トランプ政権が描く「強い日本」と日米同盟の行方
はじめに
2025年12月、トランプ政権は「国家安全保障戦略2025」(NSS2025)を公表しました。その初期検討段階では、米国、中国、ロシア、インド、そして日本を「世界の主要プレーヤー」とみなす「Core5(C5)」構想があったことが報じられています。
「トランプ大統領は『自立した強い同盟国』を求めている」。共和党の議員が日本政府関係者に伝えたとされるこの言葉は、日米同盟の今後を考える上で重要なメッセージです。
本記事では、トランプ政権の対日戦略と、日本に求められる「強さ」の意味、そして日米同盟の変容について解説します。
「Core5」構想とは何か
公表版には含まれなかった戦略
Defense OneやPoliticoなどの米主要メディアによると、NSS2025の初期検討段階には「Core5(C5)」構想が含まれていました。これは米国、中国、ロシア、インド、日本という5つの国を「中核大国」として位置づけ、世界秩序を管理するという考え方です。
最終的に公表された33ページの戦略文書からは削除されましたが、より長い未公開の拡張版草稿に含まれていたとされています。ホワイトハウスはこの構想の存在を否定しています。
G7とは異なる選定基準
C5の特徴は、民主主義的価値観や経済力ではなく、「ハードパワー」(人口、軍事力、グローバルな影響力)に基づいて国が選定されている点です。
G7などの伝統的な西側主導の枠組みを意図的に置き換え、多極化世界における「力の均衡」を管理することが目的とされています。この構想では、冷戦終結後の米国一極支配(ヘゲモニー)は達成不可能であり、既存の国際機関による世界の一元的統治はもはや適切ではないという認識が示されています。
欧州の不在が意味するもの
C5構想に欧州の主要国(英国、フランス、ドイツ)が含まれていないことは、注目に値します。NSSはヨーロッパ大陸を「文明的消滅の危機」に瀕していると描写し、NATOとEUの結束を弱体化させる意図があるとも分析されています。
日本がC5に含まれていることは、トランプ政権がアジア太平洋地域における日本の役割を重視していることの表れと言えます。
NSS2025の対日メッセージ
「米国第一」と同盟国への要求
NSS2025は「外交政策の目的は中核的国益の保護」だとし、「米国第一」をあらためて強調しています。
戦略では「各国が自国の利益を優先する時、世界は最も円滑に機能する」と説き、「軍事同盟から貿易関係に至るまで、米国は他国から公平な扱いを受けることを要求する」と明記されています。
さらに「米国が同盟国に豊かで有能であることを求めるのと同様に、同盟国もまた、米国が豊かであり続けることが自らの利益にかなうと認識せねばならない」と強調しています。
「自分の地域で主要な責任を」
NSS2025は、日本など同盟国に「自分の地域で主要な責任を引き受ける」よう求めています。
第一列島線内の同盟国やパートナー国に対しては、「港湾その他の施設への米軍のアクセス拡大、防衛費の増額」や「侵略の抑止を目指した能力への投資」を促すことが明記されています。
台湾をめぐっては「台湾海峡における現状の一方的変更を支持しない」とし、「台湾をめぐる紛争を抑止すること」が「最優先課題」と明言されています。
防衛費GDP比5%要求の衝撃
NATOの新目標と対日要求
2025年6月、NATOはハーグ首脳会議で防衛費をGDP比5%に引き上げる新目標を決定しました。内訳は純粋な防衛費3.5%、安全保障関連インフラ整備など1.5%で、2035年までに達成することを目指しています。
トランプ政権はアジア太平洋の同盟国にも同様の基準を求めています。国防総省のパーネル報道官は「中国の大規模な軍事力増強、北朝鮮の核・ミサイル開発を考慮すると、アジア太平洋地域の同盟国が欧州の水準とペースに迅速に追いつくべきなのは当然だ」と強調しました。
日本の現状と課題
日本の防衛費は2025年度時点で関連経費を含め約9.9兆円、GDP比では約1.8%です。2027年度までにGDP比2%まで引き上げることを決めていますが、5%となると2倍以上の増額が必要になります。
仮に防衛費をGDP比5%まで引き上げる場合、予算は約18.3兆円まで積み増す必要があります。これを消費税増税で賄うとすれば、税率を約8%引き上げる必要があり、国民一人当たり約15.3万円の追加負担となる計算です。
「イスラエルのような同盟国」
トランプ大統領に近い共和党議員は、日本政府関係者に「自立した強い同盟国」を求めていると伝えたとされています。その具体例として挙げられるのがイスラエルです。
イスラエルは米国に依存しない強い軍事力と情報収集能力を持ち、自国の安全保障を自らの手で確保しています。トランプ政権が日本に求めているのは、このような「自立」の姿だと解釈されています。
日本の対応と課題
高市政権の方針
高市首相は、日本の国家安全保障3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を見直し、2026年末までにレビューを完了させる方針を示しています。
2025年度には防衛費をGDP比2.0%に前倒しで引き上げることを決定しました。長射程ミサイルによる反撃能力の保有など、戦後の専守防衛原則からの大きな転換を進めています。
トランプ訪日と同盟の確認
2025年10月のAPEC会議に先立ち、トランプ大統領とヘグセス国防長官は高市首相、小泉進次郎防衛相と会談しました。
トランプ大統領は「米国と日本の間の貴重な同盟関係は、世界で最も素晴らしい関係の一つだ」と述べ、両国は自由で開かれたインド太平洋の維持に向けて同盟を一層発展させることを確認しました。
日米関係の緊張と課題
日米同盟は2025年に紆余曲折を経験しました。年初は良好なスタートを切りましたが、厳しい関税の賦課が安全保障関係にも亀裂を生じさせる場面がありました。
貿易合意では15%の関税が維持される一方、日本は5,500億ドル(約82兆円)の対米投資を約束しています。在日米軍の駐留経費負担に関する協定は、2027年3月の期限切れを前に2026年に再交渉される予定です。
注意点・展望
「数字ありき」を超えて
防衛費の議論では「GDP比何%」という数字が注目されがちですが、林芳正官房長官が述べたように「大事なのは金額ではなく防衛力の中身」という視点も重要です。
NATOの交渉では、トランプ大統領の「ディールを好み、具体的な数字での勝利を求める」心理的特性を活用し、5%という数字を提供する代わりに、2035年という10年の猶予期間を確保しました。日本もこうした交渉術を学ぶ必要があるでしょう。
国民の理解と議論
防衛費の大幅増額は、国民生活に直接影響を与えます。消費税の大幅増税や他の予算削減なしには実現困難です。安全保障と日米同盟の重要性について、国民の理解を深める議論が不可欠です。
理念から損得論へ
トランプ政権の対外政策は、民主主義や人権といった理念よりも、取引(ディール)と損得を重視する傾向があります。日米同盟も例外ではありません。
日本にとって重要なのは、同盟関係を「コスト」ではなく「相互利益」として位置づけ、米国にとっても日本との同盟が不可欠であることを示し続けることです。
まとめ
トランプ政権のNSS2025は、日本を含む同盟国に「自分の地域で主要な責任を引き受ける」よう求めています。初期検討段階にあった「Core5」構想に日本が含まれていたことは、アジア太平洋における日本の重要性を示しています。
しかし、それは同時に「自立した強い同盟国」になることへの期待でもあります。防衛費GDP比5%要求は、日本の財政に大きな負担を強いる可能性があります。
日米同盟は戦後日本の安全保障の基軸でしたが、その姿は変容しつつあります。「米国に守ってもらう」から「共に守り合う」パートナーシップへ。トランプ政権が描く「強い日本」と、日本自身が目指す姿をすり合わせていくことが、今後の課題となるでしょう。
参考資料:
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