トランプ主導の平和評議会が発足・国連代替の懸念も
はじめに
トランプ米大統領は2026年1月22日、スイス東部ダボスで世界の紛争解決を担うことを目指す「平和評議会」の発足式典を開催しました。パレスチナ自治区ガザの暫定統治だけでなく、他の地域の課題にも手を広げると表明し、国連に匹敵する国際機関への発展を示唆しています。
一方、フランスやイギリスなど欧州諸国は参加を見送り、「第2の国連」を生み出す動きへの警戒感が広がっています。本記事では、平和評議会の概要と各国の対応、そして国際秩序への影響について解説します。
平和評議会とは
設立の経緯
平和評議会(Board of Peace)は、2023年から続くパレスチナ・ガザ地区の紛争における和平合意の第2段階としてトランプ大統領が提案しました。2025年11月17日の国連安全保障理事会決議第2803号に基づいて設立が承認されています。
当初はガザの暫定統治を監督する機関として位置づけられていましたが、憲章上はその任務をガザに限定しておらず、「紛争の影響を受け、またはその脅威にさらされている地域において、安定を促進し、永続的な平和を確保することを目指す国際機関」と定義されています。
ダボスでの発足式典
発足式典では、トランプ大統領が「この枠組みが完全に構築されれば、ほぼあらゆることが実現可能だ」と演説。「ガザの非軍事化と美しい再建を確実にする」と述べるとともに、評議会を世界各地の紛争を解決する機関とすることに意欲を示しました。
式典にはカタール、サウジアラビア、ハンガリー、トルコなど約20カ国の首脳らが出席しましたが、米国以外のG7(主要7カ国)メンバー国の姿はありませんでした。
参加国と運営の仕組み
10億ドルで常任参加
参加国の仕組みには大きな特徴があります。10億ドル(約1,500億円)を拠出することで「永続的な加盟資格」を得られる一方、拠出しない場合は3年の任期に制限されます。
米ジョージ・ワシントン大学のポール・ウィリアムズ教授は「10億ドルで恒久的議席を与えるという提案は、トランプ氏が『金で席を買う』国連安保理にしようとしていることを示している」と指摘しています。
トランプ氏が終身議長
憲章案によれば、トランプ大統領自身が終身議長を務め、評議会執行部の決定について、いつでも事後的に拒否権を行使できる権限を持つとされています。この「拒否権を一人が握る」構造は、既存の国連安保理の常任理事国体制とも異なる集権的なものです。
約35カ国が参加の見通し
参加要請を受けた約60カ国のうち、中東や親米政権の国を中心に約35カ国が参加する見通しです。サウジアラビア、トルコ、カタール、ヨルダン、インドネシアなどイスラム圏8カ国の外相は、参加で一致したと発表しています。
トランプ氏はロシアのプーチン大統領も参加を承諾したと明らかにしました。
欧州主要国の不参加
フランス・ドイツ・イギリスなど7カ国
フランス、ドイツ、イタリア、ノルウェー、スロベニア、スウェーデン、イギリスは平和評議会への招待を拒否しました。
フランスのジャンノエル・バロ外相は「現時点ではフランスは受け入れられない」と述べ、評議会の憲章は「フランスの国際的な約束、とりわけ国連加盟国としての立場と両立しない」と指摘しています。
イタリア政府は「1国の指導者が主導する機関への参加は憲法に反する」として参加を見送りました。
国連との関係への懸念
欧州諸国が不参加を決めた背景には、トランプ氏に権限が集中する構造への懸念があります。憲章草案では意思決定にトランプ氏の承認を要するなど、絶大な権限が与えられています。
国連批判を繰り返してきたトランプ大統領の下で、国連安保理に代わる組織に拡大しようとしているとの指摘もあり、既存の国際秩序を損なう可能性が懸念されています。
日本の対応
慎重な検討姿勢
2026年1月17日、トランプ大統領から高市早苗首相宛てに平和評議会への参加を招請する書簡が届いたことを外務省が明らかにしました。
日本政府は「詳細を精査している。参加の可否を含めて検討を進めていく」と述べ、明言を避けています。同盟国である米国の意向と、欧州諸国との関係のバランスを慎重に見極める姿勢です。
国際秩序への影響
「トランプ国連」への道
報道では、平和評議会への参加国の約7割が専制的な政治体制を持つ国々であるとの分析もあります。民主主義国家の多くが距離を置く一方、親米独裁政権やトランプ氏に近い首脳が積極的に参加を表明しています。
既存の国連は「1国1票」の原則に基づく多国間主義を基本としていますが、平和評議会は資金力と議長への忠誠に基づく構造となっており、国際ガバナンスの基本原則との整合性が問われています。
ガザ復興の実効性
本来の目的であるガザ復興においても課題があります。評議会の枠組みがイスラエルやパレスチナの各勢力にどこまで受け入れられるか、また、欧州諸国の不参加が資金面でどう影響するかは不透明です。
今後の展望
活動範囲の拡大
トランプ大統領はガザ以外への活動拡大に意欲を示しており、ウクライナ紛争など他の国際課題への関与も視野に入れているとみられます。
ただし、主要な民主主義国家の多くが参加を見送っている状況では、評議会の正統性や実効性には疑問符がつきます。
多国間主義への挑戦
平和評議会の設立は、第二次世界大戦後に構築された国連を中心とする多国間主義への挑戦と位置づけられています。「米国第一」を掲げるトランプ政権が、既存の国際機関を迂回して独自の枠組みを構築しようとする動きの一環です。
まとめ
トランプ米大統領がダボスで発足させた「平和評議会」は、ガザ復興を超えて世界の紛争解決を担う国際機関を目指しています。10億ドルで常任参加権を得られる仕組みや、トランプ氏自身が終身議長として拒否権を握る構造は、既存の国連とは大きく異なります。
フランスやイギリスなど欧州主要国は参加を見送り、「第2の国連」への懸念を表明しています。一方、約35カ国が参加を表明しており、国際秩序の新たな断層線が生まれつつあります。
日本を含む各国がどのような対応を取るか、そして平和評議会が実効性を持つ機関となり得るかは、今後の国際政治の重要な焦点となるでしょう。
参考資料:
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