トランプ政権が揺るがす国際秩序の瓦解危機と日本の対応策
はじめに
トランプ米大統領が就任して1年を迎えた2026年1月、国際社会は深刻な転換点に立たされています。66の国際機関からの脱退表明、ベネズエラへの軍事介入、ウクライナ戦争への融和的姿勢など、第二次世界大戦後に築かれてきたルールに基づく国際秩序が瓦解の瀬戸際にあると多くの専門家が警告しています。
「米国第一」を掲げるトランプ政権の外交政策は、単なる政策転換ではなく、国際社会のパワーバランスを根本から変えようとする試みです。この記事では、トランプ政権1年の具体的な行動とその影響、そして日本を含む同盟国が直面する課題と今後の展望について詳しく解説します。
トランプ政権による国際秩序への挑戦
66の国際機関からの大量脱退
2025年1月7日、トランプ大統領は66の国際機関から米国が脱退するよう指示する覚書に署名しました。この歴史的な決定は、米国が第二次世界大戦後に自ら主導して構築してきた多国間協力の枠組みを根底から覆すものです。
脱退対象には国連気候変動枠組み条約、国連人権理事会(UNHRC)、国連教育科学文化機関(UNESCO)、国連人口基金など、31の国連関連組織が含まれています。さらに世界保健機関(WHO)やパリ協定からも正式に離脱し、米国国際開発庁(USAID)を閉鎖しました。
ホワイトハウスは「残留したり支持したりすることは国益に反する」と説明し、これらの機関は「冗長、管理不全、不必要、無駄遣い、他国の利益に捕らわれている、または米国の主権に対する脅威」だと位置づけています。
ルールベースから力の政治へ
専門家の分析によれば、米国は第二次世界大戦後の国際秩序の主要な設計者としての役割を放棄し、破壊者としての役割を選択したと評されています。ベネズエラへの軍事介入とマドゥロ大統領の拘束は、多国間ルールよりも力の政治を優先する姿勢を明確に示しました。
新たに形成されつつある国際秩序は、武力行使、修正主義、そして米国大陸における安全保障を基盤とするものです。このアプローチは、再工業化、経済規制緩和、エネルギー生産、新興技術における持続的優位性の確立を通じて、長期的な米国の力の地位を再活性化するという国内目標を反映しています。
グローバル課題解決の後退
国際機関からの大量脱退により、気候変動、貧困撲滅、公衆衛生といったグローバルな課題の解決は一段と遠のいています。世界が直面する越境的な問題に対処するには多国間協力が不可欠ですが、トランプ政権はこうした協調体制を意図的に弱体化させています。
特に懸念されるのは、この米国の撤退によって生じた空白に中国が影響力を拡大しつつある点です。中国は途上国への関与を強め、国際機関での発言力を高めており、国際秩序における力のバランスが急速に変化しています。
同盟国への影響と日本の立場
NATO加盟国の失望とウクライナ危機
トランプ政権のロシアへの融和姿勢が際立つウクライナ戦争の停戦交渉は、欧州のNATO加盟国に深い失望を招きました。G7や米国と環太平洋諸国との連携が手薄になったことで、欧州の安全保障体制にも亀裂が生じています。
元側近らは、トランプ政権下で米国がNATOから離脱する可能性さえ警告しており、欧州諸国は米国への依存を減らし、独自の防衛体制を強化する方向に舵を切りつつあります。
日本が直面する「ボスと部下」の関係
日本を含む多くの同盟国は、この1年間トランプ流の外交に振り回されてきました。世界の安定に向けた中長期的な戦略を練り、政策面で国際的な連携を打ち出す余裕がほとんどなかったのが実情です。
専門家の中には、米国と日本の関係が従来の「パートナー」から「ボスと部下」の関係に変質したという厳しい指摘もあります。次の日米首脳会談では、高市外交が真の対等性を取り戻せるかが問われることになります。
日本の戦略的選択肢
このような状況下で、日本には同志国と手を携え、米国から世界の安定につながる行動を引き出すために力を尽くすことが求められています。具体的には以下のアプローチが考えられます。
第一に、欧州、オーストラリア、韓国など価値観を共有する国々との連携を強化し、ミニラテラル(小規模多国間)の枠組みを活用することです。米国が多国間協調から距離を置く中、中堅国同士の協力が重要性を増しています。
第二に、地域の安全保障と経済秩序の維持において、日本がより積極的な役割を果たすことです。ASEAN諸国や環太平洋地域との関係を深化させ、米国抜きでも機能するネットワークを構築する必要があります。
第三に、トランプ政権との関係においては、批判と協調のバランスを取りながら、建設的な対話を続けることです。感情的な対立は避けつつ、国際規範の重要性を粘り強く訴えていく姿勢が求められます。
2026年中間選挙という転換点
国内政治の圧力
2026年11月には米国中間選挙が控えています。トランプ政権の過激な外交政策は国内でも賛否が分かれており、経済格差に対する不満の矛先は現政権に向かいかねません。
専門家は、トランプ政権が政策の重点を低中所得層の生活改善にシフトする可算が大きいと予測しています。中間選挙で共和党が議席を失えば、トランプ政権の外交政策にも修正が加わる可能性があります。
国際社会の対応
2025年は「極めて破壊的、混乱的、カオス的な年」として記録され、国際秩序に大量の不確実性を注入しました。そして米国がこのグローバルな混乱の主要な、あるいは唯一の原動力だったと評価されています。
しかし、中間選挙という分水嶺を前に、国際社会には米国との関係を再構築するチャンスが訪れる可能性もあります。同盟国は短期的な混乱に動揺することなく、長期的な視点で米国との建設的な関係を模索する必要があります。
注意点と今後の展望
過度な対立の回避
トランプ政権の行動に対して、感情的な批判や対立を深めることは得策ではありません。米国は依然として世界最大の経済・軍事大国であり、多くの国にとって重要なパートナーです。批判すべき点は明確にしつつも、協力できる分野では積極的に関与していく姿勢が重要です。
多極化する世界への適応
米国一極集中の時代が終わり、多極化した世界秩序へと移行しつつあることを認識する必要があります。この変化は不可逆的であり、各国は新たな現実に適応した戦略を構築しなければなりません。
国際規範の維持
ルールに基づく国際秩序が揺らぐ中でも、国際法、人権、民主主義といった普遍的な価値を守り続けることが重要です。米国がこれらの規範から距離を置いたとしても、他の国々が協力してこれらを維持していく責任があります。
まとめ
トランプ大統領就任1年で、ルールに基づく国際秩序は深刻な危機に直面しています。66の国際機関からの脱退、ベネズエラへの軍事介入、NATO諸国との関係悪化など、第二次世界大戦後に築かれてきた国際協調の枠組みが根底から揺らいでいます。
日本を含む同盟国にとって、この状況は重大な試練です。米国との関係を維持しながらも、同志国との連携を強化し、地域秩序の安定に積極的な役割を果たすことが求められています。2026年の中間選挙は、トランプ政権の外交政策に変化をもたらす可能性があり、注視が必要です。
国際社会は今、「米国第一」の単独主義と多国間協調の間で揺れています。この歴史的転換期において、各国がどのような選択をするかが、今後数十年の世界秩序を決定づけることになるでしょう。
参考資料:
- 第2次トランプ政権の動向 | ジェトロ
- How Will the Trump Administration Change the World in 2025? | Institute of Geoeconomics
- Trump 2.0 Enters 2026 in Full Force | Chicago Council on Global Affairs
- The Grand Strategy Behind Trump’s Foreign Policy | Foreign Policy
- In 2026, Trump Is Already Challenging the U.N. | Foreign Policy
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