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by nicoxz

丸亀製麺が「家族食堂制度」を開始、従業員の子に食事支援

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はじめに

うどんチェーン「丸亀製麺」を運営するトリドールホールディングス(HD)が、従業員の子どもを対象とした新たな福利厚生制度「家族食堂制度」を2026年2月18日から開始しました。中学3年生以下の子どもがいる正社員やパート・アルバイトに対し、子ども1人あたり月額最大1万円相当の食事を支援するという、外食業界では異例の取り組みです。

この制度は、トリドールHDが掲げる「心的資本経営」の一環として位置づけられています。飲食業界全体が深刻な人手不足に直面するなか、従業員とその家族の幸福度を高めることで人材確保を図る戦略です。本記事では、制度の詳細と背景にある経営思想、そして外食業界への影響を解説します。

「家族食堂制度」の全容

制度の対象と支給内容

家族食堂制度は、丸亀製麺などトリドールグループの店舗で働く正社員・パート・アルバイトの全従業員が対象です。中学3年生以下の子どもがいる場合、子どもの人数に応じた金額がチャージされたカードが支給されます。

具体的には、子ども1人あたり月額最大1万円、年間で最大12万円相当の食事が可能です。従業員本人も対象に含まれるため、家族一緒に丸亀製麺の店舗で食事を楽しめます。対象店舗は所属ブランドの全国店舗で利用可能です。

制度設計の狙い

この制度には複数の狙いがあります。まず、従業員が家族と食卓を囲む時間を創出すること。飲食業界では不規則な勤務時間から家族との食事が取りにくい現実があり、自社店舗を「家族の食卓」として活用できる仕組みは実用的です。

次に、子育て世帯の食費負担を軽減すること。子ども1人で年間最大12万円の支援は、家計へのインパクトが大きい金額です。さらに、パート・アルバイトも含めた全雇用形態が対象であることで、飲食店の現場を支える非正規従業員の定着率向上も期待されています。

背景にある「心的資本経営」という経営思想

省人化の逆を行く戦略

飲食業界ではセルフレジや配膳ロボットなど省人化の流れが加速しています。しかしトリドールHDは、この潮流にあえて逆行する戦略を打ち出しました。「心的資本経営」と名付けられたこの経営思想は、従業員の「心」の幸せと顧客の「心」の感動を共に重要な資本と捉えるものです。

社内では「ハピカン繁盛サイクル」と呼ばれる実践モデルが共有されています。「ハピネス(幸福)」と「カンドウ(感動)」の頭文字を組み合わせた名称で、従業員の幸福が顧客への感動体験を生み、それが業績向上につながるという循環を目指しています。

店長年収2000万円への制度改革

家族食堂制度と同時に注目を集めているのが、店長制度の大幅な刷新です。従来の店長職は「ハピカンキャプテン」へと名称変更され、役割も大きく変わりました。

従来の店長は厨房や配膳などのオペレーション管理が中心でしたが、ハピカンキャプテンはこれらの業務をメンバーに委譲します。その代わり、人材マネジメントや店舗独自の感動体験の設計に専念する役割へと転換しました。

報酬も大幅に引き上げられました。現在の店長年収は最大520万円台ですが、新制度では心的資本経営の実践レベルに応じて最大年収2000万円まで到達できる設計です。2028年までに丸亀製麺で300名のハピカンキャプテンを育成し、うち10名を年収2000万円クラスに到達させることが目標です。

実際に出始めた効果

心的資本経営の導入から約1年が経過し、具体的な成果も表れています。従業員の離職率が約12.9%低下したほか、従業員満足度の向上も確認されています。店長の評価にはAIで測定する従業員満足度も加味されるなど、客観的な指標に基づく仕組みが構築されています。

トリドールグループの成長と外食業界への影響

好調な業績が制度投資を後押し

トリドールHDの2025年3月期の売上収益は2,682億円(前期比15.6%増)と過去最高を記録しました。営業利益も182億円(同27.4%増)と過去最高です。丸亀製麺の国内既存店売上も好調で、営業利益率は18%に達しています。

海外展開も加速しており、丸亀製麺の海外店舗は300店舗を突破しました。グループ全体では900店舗に達し、2028年3月期には3,000店舗を目標に掲げています。こうした成長基盤があるからこそ、従業員への大胆な投資が可能になっています。

外食業界の人材確保への示唆

飲食業界は慢性的な人手不足に悩んでいます。特にパート・アルバイトの確保は各社共通の課題です。従来の賃上げだけでは差別化が難しくなるなか、トリドールの「家族ごと支える」アプローチは新たな方向性を示しています。

食事補助自体は多くの企業が導入していますが、従業員の「子ども」にまで対象を広げた制度は外食業界では珍しい取り組みです。自社の店舗ネットワークを福利厚生のインフラとして活用する点も、外食チェーンならではの強みを生かした設計です。

注意点・展望

家族食堂制度は画期的ですが、いくつかの論点もあります。年間最大12万円の食事支援の原資は企業業績に依存するため、業績悪化時の制度継続性は気になるところです。また、店長年収2000万円という目標についても、飲食業界の現場負荷を考えると、理想と現実のギャップを懸念する声もあります。

一方で、今後の展望としては、こうした従業員の生活全体を支える福利厚生が外食業界全体に広がる可能性があります。人口減少が続く日本では、賃上げだけでなく「働く環境」全体の魅力度向上が人材確保の鍵になるためです。トリドールの取り組みが業界のベンチマークとなるか、注目されます。

まとめ

トリドールHDの「家族食堂制度」は、従業員の子どもに月1万円の食事支援を提供する外食業界初の本格的な取り組みです。店長年収2000万円制度と合わせ、「心的資本経営」という独自の経営思想に基づく人材戦略の一環として位置づけられています。

好調な業績を背景にした積極投資であり、離職率の低下という具体的な成果も出始めています。飲食業界の人手不足が深刻化するなか、賃上げ以外の差別化要素として「家族への支援」がどこまで業界に波及するか、引き続き注目すべきテーマです。

参考資料:

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