トランプ「ベネズエラを運営」発言の真意と波紋
はじめに
2026年1月3日、トランプ米大統領はベネズエラに対する軍事作戦を発表した記者会見で、衝撃的な発言を行いました。「安全で適切な政権移行が実現するまで、われわれが国を運営する」。この発言は、主権国家への内政干渉として国際社会に大きな波紋を呼びました。
翌日、ルビオ国務長官が「直接統治ではない」と火消しに追われるなど、発言の解釈をめぐる混乱も生じています。この記事では、トランプ大統領の「運営」発言の真意、ルビオ国務長官による説明、そして国際社会の反応について詳しく解説します。
「運営」発言の経緯
マール・ア・ラーゴでの記者会見
トランプ大統領は2026年1月3日、フロリダ州の私邸マール・ア・ラーゴで記者会見を開き、米軍によるベネズエラ攻撃とマドゥロ大統領夫妻の拘束を発表しました。
この会見で大統領は「安全で適切かつ慎重な政権移行が実現するまで、われわれが国を運営していく」と述べました。英語では「run the country」という表現が使われ、これが「統治」「支配」「管理」など様々に翻訳され、解釈の幅を生みました。
発言の背景
トランプ大統領がこのような発言を行った背景には、いくつかの要因があります。
政権移行への懸念 マドゥロ大統領を拘束した後、ベネズエラの政治的空白をどう埋めるかが課題でした。混乱を防ぐため、米国が一定の関与を続ける必要性を示唆したものと考えられます。
石油権益の確保 トランプ大統領は同じ会見で、ベネズエラの石油について米石油大手が権益を掌握する方針を打ち出しました。「運営」には経済的な管理も含まれていた可能性があります。
交渉力の誇示 強い姿勢を示すことで、ベネズエラの新指導部に対する交渉力を確保する狙いもあったとみられます。
ルビオ国務長官の説明
「直接統治ではない」
トランプ大統領の発言が物議を醸す中、ルビオ国務長官は1月4日、ABCテレビのインタビューで釈明を行いました。
ルビオ長官は「われわれが管理するのは今後どう進むかという方向性だ」と説明し、米国によるベネズエラの直接統治を明確に否定しました。「運営」という言葉が誤解を招いたことを認めつつ、実際には政権移行のプロセスを導くという意味だと述べました。
制裁を通じた影響力行使
ルビオ長官は、米国がベネズエラに影響力を行使する具体的な手段として、原油輸出の「封鎖」継続を挙げました。
ベネズエラ経済は石油輸出に大きく依存しており、米国の制裁は同国にとって死活問題です。ルビオ長官は、新指導部から米国が望む対応を引き出すため、制裁措置をてこに圧力を強める考えを示しました。
スティーブン・ミラー顧問の発言
ホワイトハウスのスティーブン・ミラー上級顧問も1月6日、カラカスの新政権から「完全かつ全面的な協力」を得ていると述べました。これは、米国がベネズエラを直接支配しているのではなく、新政権と協力関係にあることを強調するものでした。
新政権の誕生
ロドリゲス副大統領の就任
マドゥロ大統領の拘束を受け、1月5日、デルシー・ロドリゲス副大統領がベネズエラの暫定大統領に就任しました。カラカスの国民議会で宣誓式が行われ、ベネズエラ最高裁も行政の継続性を確保するよう求めました。
複雑な立場
ロドリゲス暫定大統領の立場は複雑です。トランプ大統領は「ロドリゲス氏はわれわれが必要と考えることを実質的に行う意思がある」と述べました。
一方、ロドリゲス氏自身は国営テレビで米軍の作戦を「残虐な侵略行為」と批判し、マドゥロ大統領の即時解放を求めています。表向きは米国を批判しつつも、実際には協力せざるを得ない状況に置かれているとみられます。
国際社会の反応
批判の声
トランプ大統領の「運営」発言は、国際社会から強い批判を浴びました。
中国 中国は米国に対し、マドゥロ大統領夫妻の「即時解放」を要求。「主権国家への公然たる武力行使に深い衝撃を受け、強く非難する」との声明を発表しました。
メキシコ メキシコのシェインバウム大統領は「南北アメリカはいかなる大国にも属さない」と述べ、他国への米国の介入を拒否する姿勢を示しました。
国際法の専門家 英国の王立国際問題研究所(チャタムハウス)は、米国のベネズエラ攻撃とマドゥロ大統領の拘束は「国際法上の正当性を持たない」との分析を発表しています。
支持の声
一方で、長年マドゥロ政権に苦しめられてきたベネズエラの反政府派や、ラテンアメリカの一部の右派政権からは、暗黙の支持も寄せられています。
「モンロー主義」の復活
トランプ大統領の言及
トランプ大統領は記者会見で、今回の作戦を「モンロー・ドクトリンの更新版」と位置づけました。モンロー主義とは、19世紀初頭にアメリカ大陸をヨーロッパ諸国の干渉から守るとして打ち出された外交方針です。
しかし歴史的には、米国がラテンアメリカ諸国に介入する正当化に使われてきた側面もあり、中南米諸国には複雑な感情を呼び起こす言葉です。
21世紀版の意味
トランプ大統領が言う「モンロー主義の更新版」は、中国やロシアのラテンアメリカへの影響力拡大を牽制する意味合いがあるとみられます。ベネズエラはロシアや中国と密接な関係にあり、米国にとっては「裏庭」における競争相手の存在を排除したい思惑があります。
石油権益の行方
米国企業の参入
トランプ大統領は、ベネズエラの石油権益について米石油大手が掌握する方針を明確にしました。「米国企業がインフラを再建し、石油を本来あるべき形で流通させる」と語っています。
ベネズエラは世界最大の原油埋蔵量を持つ国として知られています。しかし、経済制裁と設備の老朽化により、生産量は大幅に落ち込んでいました。
5000万バレルの移転
ABCニュースによると、トランプ大統領はベネズエラから最大5000万バレルの原油が引き渡される見通しだと述べました。これは、米国がベネズエラの石油に対する支配力を確立しつつあることを示しています。
今後の展望
政権移行の不透明さ
ベネズエラの政権移行がどのように進むかは不透明です。ロドリゲス暫定大統領は、マドゥロ政権の幹部であり、真の民主化を望む反政府派からは支持されていません。
自由で公正な選挙がいつ実施されるか、野党指導者が政治に参加できるようになるかなど、多くの疑問が残されています。
長期化のリスク
専門家からは、米国の関与が長期化するリスクを指摘する声もあります。「独裁者を排除するのは簡単だが、その後が困難」というイラク戦争の教訓が、ベネズエラにも当てはまる可能性があります。
国際秩序への影響
米国のベネズエラ介入が先例となれば、他の大国も同様の論理で軍事行動を正当化する恐れがあります。ロシアや中国が、ウクライナや台湾に対する自国の行動を正当化する口実に使う可能性も指摘されています。
まとめ
トランプ大統領の「われわれがベネズエラを運営する」という発言は、米国の意図をめぐる国際的な議論を引き起こしました。ルビオ国務長官は直接統治を否定し、「方向性の管理」と説明しましたが、制裁を通じた強い影響力行使は明らかです。
ベネズエラの政権移行がどう進むか、米国の関与がどこまで及ぶかは、今後の国際秩序を左右する重要な問題となっています。主権国家への介入と国際法の問題は、引き続き国際社会の注視を集めることでしょう。
参考資料:
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