急騰しました。債券先物は夜間取引で43銭下落し、債券価格の下落(金利の上昇)が顕著となっています。

債券市場が売られる理由は明確です。積極財政を実行するには新たな国債発行が避けられず、国債の供給増加が予想されるためです。さらに、財政赤字の拡大は日本の信用格付け引き下げリスクを高め、国債保有のリスクプレミアムが上昇しています。

債券市場が示す財政への不信感

「責任ある積極財政」を信じない理由

高市首相は「責任ある積極財政」を掲げ、経済成長による税収増で財政健全化を図ると説明しています。しかし、債券市場はこの説明を額面通りには受け取っていません。

過去の事例を見ると、2013年に開始されたアベノミクスでも同様の「成長による財政健全化」が謳われましたが、実際には政府債務残高は拡大し続けました。市場参加者はこの教訓から、財政拡張が自然増収の範囲を超えて実施されるリスクを警戒しています。

英国「トラスショック」との比較

一部のアナリストは、2022年に英国で起きた「トラスショック」との類似性を指摘しています。当時、トラス首相が大規模減税を発表したところ、財源の裏付けがないとして国債が急落し、わずか50日で首相辞任に追い込まれました。

ただし、日本の状況は英国とは異なる点もあります。日本国債の海外投資家保有比率は約6.5%(2025年6月時点)と低く、英国の約31%と比べて外国資本の急激な流出リスクは限定的です。国内投資家が主体であるため、急激な国債暴落の可能性は低いとの見方もあります。

超長期債に集中する売り圧力

注目すべきは、売り圧力が超長期債(20年以上)に集中している点です。10年債の利回り上昇が1.680%程度にとどまる一方、20年債、30年債、40年債は大幅に利回りが上昇しています。

これは、投資家が長期的な財政リスクを特に懸念していることを示しています。短期的には経済成長が期待できても、10年、20年先の財政状況に対する不安が、超長期債の売りを加速させているのです。

市場の二極化:株式と債券で異なる評価軸

株式市場の楽観論

株式市場は、高市政権の積極財政を「企業業績にプラス」と評価しています。防衛費増額による防衛関連企業の受注増、インフラ投資による建設・素材セクターの恩恵、賃上げ支援による個人消費の拡大など、短期的な経済成長への期待が株価を押し上げています。

また、日銀が金融緩和政策を維持する姿勢を示していることも、株式市場にとってはプラス材料です。低金利環境が続けば、企業の資金調達コストは低く抑えられ、株式の相対的な魅力も高まります。

債券市場の懸念

一方、債券市場は長期的な財政持続性を重視します。国債を保有する投資家にとって重要なのは、「満期まで利払いと元本返済が確実に行われるか」という点です。

財政赤字が拡大し、政府債務が膨張すれば、将来的にデフォルト(債務不履行)や格付け引き下げのリスクが高まります。このため、債券市場は積極財政を「保有リスクの増大」と捉え、国債を売却する動きが強まっているのです。

評価の時間軸の違い

株式市場と債券市場で評価が分かれる根本的な理由は、時間軸の違いにあります。株式投資家は数ヶ月から数年の景気サイクルを重視するのに対し、債券投資家は10年、20年先の財政状況を見据えています。

積極財政は短期的には経済を押し上げるかもしれませんが、長期的には財政の持続可能性を損なうリスクがあります。この時間軸の違いが、株高と債券安が同時に進行する「高市トレード」の本質なのです。

注意点と今後の展望

為替介入の可能性

円安が急速に進行すれば、政府・日銀による為替介入の可能性が高まります。2022年には1ドル=151円台で為替介入が実施されており、160円に接近すれば再び介入が検討される可能性があります。

ただし、介入の効果は限定的です。財政リスクに起因する円安は構造的な問題であり、一時的な介入では根本的な解決にはなりません。持続的な円安圧力に対しては、財政健全化への具体的な道筋を示すことが求められます。

日銀の政策変更圧力

国債金利の上昇は、日銀の金融政策にも影響を及ぼします。金利上昇が過度に進めば、企業の資金調達コストが上がり、景気を冷やす可能性があります。日銀は金融緩和を維持しつつも、長期金利の急上昇を抑えるため、イールドカーブコントロール(YCC)の調整を迫られる可能性があります。

一方で、金利上昇を容認すれば円安圧力は緩和されますが、財政コストの増大(国債利払い費の増加)という新たな問題が生じます。日銀は難しい舵取りを求められることになるでしょう。

選挙結果の重要性

1月23日の衆院解散、2月8日の投票という日程が固まる中、選挙結果が今後の市場動向を大きく左右します。高市政権が圧勝すれば「高市トレード」はさらに加速する可能性がある一方、予想外の苦戦となれば積極財政への期待が後退し、市場は反転する可能性もあります。

特に注目すべきは、選挙公約でどこまで具体的な財政健全化策が示されるかです。債券市場を安心させるには、歳出拡大の規模と財源の裏付けを明確にする必要があります。

まとめ

高市首相の衆院解散表明を受けて、金融市場は「高市トレード」と呼ばれる株高・円安・債券安の三重奏を演じています。株式市場が積極財政による短期的な経済成長を期待する一方、債券市場は長期的な財政リスクを警戒し、国債を売却する動きが強まっています。

この市場の二極化は、積極財政が持つ二面性を如実に示しています。短期的には景気を押し上げる効果がある一方、長期的には財政の持続可能性を損なうリスクがあるのです。

投資家にとって重要なのは、自身の投資時間軸と高市政権の財政政策のリスク・リターンを冷静に評価することです。今後の選挙戦での公約、選挙結果、そして選挙後の具体的な政策実行を注視する必要があります。債券市場が示す財政への不信感は、単なる一時的な反応ではなく、日本の財政健全化という長年の課題を改めて浮き彫りにしているのです。

参考資料:

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