トリドールが経理DXで月1000時間削減した方法
はじめに
讃岐うどん専門店「丸亀製麺」を運営するトリドールホールディングス(HD)が、経理部門のデジタルトランスフォーメーション(DX)により、月間約1,000時間もの工数削減を実現しました。約6人分の業務量に相当するこの削減は、手作業やExcel依存からの脱却によって達成されています。
本記事では、トリドールHDが直面していた課題と、それを解決したDX戦略の詳細、そしてグローバル展開を支える業務改革の全容を解説します。
トリドールHDの現状と課題の背景
急速なグローバル展開
トリドールHDは現在、世界約30カ国・地域に進出し、グループ全体で約2,050店舗を展開しています。2025年3月31日時点で、海外の「MARUGAME UDON」は300店舗を突破し、国内外合わせて1,168店舗となりました。
売上収益に占める海外事業の比率は約4割に達しており、2011年にハワイで海外1号店を出店して以来、急速なグローバル化を遂げています。
レガシーシステムの限界
急成長の裏で課題となったのが業務システムでした。トリドールHDのCIO・CTO磯村康典執行役員は「中小企業向けのシステムのまま、大企業のビジネス規模になってしまった」と振り返っています。
業務システムのカスタマイズを重ねた結果、新たな業務要件への対応に費用と時間がかさむようになっていました。各現場では独自のExcelファイルが乱立し、手作業に頼った業務プロセスが複雑化していたのです。
DX戦略「DXビジョン2022」
3つの柱
トリドールHDは「DXビジョン2022」を掲げ、以下の3つの目標を定めました。
第1の柱:クラウドとサブスクリプションへの移行 すべてのレガシーシステムを廃止し、クラウドサービスとサブスクリプション型のSaaSを組み合わせて業務システムを再構築します。
第2の柱:ゼロトラストセキュリティの実現 すべてのネットワークに脅威が存在するという前提に立ち、ゼロトラストセキュリティを導入します。グローバル展開に伴い、セキュリティリスクへの対応を強化しています。
第3の柱:バックオフィス業務のBPO化 コールセンター、経理、給与計算などのバックオフィス業務をすべて手順化し、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)センターへ集約します。
財務会計プラットフォームの刷新
DXの一環として、トリドールHDは財務会計プラットフォームをSaaSとBPOの組み合わせで構築しました。財務会計システムや経費精算システムをSaaSへ切り替え、領収書や請求書などの証憑書類、取引データ、申請業務のデジタル化を進めています。
経理業務改革の詳細
BlackLineの導入
仕訳の完全自動化において最後まで残っていた課題が、入金照合や勘定照合業務のデジタル化でした。これまでAccessやExcelなどの独自ツール、手作業による業務が残っていましたが、経理業務変革プラットフォーム「BlackLine」の導入により、これらを全廃することができました。
BlackLineは米国発のSaaSで、経理業務プロセスの可視化・標準化・自動化・統制強化を実現するプラットフォームです。グローバル150カ国で3,000社以上の導入実績を持ち、2016年にナスダック上場を果たしています。
月1,000時間の工数削減
BlackLine導入の成果として、月間約1,000時間、約6人分に相当する経理工数の削減を実現しました。手作業で行っていた照合業務が自動化され、経理担当者は集計作業からデータ分析や改善提案など、より付加価値の高い業務へシフトできるようになっています。
照合業務の自動化率は99.8%に達し、紙の印刷も大幅に削減されました。
店舗運営を支えるAI活用
AI需要予測サービス
トリドールHDは経理部門だけでなく、店舗運営においてもDXを推進しています。富士通が開発した「AI需要予測サービス」を丸亀製麺の国内全823店舗で採用しました。
このサービスは、気象データやPOSデータなどに基づいて、店舗ごとの日別・時間帯別の客数や販売数を高精度に予測します。
AI活用の効果
AI需要予測により、以下の業務が最適化されています。
- スタッフの適正配置:来客予測に基づいたシフト編成
- 発注業務の効率化:必要量の的確な見積もり
- うどんの仕込み量の最適化:食品ロスの削減
- 店舗空調の適正稼働:エネルギーマネジメントの改善
これらにより、オペレーションコストの削減と環境負荷の低減を両立しています。
グローバル展開と今後の展望
2028年に海外4,000店舗目標
トリドールHDは2021年に発表したグローバル戦略で、2028年3月までにグループ全体で海外4,000店舗(国内外計5,500店舗)という目標を掲げています。
現在の海外店舗数は約900店舗であり、目標達成には相当な出店ペースが求められます。2025年7月にはドバイにも進出し、丸亀製麺の海外展開は11カ国に広がりました。
海外事業の課題
急速な海外展開を進める一方で、海外事業の収益性は課題となっています。2025年3月期の海外事業利益率は2.3%と低水準であり、当面は収益改善が優先事項となっています。
DXによる業務効率化は、国内だけでなく海外拠点においても重要な施策です。クラウドベースのシステムにより、グローバルで統一した経理業務の標準化が可能になっています。
DX推進のポイント
SaaSとBPOの組み合わせ
トリドールHDの事例は、SaaSとBPOを組み合わせた業務改革のモデルケースといえます。システムをクラウド化するだけでなく、業務プロセス自体を外部委託可能な形に標準化することで、大幅な効率化を実現しています。
段階的なデジタル化
財務会計・経費精算からスタートし、証憑のデジタル化、最後に照合業務の自動化と、段階的に進めたアプローチも特徴的です。一気にすべてを変えるのではなく、着実にデジタル化を積み重ねることで、確実な成果につなげています。
まとめ
トリドールHDは、グローバル展開に伴うシステムの限界という課題に対し、「DXビジョン2022」を掲げて抜本的な改革に取り組みました。経理部門ではBlackLineの導入により手作業を全廃し、月1,000時間もの工数削減を達成しています。
店舗運営においてもAI需要予測を活用し、人員配置や発注業務の最適化を進めています。これらのDX施策は、2028年の海外4,000店舗という野心的な目標を支える基盤となっています。
同社の事例は、急成長する企業がレガシーシステムの限界を突破し、グローバル展開に対応するためのDXのあり方を示しています。
参考資料:
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