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アンラーニングとは?シニア・転職者が成長し続ける秘訣

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はじめに

「ベテラン社員は頭が固い」「転職しても前の会社のやり方を押し通す」——こうした声は、多くの職場で聞かれるものです。雇用期間の延長によるシニア社員の増加や、転職が一般化した現在の労働市場において、過去に培った価値観やスキルを意識的に見直す「アンラーニング」の重要性が高まっています。

アンラーニングとは、これまでの経験で身につけた知識や習慣を「捨てる」のではなく、「取捨選択する」プロセスです。リスキリング(新しいスキルの習得)とは異なり、既存の価値観や成功体験を振り返り、今の環境に合わないものを手放すことに主眼を置きます。本記事では、アンラーニングの考え方と企業の具体的な取り組みを解説します。

アンラーニングの本質と必要性

「学習棄却」ではなく「学習の取捨選択」

アンラーニングは英語の「unlearning」を由来とし、「学習棄却」と訳されることがあります。しかし、すべての知識や経験を捨て去るわけではありません。グロービス経営大学院の解説によると、アンラーニングとは「過去の経験を通じて培ってきた習慣や価値観を認識した上で、今の自分に必要なものを取捨選択し、知識やスキルを修正していくこと」です。

重要なのは、まず自分が持っている価値観や行動パターンを「認識する」ステップです。無意識に染みついた仕事のやり方を自覚することが、アンラーニングの出発点となります。

リスキリングとの違いと関係性

アンラーニングとリスキリングは、しばしば混同されますが、焦点が異なります。リスキリングが「新しいスキルをプラスする」ことに注力するのに対し、アンラーニングは「時代に合わない知識や価値観を手放す」ことに重点を置きます。

両者は相反するものではなく、むしろ補完関係にあります。過去の成功体験が新しいスキル習得の妨げになることがあるため、アンラーニングはリスキリングの土台として機能します。古い知識の「空きスペース」を作ることで、新しい学びが入りやすくなるという考え方です。

シニア社員とアンラーニング——企業の具体的な取り組み

森永製菓のミドルシニア再活躍施策

アンラーニングに積極的に取り組む企業の一つが森永製菓です。同社は「プロティアン・キャリア」(変幻自在なキャリア)の考え方を全社に導入し、ミドルシニア向けのアンラーニング研修を展開しています。

2022年度から50代の従業員を対象にキャリア自律研修を開始し、「Will(やりたいこと)・Can(できること)・Must(求められること)」を再考するプログラムを実施しました。累計230名以上が受講し、研修後は個別面談による継続的なフォローも行っています。

さらに、56歳以上のミドル・シニア人材の活躍度について各部門長へのアンケートを実施するなど、組織的な現状把握にも力を入れています。

定年延長時代のシニア活用

2022年4月には大和ハウス工業が60歳での一律役職定年を廃止し、60歳以降も役職任用や昇格の機会を設けました。給与も60歳までの水準と同等とし、シニア社員のモチベーション維持を図っています。

こうした制度改革は、シニア社員がアンラーニングに取り組む環境整備の一環です。「年齢を理由に成長を諦めない」という前提を制度的に保障することで、学び直しへの意欲を引き出す狙いがあります。

転職者とアンラーニング——「有能さの罠」を避ける

前職の成功体験が最大の障壁

転職市場が拡大する中、中途採用者のアンラーニングも重要なテーマです。立教大学の中原淳教授は、中途採用者が陥りやすい問題として「コンピテンシー・トラップ(有能さの罠)」を指摘しています。

前職で優秀な成果を出していた人ほど、過去の成功パターンに固執し、新しい環境への適応が遅れるという現象です。「前の会社ではこうやっていた」という発言は、転職先で「出羽守(でわのかみ)」と揶揄される原因にもなります。

「暗黙知」のアンラーニングが最も難しい

研究によると、社内用語や業務フローといった「形式知」よりも、仕事の進め方や人間関係の築き方、社内政治といった「暗黙知」のアンラーニングが最も困難です。

学術研究が示すように、人間のスキルや有能さは「ポータブル(持ち運び可能)」ではありません。前職で発揮できていた能力が、環境が変われば機能しなくなることは珍しくありません。転職者には、虚心坦懐に新しい職場のやり方を学び直す姿勢が求められます。

注意点・展望

アンラーニングを推進する際には、いくつかの注意点があります。まず、「過去の経験は全て無駄」という極端なメッセージにならないようにすることが重要です。アンラーニングはあくまで取捨選択であり、長年の経験で培った専門性や人脈は大きな財産です。

また、アンラーニングは個人の努力だけでは限界があります。組織として心理的安全性を確保し、「変わること」を評価する文化を醸成する必要があります。マンパワーグループの調査では、シニア社員の継続雇用に向けた施策として「給与体系の適正化」(32.5%)や「勤務時間のフレキシブルな対応」(31.5%)が上位に挙がっており、制度面の整備も欠かせません。

今後、定年70歳時代の到来や転職の更なる一般化に伴い、アンラーニングの重要性は一層高まるでしょう。生涯にわたって「学びほぐし」を続けられる人材と組織が、変化の激しい時代を生き抜く鍵となります。

まとめ

アンラーニングとは、過去の知識や価値観を意識的に見直し、今の環境に合わないものを手放すプロセスです。シニア社員の増加や転職の一般化を背景に、企業と個人の双方で注目が高まっています。

森永製菓のような研修プログラムの導入や、大和ハウス工業のような制度改革が進む一方、転職者には「有能さの罠」を避けるための自覚的なアンラーニングが求められます。新しいスキルを身につける前に、まず自分の中の「当たり前」を点検することが、継続的な成長への第一歩です。

参考資料:

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